第24話 ピアス開けるのに失敗した話

 ……

 ……あ、えっと、

 よ、よう。古城ろっくだ。あ、あのさ。すごくカッコ悪い話をひとつ、しようかと思う。ちょっと付き合ってくれ。

 ああ、その前に注意事項。


※この文章は、思った以上に度胸のなかった古城ろっくの間抜けさを、コミカルに描いたジョークエッセイです。ピアッサーのメーカーに対する批判、またはこれからピアスを開けようと思っている人への批難などの意思は一切ありません。


 こんなこと書かなくても分かってる人は多いと思うんだが、まあ一応な。




 さて、本題。

 とりあえずピアスを開けたいと思ったものの、何をどうしたらいいのか分からない古城ろっく。

 何しろ、人生で初めての経験である。しかも場所が場所だけに(察しろ)誰かに聞くのも何か嫌で、どうしたものかと迷っていた。

 とりあえず自分でやるにしても機材ピアッサーは必要だろう。当然のことだな。なので、店内で迷子になることでおなじみの激安の殿堂なあれに頼ることにした。何が良いのか分からんので、こういう時は店内の人気No.1商品を選んでおく。

 990円とはずいぶん安い。……ああ、使い捨てなんだな。じゃあ左右に開けるなら2個買わないといけないのか。なるほどなるほど。

 棚にある手書きポップの『そういえば片耳にしか開けられません』って文章がじわじわと笑いを誘う。特に『そういえば』の部分。この書き出しから始まるポップって、書いた人は天才だな。

 店内にあるのは基本的に二種類。耳たぶ用と軟骨用である。何が違うのかと思ったら、耳たぶの方が薄いから、ピアスも短いらしい。ふーん。

 今回の僕の用途に合ったものは当然のように無い。が、それは気にしないことにしよう。耳たぶ用で大丈夫だよな。きっと似たようなもんだと思いたい。


 パッケージを開けてみる。説明書を読むぞ。

 ……ふむふむ。

 なるほど分かった。どうやら本体をスライドさせて、強く押し込むと『バチン!』って感じで一発貫通するらしい。ちなみに十分なパワーを得るため、途中にツメがあり引っかかる仕組みになっている。

 このツメを折るほどの力を加えて、一気に刺すわけか。なるほどなるほど。

 さて、実際にやってみよう。


 今回狙う的だが、非常に小さい。ズレると当たらない可能性や、当たってもきちんと穴にならず欠ける可能性がありそうだ。で、ツメで引っ掛かるところまで押し込んで狙いを定めるんだが……

 間隔が開きすぎている。

 あれ?僕はてっきり針とキャッチで挟み込んで狙いをつけるものだと思っていたのだが、違うのか?針とキャッチの間には1センチ近い隙間が空いていて、どちらに合わせればいいのか分からない。


 針に合わせて、そこにキャッチを押し込む感じで良いのか?

 それとも逆に、キャッチに合わせてそこに針を持ってくる感じが良いのか?


 分からん。前者に合わせてみよう。

 今回狙う位置だが、割とちゃんと当たってくれる。狙いが外れたらどうしようかという僕の心配は杞憂に終わったぜ。耳と違って目視で確認できる場所なのはありがたいな。

 あとは見ながら押し込むだけだ。

 目視で確認。そんなに鋭くもない針……いや、いっそ金属の棒と呼んだ方が合ってるか。先端にキャッチ用のくびれがあるだけの、細い棒。これを押し込んで、貫通させるだけだ。

 よーく見て、

 しっかり狙って、


 スリー、

 ツー、

 ワン……


 ビーダシュート!(?)


 ……

 はー、

 はーっ、

 はあ、はあ、


 いや出来るか―っ!!

 やべぇ。すげー手が震える。力が入らない。

 なまじ直接見えているから余計に怖い。見えない方がずっとマシってレベルで怖い。タンマ!


