第35話 陰口を叩くべきか、本人に伝えに行くべきか

 よう、古城ろっくだ。

 今日はシラフで失礼するぜ。本当なら何かしら用意したかったんだけどな。先日キャプテンモルガンでラムコーク作って飲んでたら、うっかり限度を超えてしまってさ。軽い二日酔いになっちゃって……

 いや、あれ美味いな。個人的にはもっと癖のあるマイヤーズの方が好きだけど、モルガンは酒が苦手な人にも勧められる。もし甘いのが苦手でなければ、って条件付きだけどさ。

 え?「私を酔わせてどうするつもりなの?」って?

 いやいや、何も変な気はないよ。ただ自分が二日酔いを食らった腹いせに、誰かを道連れにしてやろうと思っただけさ。ソフトな八つ当たりだね。


 さて、とりあえず今日はお茶にしようか。たまに急須で入れた緑茶が恋しいこともあるよな。

 他人に茶を淹れる時の作法なんざ知らないんだが、飲んだら一緒だろ?みたいなワイルドな雰囲気を楽しんでくれ。


 ――コホン。本題に行こう。


 今日は『ネットで誰かの陰口を叩くのと、本人に直接悪口を叩きつけに行くのと、どっちの方が悪口を言った人がマシに見えるか』って話題だ。ちなみに『そもそも悪い話をするな』って意見は認めるが、今回の本論はそこじゃないので割愛する。

 うーん、ちょっといくつか例を出してみようか。まず、前提条件としてXさんという人がいたとしよう。彼が何かしら、悪い事をしたとする。

 うーん、そうだな……たいした悪事じゃない方がいい。例えば『自分の小説の中で男女差別を助長するような内容を書き、カクヨムに投稿した』って感じだ。いわゆる誤解を招く表現ってやつだな。

 さて、このXさんだが、案の定悪く言われることになる。この時なんだが……




 まったく見ず知らずの、Xさんと何の関係もない他人であるAさんは、Xさんの作品の応援コメントに『それは男女差別です。Xさんは最低ですね』と書きこんだ。

 もちろん、その応援コメント欄は他の読者も読めるところだ。誰にでも閲覧可能で、魚拓さえ取れるほどのオープンチャンネルだな。Xさんのファンや友達はショックを受けるだろうぜ。


 同じく赤の他人であるBさんは、自身のエッセイでXさんを痛烈に批判した。こちらもオープンチャンネルなのだが、Aさんと違うのは『Xさん本人には通達がいかないから、陰口になりかねない』ってところだな。

 しかも間接的に被害を広げることになる。


 さて、Xさんとは他人だがBさんと友達であるCさんは、Bさんのエッセイの応援コメント欄に『Xさんは悪い人ですね。私もXさんが大嫌いになりました。あんな人の作品なんか読みません』とコメントした。これは偏見も混じった陰口だな。

 Cさんの特徴としては、自分一人だと何も言わないけど、友達が何か文句を言えば乗っかるんだね。炎上が好きなのか、もしくは友達付き合いがいいのか、どっちだろう?

 いずれにしてもXさんは、自分の知らないところでCさんに誤解されてしまったわけだ。ああ、残念。


 これまたXさんとつながりのないDさんは、なんとツイッターでXさんを攻撃し始めてしまった。やってることはBさんと似ているけど、肝心のカクヨムアカウントを危険にさらさない手法であるっていうノーリスク戦法なのが特徴だね。

 ついでに言えば、本来ならカクヨム内での批判にとどまるはずだった事件をツイッターまで広げて延焼させてしまっている点にも注目だ。きっと多くの人にこの事件を知ってほしかったんだろうね。


 Eさんはネット小説そのものに関心が無かったけど、DさんのツイートをRTしてしまった。きっと何かキーワードがあれば広めるBOTか、そうでなければ何でも鵜呑みにする人なのかもしれない。


 ところで、このXさん。実は他のサイトでも活動している。そっちではカクヨムと違い、個人メッセージを送ることも出来た。

 Xさんと知り合いではないけど同じサイトを使っていたFさんは、そのサイトを利用して、Xさんに個人メッセージで『あれは男女差別だよ。最低の行為だ』と批判した。

 これはXさんのファンとかの目につかない方法だね。誰の目にも付かないから、Fさん自身はもっとも安全な位置からXさんを直接攻撃できる。

 余計な被害を広げないと言えばポジティブに聞こえ、世間の目の届かないところでしか文句を言えないと言えばネガティブに聞こえるぜ。Xさんの悪評が広がることも無いけど、Xさんのファンたちから叩かれることも無い位置を狙ったわけだ。


 Gさんは、Xさんを名指しで批判するのではなく、ぼかして批判した。伏字にするとか、一部の文章を改ざんして引用するとか、そんな感じでエッセイを書いたんだ。もちろん内容はズタボロの批判ね。

 なるほど。これならGさんのお気持ちを表明できて、しかもXさん本人が傷つくことも無い。頭がいいね。誰も傷つけないクリーンな方法だよ。


 ……おや、そうでもないのかな?

