第75話 戦場デート

 テントから朝日が漏れる。

 遠くから目覚めし代わりのラッパの音が聞こえる。

 俺は目を覚まし、起き上がる。


「おはようなのです、カズト様」


 ヴァイスは笑顔で挨拶をする。


「ああ、おはようヴァイス」

「朝食とコーヒー持ってきたのです、歯を磨いて、顔を洗ってから一緒に食べましょう」


 するとそこに置いていたのは金属製のマグカップと缶詰の野戦食(レーション)だ。

 中にはパンが入っている。


「いやー、戦場に来てるって実感するな」

「………そうなのですか?」

「まあな」


 缶をひっくり返し、パンを取り出す。

 パンは意外にもフワフワではなく、少し固めなパンで、コーヒーに合う。

 ああ、何か塗るものが欲しい。

 バターとかマーガリン、ジャムみたいなもの。

 まあ、ワガママは言ってはいけないだろう

 俺は黙々とそのパンを食べ、コーヒーを飲んだ。


「なんか物足りないけど持ってきてありがとうヴァイス」

「エヘヘ、ありがとうございますなのです」


 ヴァイスはモジモジしながら照れている。


「それにしても退屈だな、少しだけ周辺を散策しても良いんじゃないか?」

「良いんじゃないのですか?私も外に出てカズト様とデート……ではなく散歩したいのです!」

「デート……じゃあデートしに行くか!」


 デートか……そういえば人生初かもしれないな!

 ヴァイスの反応は一体どんな感じなのか。


「ほえ!?………か、カズト様とデート!?わ、わわわ私とデートなのですか?!?」


 ヴァイスはとても驚いた表情をする。

 俺はヴァイスが笑顔になると思っていたが、今のは冗談だったのか?


「あれ?い、嫌なのか?」

「い、いえ!行きたいのです!!」

「じゃあその辺を歩くか」

「やったーなのです!!」


 ヴァイスは満面の笑みでガッツポーズをする。


「その前に俺は変装するよ、外出したら怒られそうな感じだし」

「りょーかいなのです!」


 俺は一応持ってきたカツラを着け、軍服を着る。

 俺たちはそんな事をしながら、テントを出た。

 テントを出ると、外にはパールが歯を磨いている。


「………こ、これはカズト様!こんな所を見せてしまって申し訳ない」


 歯ブラシを口から抜き、コップを持って急いでうがいをしようとする。

 あれ?というかすぐにバレてしまった。

 何でだ?


「い、いや、歯磨きは続けてくれ」

「いいえ、もう終わりますから。………ペッ!」


 パールは急いでうがいをし、近くに置いてあった布で口を軽く拭く。


「この戦地でですか?………そうですねまあ、休戦中ですから遠くまで行かなければ大丈夫ですが、それならお二人に護衛を付けましょうか?」

「いや、問題無いのなら二人で行動するよ」

「………左様ですか」

「そういえば、何で俺だと思ったんだ?」


 俺はパールに正体をバレたのが不思議に感じ、質問する。


「そりゃ、カズト様のテントから出たという事もありますし、カツラも我が国では普遍的な変身用の魔法カツラですのですぐに分かりますよ。それにヴァイス……さんでしたっけ?彼女がそばに居ますからすぐに分かりますよ」

「へぇー、そうなんだ」


 やっぱ軍人はそういったことに関して理解があるんだな。


「ですが、私はそういった違いは分かりやすい人間ですから、カズト様は今エルフにしか見えませんから安心して下さい」


 パールはそう言って敬礼する。

 俺とヴァイスは基地の出入口に向かう。

 基地の出入口に着くと、周りの目線はそれほど無く、逆にエルフのカツラのせいでダークエルフから反感の目を向けられる。

 まあ、敵がエルフを多数にした敵だから仕方ないけどな。

 門番に自分はカズトだと言うと普通に門を通した。

 この国では皇帝が外に出るのは問題ない事なのか?

 ………まあ、別に良いか!

 さて、基地からは離れないようにそれだけを注意して辺りを散策するか。


「カズト様!私、行きたいところがあるのです!」

「ん?遠い場所はダメだぞ」

「大丈夫です。朝食を取りに行った時に地図を見てきたのです」

「なら、案内してくれ。その行きたい場所に」

「かしこまりましたなのです!」


 ヴァイスの案内で彼女の行きたい場所に俺は向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る