(5). 魔王様は機嫌がよろしい
「グレアムとの連絡が途絶えただと? 」
「はっ、そのようにございます」
いかにもな円卓のいかにもな椅子に座り、ギルバート大魔王は下っ端魔王の報告を受けていた。
「あやつは最もエルドレッドの首に近かったはず。あの男が王を殺してすぐに戻ってこないわけがないのだがな」
魔王を下がらせると、大魔王は緩慢な動きで腕を組む。
「さて、四天王の仲間として主らはどう思う?」
円卓には、透き通るような水色の髪の少女、硬い土のようにごわついた茶髪の青年、燃えるような赤髪の女性がいた。
「キャハハッ、新しい勇者に殺されたんじゃないのー?」
「おい! 大魔王様に向かってなんて口きいてんスか」
「奴は四天王の中でも数合わせ。私も同意見にございます」
「……自分も同感ッス」
ケタケタ笑う少女を青年がいさめるも、考えは同じだった。
「フハハッ、フハハハハハッ!」
「いかがなさいましたか、大魔王様……?」
「ついに、ついにこの時が来た! 喜べ、我らが元へ真の勇者が現れる日は近い!」
「ホントに? やったぁ!」
「自分、ゾクゾクしてきたッス!」
はしゃぐ三人に対し、女性は一人思案する。
「あの、大魔王様。発言を許可いただけますでしょうか」
「申してみよ」
「お言葉ですが、まだ見ぬ勇者に期待をよせすぎるのは早計かと。まだ、勇者について正確な情報がありません 」
「一理あるな。して、どうすると?」
大魔王の上機嫌に水を刺す女性を、他二人はハラハラしながら見つめる。ここで発言を間違えば、四天王の座などすぐに入れ替わってしまう。
「そこで、私が先行して勇者と接触を図り、その者が真の勇者であるか見極めて参ります。お許しをいただけませんか?」
「この段階での勇者との接触か……」
大魔王の声音が数トーン下がった。息のつまるような数秒ののち、大魔王が叫ぶ。
「熱き展開が目に浮かぶわ! よいぞ、行って参れ!! 報告を楽しみにしておるぞ!!」
機嫌を損ねるどころかさらに興奮し始めた様子の大魔王に、少女と青年は胸を撫で下ろし、すかさず便乗した。
「ずるーい! あたしも行きたいー!!」
「自分だって行きたいッス!」
「四天王がそろっているならそれもまた一興であろう。しかしあいにく、席が一つ空いている。間に合わせで入れてやったグレアムも生死が分からぬ以上、主らは留守番だ」
最近は勇者がすぐに死ぬためなかなか会えないだけに、四天王は……そして、大魔王はイベントに飢えていた。
ちぇっと口を尖らす少女をチラリと見やり、女性は微笑んだ。
「では、行って参ります。朗報をご期待くださいませ」
「むぅ……いってらっしゃーい」
「気をつけて行ってくださいッス!」
アルセルクからミスティリオまでの距離など、魔王にとっては大した問題にならない。
あすあさってには聞けるであろう報告を思い、大魔王の口から笑いが止まらなかった。
「勇者よ、我が前に現れる日を楽しみにしておるぞ!! まだ見ぬ貴様の姿を思い浮かべては、眠れぬ夜を過ごしながらなぁっ!」
「大魔王様、ちょー乙女……」
「仕方ないッスよ。勇者大好きなんスから」
「フハハハハッ、フハハハハハハハハハッ!」
大魔王の高笑いは円卓の間にいつまでも響いていた。
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