第17話 うちの宗教の教えじゃないんだけど、三尺の箸

 よう、古城ろっくだ。神も仏も信じない極悪人だ。

 え?そんな奴は地獄に落ちるって?

 あははははははっ。地獄も天国も信じてねーよ。ついでに言えば輪廻転生も信じてない。結局あんなもんは死後の世界で再会したい誰かがいる奴が作った妄想に過ぎないぜ。

 ……いや、僕にだってあの世で会いたい友人くらいはいるんだよ。特に、以前バンド組んでたギターの子な。あと中学校の頃のクラスメイトの女子とか、小学校の先生とかな。

 まあ、でもそれと死後の世界を信じるかどうかは別問題なんだ。

 あ、君たちが何を信じていたとしても、その宗教で軽蔑するようなことは無いから安心してくれ。君たちがブードゥー教だろうがオウム真理教だろうが悪魔崇拝者だろうが気にしないぜ。


 さて、そんな僕だが、経典や聖書を『おとぎ話』として読むならそんなに嫌いではない。あくまでフィクションの作品に対してまで真実を追求する必要は無いからな。

 今回は仏教の教えから、『三尺の箸』って話をご紹介して、僕なりの解釈を付け加えよう。ちなみに、もうその話の原典知ってるよって人は、次の行間まで読み飛ばしてくれ。


 ここからは、知らん人のために一応紹介。

 仏教の教えで、天国も地獄も似たようなところだって内容の話があるんだよ。

 天国には、豪華なご馳走が並んでいる。もちろんいくら食べても構わん。勝手に補給されていくから好きなだけ食えばいい。飢えを知らない夢のような世界だ。

 ……まあ、飽食の時代に生きる現代人にはピンとこないわな。でもそういうもんだと思ってくれ。

 さて、地獄はどんな感じなのかと言うと……

 これまた地獄にも、豪華なご馳走が並んでいる。もちろん食うなとは言わん。勝手に補給されていくから好きなだけ食えばいい。

 地獄とは思えないわな。でもこの話に出てくる地獄はそんなもんなんだ。血の池とか針の山とかないわ。

 で、天国には善行を積んだ人間が集まる。地獄には悪行を続けた人間が集まる。これは普通だな。

 もう一つ重要なポイントがある。タイトルの通り、この世界に用意された箸の長さは3尺(90センチ)だ。菜箸ですら30センチくらいしかないことを考えれば、これがどれほど長いか分かるだろう。

 さて、これでどう飯を食うんだよって話だな。

 え?手づかみ?いっそ箸を折れ?……うん。それ僕も思ったわ。でもルール上ダメってことにさせてくれ。話が進まないから。

 さて、他人を蹴落として自分の利益しか考えなかった地獄の連中は、この箸の使い方をすぐに思いつく。

「そうだ。他人の皿から料理を奪い取るための箸なんだ」

 そう考えれば、確かにテーブルの向こうまで届きかねない箸は使い勝手のいい武器になる。そうして始まるのは奪い合いだ。

 ただ、奪ったはいいものの自分の口に運べない。片腕より長い箸なんだ。めいっぱい右手を伸ばしても、口より左に箸先がある計算になる。え?腕が長い人は食えるって?……うん。それ僕も思ったわ。でも黙ってて。

 さて、一方で天国はどうだろう?

 天国にいる人間は、自分の利益より他人を思いやって生活してきた。だからこそ、この箸の使い方が分かる。

「これは、誰かに料理を食べさせてあげる箸なんだ」

 そう気づけば、自分の口に何も運べなくても構わない。誰かに食べさせてあげて、相手が喜ぶ顔が見られればいいんだ。

 そうやって譲り合っていれば、やがて自分の元にも誰かが料理を差し出してくれる。みんなで食べさせ合えば、飢えることもないわけだ。え?もう死んでるから飢えも何もない?……うん。分かった分かった。君は頭がいいな。よしよし。


 まあ、この話が何を言いたかったかってーと、

「自分の居場所を天国にするのも地獄にするのも、そこにいる人たち次第」

 ってことだな。どんなに満たされた環境でも「衰退国日本」とか言い続けてたら地獄に変わるって話。みんなで知恵を出し合って頑張れば、地獄も天国に変えられるって話。そんな教訓だ。

 どこかの宗教オタクにも聞かせてやりたい話だな。まあ、わからんたかもしれんが。


 さて、ここからが本題。つーか、僕が言いたかったこと。

「地獄も案外捨てたもんじゃ無くね?」

 って話。

 僕もどちらかと言えば地獄の住人なんだろうな。お互いに「あーん」とか「あ~ん」とか「あーんっ」とか、そんなことするキャラじゃないんだよ。それはどこかのノクターン所長の趣味だ。

 むしろ他人の料理まで強奪して、ついでにその箸で相手の目を突いて頭叩いて、目の前に食えもしないご馳走並べて「酒池肉林じゃ!」とか言ってる方がまだ性に合ってる気がしないか?僕にはね。






 僕の書いている小説に、こんなセリフがある。


「いいかね?吾輩にとって一番悔しいのは、戦ってもらえない事だ。せっかく挑んでいるにもかかわらず、所詮は古臭い自転車と馬鹿にされて、相手にもしてもらえない。それが一番悔しいのさ」

「だから、君たちが吾輩と真剣に戦ってくれたこと、嬉しかったよ。きみは戦うことが誰かを傷つけると思っているようだが、世の中には戦わないことで傷を負う人間もいるのさ」


 チャリンコマンズ・チャンピオンシップ

 第35話 始める切っ掛けと罪が生まれた日 より抜粋。

 いかにも自転車乗りらしくていいセリフだろ。まあ敵キャラのセリフなんだけどな。

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