~10分後~


 復活。これ構えるのも慣れてきた。

 一度狙いをつけてしまえば、そこからずれることはなさそうだ。場所的にも意外と安定して構えられる。ってことは、

 見ないでバチンとやっても良いわけだ。

 タイミングも取らない。カウントダウンとか自分で恐怖を煽るようなものじゃないか。もっとこう……ググっと、ゆっくり力を入れていけばいいんだよ。そのうちいつの間にかツメが折れて、「あ、刺さったの?」って感じで行ってくれるに違いない。

 もうこうなったら、一番の敵は痛みではなく恐怖である。刺さってしまえばどれほど痛くても関係ないもんね。ふんふふんふふーん。


 それじゃあ、行くぞ。

 あれ?意外と硬い。これ本当に折れるの?

 なんか片手の握力じゃ解決できないほどに硬いんだけど?本当にプラスチックかコレ?

 両手に持ち直して、最大限の腕力で押す。きっとまだ怖さがあって力が入らないか、あるいは針の微妙な刺激のせいで力が入らないんだろうな。そりゃこんなところに針先が当たってたら、くすぐったくて力も抜けるって。

 ……真面目にやろう。

 はぁぁあああああ!


『パチン!』


 あ、刺さった?

 なーんだ。思ったより全然痛くないね。本当ならそこそこの痛みは楽しみの範囲だったのに、期待外れもいいとこ……

 いや、待って。

 刺さってない。どころか、閉じてもいない。でも、きちんとツメは折れてる。

 折れたツメが内部で引っ掛かり、そのせいで2段目のところで止まった状態になっているようだ。ついでに言うと、爪を取り除いた先に3段目(?)の突っかかりも確認できる。

 ふむ……

 本来なら一つ目のツメが折れた時、スパーンと最後まで押し切られる仕組みだったのだろう。しかし弾詰まりジャムったことにより、途中で停止。最終ステップの引っかかりを残したままになったらしい。


 これ、使い捨てだったよな。

 うわー。じゃあこれ失敗で終わりじゃん。






 ……2度打ちと呼ばれる禁じ手があるらしい。ツメが折れた状態のまま、それでも力任せに押し込んで貫通させる方法だ。

 せっかくだから、最後に試してみよう。それで終わろう。

 ツメの折れたピアスは、キャッチに押し込まれる寸前までは抵抗なく押せる状態のはずだ。最後にキャッチにセットする抵抗があるが。

 針を再びあてがって、狙いを定める。今度は反対側からキャッチも押さえてくれる。完全に挟まれた状態だ。

 ここから力を加えて、ゆっくりと刺していく。


 まず、イメージしていた感覚と違う。

 もっと、こう……まずは表面から血が出て、それから奥深くの細胞を貫いていくように順番にやっていくイメージだった。でも違う。

 実際には、奥の細胞から潰していくような感触。多分、一番表面の皮膚が破れるのは最後だ。

 潰して、潰して、潰して、

 中身がぐちゃぐちゃになったあと、最後に薄い皮膚が裂けて、穴が開く。

 それを一瞬で――順番も知覚させないほどの刹那の一撃で――決める。

 それがピアッサーという装置なのだろう。

 こうして当てているだけでも、穴が開いたような痛みはある。それこそ間違って怪我をしたときより痛い。奥の方までしっかり貫通する痛み。

 でも、針を外してみると血は出てない。いや、内出血のような状態にはなっているのかもしれない。患部に触るとびりびりと痛み、そもそも潰した形のまま戻らない。

 こうやって、自分の手で押せる範疇まで押し込んで、途中で少し休憩。今感じている痛みに慣れてきたら、また少しだけ押し込む。

 さっきの位置と、今の位置。

 さっきより深くまで押し込まれているのだろうか?それとも、無意識で一度戻して、それからさっきと同じところまで押しているだけなんだろうか?

 もし、ただ同じところをぐりぐりしているだけなら、何も進まない。でも、少しずつでも進んでいるなら――このまま時間をかけていけば、いつか貫通する。そのはずだ。

 もう少しだけ、痛い所へ……

 もう少しだけ、強い力で……


 ……んっ

 気持ちい

 いや趣旨変わってんじゃねーか!!

 あー、やめたやめた。なんか全部アホらしくなってきた。

 誰かにやってもらうのが一番だな。……いや、それも恥ずかしいな。やっぱ今の提案は無しで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る