 Gさんの書いたエッセイに、見ず知らずのHさんから応援コメントが届いたよ。『うわー、これってZさんの事ですよね。Zさんは最低です。私はGさんを支持します』だって。

 どうやら何か勘違いをしてしまったようだね。Gさんがちゃんと『Xさんの批判です』って書かないから、全然関係ないZさんに矛先が向いてしまった。


 またGさんのエッセイに応援コメント。今度はIさんからだ。『私はZさんのファンだったのに、こんな酷い事を言うなんてGさんは最低です。嫌いになりました』だって。

 いや、あの……誤解なんだよ。GさんとIさんが争う必要なんかないんだよ。お互いが傷つく必要は何もないんだ。あー、もう。Gさんがハッキリ言わないからー!!


 今度はGさんと親友だったJさんだ。JさんならGさんの気持ちを理解してコメントをくれるに違いない。なになに……『Gさん、これって私のことですか?私はGさんを友達だと思ってたのに、酷いです』だって。

 ジーザス。Jさんも偶然、Xさんと似たような小説を書いていたんだね。これはとんでもないフレンドリーファイアだ。でも弁明する機会は……ああ、失われたか。JさんがGさんをブロック&ミュートしました。今更Gさんが何を言っても無意味。

 うーん、Gさんは良かれと思って、Xさんの名前を伏せたんだけどね。


 Xさんにも一応、お友達は沢山いるんだ。そのうちの一人であるKさんは、Xさんにメールをする。『Xさん。大変ですよ。BさんとDさん、それからGさんとLさんが、Xさんの悪口を言ってますよ。こいつらどうします?運営に通報しますか?』って。

 うーん、Xさんはその報告を聞いてどう思うんだろう。「教えてくれてありがとう」ってなるのかな?それとも「そんなこと知りたくなかった」ってなるのかな?

 ん?……Lさん?


 この事件と全く関係のないLさんって人がいるんだけどさ。彼は自身のエッセイで、Zさんの悪口を言っていたのね。もちろん、Zさんの名前は伏せて、誰に当てた批判だか分かりにくくして、ね。

 でも、さっきのKさんはそれを「Xさんへの批判だな」って勘違いしちゃったんだね。あーあ……




 キリがないから、この辺でやめておこうか。僕もよくこんなにスラスラと出てきたもんだと感心するよ。まだまだネタはあるし、多分ちゃんと煮詰めたら長編小説が書けるぜ。

 まあ、なんでこんな話が次から次へと出て来るかというと、実際に似たような現場をいくつも見てきたからだね。

 今回はあくまで〇さん個人の話みたいに語っているけど、これが数人~数十人の集団だったりすると、もう少し話は変わってくる。

 例えばGさんのエッセイを勘違いで批判したIさん。彼が『Iさんたち』と呼べるほどの勢力を持っていたら、Gさんは袋叩きだ。もしかするとHさんクラスタがZさんを袋叩きにしたかもしれないし、逆にHさんがZさんクラスタから潰されていたかもしれない。


 最近、そんな話が身の回りに多くてね。疲れるのさ。

 特にこの手の話って突き詰めるとみんながダブルスタンダードに見えてくるだろうし、みんなが善悪の基準を勝手に持っているからさ。

 ……何より、これで戦う必要がないはずの人が戦う羽目になるのは見たくないよね。いや、その戦いが『作者同士で作品をかけた戦い』なら見たいよ。それは面白い議論になるはずだから。

 でも、最近はそれが作者の人格否定まで発展するケースが多い気がするんだ。


 どうせ喧嘩するなら、最後まで徹底的に相手をねじ伏せればいいのにさ。必ず最後はみんなが被害者ぶって、修復できない傷を勝手に作っちゃうのさ。

 だから、本来なら『勝ち負け』で済んだはずの溝を、自ら『埋められない決別』にしちゃうんだよね。当てつけのようにアカウント消したり、誤解だけで相手をブロックしたり、関係ない人まで気まずくなったり……


 ゴメン。こんなつまらない話にするつもりは無かった。

 僕も疲れているのかな。ああ、酒があれば笑い話にできたかもね。本当にごめん。

 僕はこんなクソったれな世界が、それでも大好きだよ。触れ合えば傷つけることもあるだろうけど、それでも誰とも交差しない世界より、ずっと好き。

 君は上記のどのタイプに当てはまる?……あるいは、どのタイプが好き?

 どのタイプであっても、これからも僕と友達でいてくれたら嬉しいな。僕もこんな程度の話題で人を嫌いになりたくないし、君の一側面だけを見て君の全てを否定したくないんだ。

 僕も僕の一側面だけを見られて、僕を否定されたくないんだ。

 ……次にエッセイを書く時は、なるべく酒を入れた状態で書くようにするよ。

 今日はすまんかったね。

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