第76話 接触

 俺はヴァイスに案内され、前線基地近くの丘の方へと向かう。

 その丘の上には奇妙な形をした、まるでキノコの様な時計塔が建っている。

 時計塔の近くに着くとそこからグラデツの街を一望することが出来る。

 グラデツの周辺には工場らしき建造物が見えるが、戦争が原因なのか稼働している工場が無く、煙突から煙は見えなかった。


「すごく良い天気なのです、カズト様!」

「そうだな、曇り一つ無い青空だな。それに景色も良い!ありがとうなヴァイス」

「エヘヘ、どういたしましてなのです!!」


 本当にこんな所で戦争があるのかと思うくらいの静かで陽気な日だ。

 こんな平和な日々が続けば良いのに……。

 俺はそう思っていると、微かに人の声が聞こえてくる。


「こんな所に丘があるんだな!」

「ああ、調査したが、ここがグラデツ地域で一番遠くの景色が見れる場所だそうだ」


 俺は味方の兵だと思い、声のする方へと顔を向ける。

 するとそこに居たのは、基地で見た軍服でもなく、さらに自分の変装の見た目と同じエルフだ。

 すぐにヴァイスを俺の後ろに隠れさせた。


「おい、無人だと思ったら俺達と同族の先客が居たぞ!」


 や、ヤバイ!気付かれた………。


「どうも!二人ともこの街の住人ですか?」


 あ、あれ?

 ば、バレてないのか?

 まさか街の住人と勘違いしてるのか?


「ええ、まあ、一応そうですね………」

「ここは戦場になる。早く逃げた方がいいよ」

「戦場と言っても、休戦中なんだろ?それなら大丈夫さ」

「いや、すぐに逃げるべきだ!我々は関係無い民間人を巻き込みたくない」


 ………怪しいな。

 何故そんなにこいつらはこの場所から逃がしたがる。

 まさか休戦を無断で破棄してこいつらはエスターライヒ帝国に侵攻するのか?

 今すぐにこれをパールに伝えなければいけないな。


「わかったよ!今から帰るから、ヴァイス行くぞ」

「は、はいなのです」


 俺は丘から下って基地に戻ろうとする。


「おい、君達!そっちは敵の基地があるぞ」


 俺はドキッとし、緊張する。


「み、民間人用の避難場所がこっちにあるので………」

「じゃあ俺らの所に来いよ!安全を保証するからさ!」


 すると一人の兵士が俺の腕を引っ張る。

 するとヴァイスが自分の背中に隠れながら叫ぶ。


「カズト様に触らないで下さいなのです!」

「カズト様?」

 

 オイ馬鹿!日本人の名前を叫ぶなよ!!

 ヴァイスはそれに気づいたのかすぐに口を閉じ、申し訳なさそうにこちらを見る。


「おい魔族、こいつの名前が何だって?」


 兵士達はヴァイスに詰め寄る。

 更に兵士達は俺に対して厳しい目を向ける。

 ヴァイスはすぐさま口で手を押さえ、何も言わない様にする。

 すると一人の兵士が小銃で殴ろうとする、その時。


「待て貴様等、民間人と喧嘩するな!」


 どこかで聞いたことのある声が聞こえる。

 丘の下からゆっくりと歩いてきたのは額の二本の角があり、瑠璃色の綺麗な髪に、背がヴァイス位だが胸が大きく可愛らしい鬼がそこに居た。

「あ、アオイ?」

「誰だ貴様、私の知り合いにエルフは居ないぞ。馴れ馴れしく私の名を呼ぶな」


あ、あれぇ?

間違いなく、あの時のアオイだよな?

何かめっちゃ怖くない?

まさかコレが素なのか???

するとアオイは何かに気づく。


「あ、あれ?ヴァイスちゃんじゃない!心配したんだからね!貴女、何でこんな所に………ハッ!まさか貴様がヴァイスちゃんをたぶらかしたのか?」


するとアオイは腰に着けた大太刀を鞘から抜き、刃先を俺に近づける。

や、ヤバイ!殺される!!

俺はそう思ったがヴァイスが口を開ける。


「か、彼が私のご主人様を探してくれてるのです!」

「ご主人様って、カズト様の事か?彼は敵の総大将ではないか!」


アオイがそう言うと周りに居た兵士はヴァイスに銃を向ける。


「ならばこの魔族は我々の敵ですね」


だがすぐにアオイはヴァイスを庇う。


「止めろ!ヴァイスちゃんは私の友達だ。危害を加えることは許さん。この男と一緒に我々の基地に案内しよう」


アオイは俺達を連れて行こうとするが、俺達は拒否する。


「いや、私達は来た場所に戻ろうと思います」

「そ、そうなのです」


俺達は去ろうとするとアオイは俺の手を掴む。


「何故そっちに行くん………あれ、お前、いや、貴方様は―――」


アオイは突然俺の手を強く掴むと、彼女は俺の正体を気づいたのか腕を引っ張る。

その瞬間、どこからか発砲音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る