第72話 獣人暴動 

 朝に行われたカズトとカールの戴冠式は通信社が書いた戴冠式の記事と写真はニュース速報として即時に世界中の国々に配信された。

 電信や電報、電話に鳩、ワイバーンの速達などでそれらが運ばれた。

 だが世界各国の新聞社はその記事と写真を見たが、講和会議のニュースや戦争での惨状を撮った写真は高値で買い取られたが、戴冠式の写真に関しては多くの新聞社はすぐには買い取らなかった。

 だがバーベンベルクの新聞社の多くがその戴冠式の記事と写真を買い取った。

 勿論、それらはプロパガンダの材料として使われた。

 特にカズトとシルヴィが一緒に歩く姿を撮影した写真はよく使われた。

 それを『消滅間際の国家の自称皇帝のニホンジンは蛮犬と仲良くなる目立ちたがり屋』という記事で写真を載せた。

 獣人を奴隷にするエルフや人間が多く住むバーベンベルクではその記事に憤怒したり、失笑を買った。

 だがその新聞がゴミ箱などに捨てられると、新聞を買えない貧しい獣人が棄てられた新聞を拾い始める。

 勿論、ほとんど教育を受けてこなかった獣人の多くは文字が読めず、記事の内容は分からなかったが、写真だけは文字が分からなくても大多数が理解が出来た。

 高貴な服を着た人間が笑顔の獣人の子供と並列して歩くその写真は彼ら獣人にとって衝撃的であった。

 この時に獣人の心は皆、一致団結していた。

 


 翌日 バーベンベルクのとある工業都市――――――


 この街では特に軍需産業による武器の生産で連日連夜、機械と人員を動かしていた。

 この街の労働者の多くは人間(ヒューマン)と獣人、そしてダークエルフによって構成されているが、内戦が起きたと同時にダークエルフは現在のエステルライヒ帝国に逃げ、ヒューマンと獣人の二足の草鞋わらじとして成り立っていたが、ユーラ大戦でエスターシュタットでのヒューマンの地位が向上し、ヒューマンの労働者が減り、獣人の労働奴隷だけが働き続けている。

 労働奴隷の仕事環境は最悪で、食事と睡眠を除き、バーベンベルクでの労働時間の一日の平均が20時間を超え、食事も少なく、過労や栄養不足で死ぬ者も少なくなかった。

 逃げようとすると監視員が捕まえ、他の獣人に見えるように、広場に公開して獣人の目の前で逃亡者の背中に鞭を打つ。

 それが日常茶飯事だった。

 だが、ある出来事でその日常が崩れた………。

 エステルライヒ帝国の戴冠式の写真の影響は大きく、バーベンベルク全土に広がった。

 そして戴冠式の翌日の朝に発生したその工業都市のオリハルコンがよく採れる鉱山で落盤事故が発生する。


「鉱山が崩れ落ちたぞ!」

「大変だ!早く助けないと!!」


 獣人達はそう叫びながら仕事を放棄し、急いで鉱山の入口に向かい、人命救助を行おうとする。

 入口前で岩に挟まれている人や落盤した坑道から僅かに声が聞こえた。

 すると鉱山の管理人がそれを見ると、獣人に対して罵声を浴びせる。


「オイ獣ども!何故仕事を放棄してるんだ!?持ち場に戻れ!!」


 多くの獣人は管理人の発言に怯える。

 一人の獣人が震えた声で訴える。


「入口付近で岩に挟まって動けない奴が居るんだ。」


 だが管理人は鼻で笑い、その獣人の言葉を一蹴する。


「知るか、そんな奴等助けたってお前らの替わりなんて山ほど居る。そこで死なせておけ、オイ監視!」

「「ハッ!」」

「早く獣どもを働かせろ、働かない奴は飯抜きだ!」

「「りょ、了解しました!!」」


 監視員は鞭を取り出し、獣人が群がっている所に鞭を打つ。


「オラ!早く持ち場に戻れっ!!」

「飯抜きにするぞゴルァ!!」


 獣人達は堪忍袋の緒が切れ、もう我慢の限界だった。

 一人の獣人がオリハルコンの原石で管理人の頭に向けてぶつける。

 管理人はバキッという音を頭から出し、その管理人の頭から多量の血を流してその場で倒れ、即死した。

 他の監視員はそれを見て、武器を見せつけ犯人を捕まえようとするが、他の獣人の圧倒的な数によって集団で殴る蹴るなどの暴行で鉱山内のすべての監視員は殺された。

 

 ――――――獣人達による暴動が始まった。

 その情報は瞬く間に広がり、勿論獣人にも鉱山の落盤事故の情報が大都市や他の採掘場や工場地帯で広まり、各地で獣人による暴動が発生した。

 バーベンベルク王国の敵である自作のエステルライヒ帝国の国旗を掲げながら多くの工場で機械や建物が破壊され、エルフの資本家や社員は路上に引きずり出され、様々な道具で目を向けられない程に酷く惨殺され、街灯や電線に吊るしあげた。

 教育を受けてこなかった獣人たちは常識が通じず、平和的なデモは皆無であったが、獣人たちの宗教では『目には目を牙には牙を』ということを心に留め、酷いことをしなかったり、手助けを行ったりしたエルフには手を出さなかった。

 この暴動に対してバーベンベルク政府は急遽、扶桑の鹿人を中心とした治安維持軍を結成したが、同じ獣人の鹿人の治安維持軍は暴動の鎮圧に関しては士気が低く、エルフやヒューマンなどが治安維持軍として中心に戦ったが、散々な結果に終わった。

 バーベンベルクの議会では議員が緊急招集され、内戦を一時休戦の延長し、暴動の解決か、それとも休戦破棄して呆けている敵軍を素早く撃滅と同時に進軍してエステルライヒを支配し、そしてその後にその敵軍を治安維持軍の増援として暴動を解決するかを決め、最終的に議会は後者を選び、一時休戦を一方的に破棄し、エステルライヒの首都に向けて進軍が決定した。

 同時にバーベンベルクの首都に駐屯する逐鹿連隊の半数を戦場に起用し、残りの半数を内部の治安維持軍に起用された。

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