第71話 作戦会議

 エステルライヒ帝国の前線司令基地は中心部にあるこの街の中で1番高いシュロスバーグという丘の上にあり、近くには時計塔や鐘楼、公園などが隣接されている。

 その丘の上にある作戦会議場所では作戦纏まらず、彼らは地図とにらめっこしていた。


「………山岳兵によるゲリラ戦術に決まってるだろ?これに何の文句があるんだよ?」

「はあ?マジでナシよりのナシなんですけど。それじゃあ、砲兵隊と魔導隊はどうするんだよ?」

「そんなの帝都に待機させとけば良いんだよ!アンナ様が籠城するって言ってただろ?」

「オイオイ、竜騎兵にも戦果を与えろよ?マジで戦果無いとか許さないっぴ。」

「それよりも一旦休んで今日もタピろうぜ?最近物資にキャッサバが入ってたよ。」

「ありよりのあり!ってなんでキャッサバが入ってるんだよ、マジで草生えるんですけど!」


 こうしてテント内の作戦会議は『会議はタピる、されど進まず』で終わった。


「………って勝手に終わらすな、このバカどもがぁ!」

 

 大佐のパールが盗み聞きしていたのか、テントに顔を出し、作戦会議している人達に激昴する。

 テント内に居た軍人はパールの顔を見た途端に全員敬礼する。


「 「「す、すいません!パール上級大将!!」」」

「それにあれは私のキャッサバだ、貴様等勝手に使っていたなら軍法会議で厳罰に処すぞゴラァ!!」

「「「サーセンっしたぁぁぁあ!もうしません!!」」」

「そうか、なら今から作戦会議をまた始めるなら罷免してやろう。」

「マジっすか!?じゃあ会議やります。」

「パールさん、こういう所マジ鬼甘だから好きだわ。」

「………あー、それと今日は閲兵式の為に皇帝陛下がお見えになっている、さっき終わったようなもんだけど。」


 パールがそう言うと、作戦会議場は歓声を上げる。


「おお!アンナ様が来たのか!こんな所までマジあざまる水産っすわ。」

「それじゃあ、どちゃくそ秒で作戦会議を始めるか!」

「おー!マジ卍ぃ!!」

「マジ卍って、古いっすよパイセン!」

「嘘だろ、じゃあマジぽよ!?」

「うん、マジぽよ。」

「あーね、り!」


 テント内で作戦会議の用意を始めると、その場に居た一人の兵士が拳銃を取り出し、テントの入り口に向ける。


「おいどうしたヴィクトル、こんな所で拳銃を取り出すなんて早くホルスターにしまえ。」

「パール大佐殿。」

「何だヴィクトル?」

「何故、テントの外に魔族とヒューマン、そしてニホンジンが居るんですか?ボクが気づかないと思いましたか?」


 ヴィクトルのその発言に周りに居た人達はざわめき始める。


「何だって!?陛下じゃないのか!!」

「まさか大佐、我々を裏切ったのですか!?」


 パールはヴィクトルに対して怒りをぶつける。


「いい加減にしろっ!!今外に居るのは確かに皇帝陛下だ!それに今の陛下はアンナ様ではない、アンナ様は退位なされた。今の陛下はカール様とカズト様である。」

「えっ、カール様が!それマ!?」

「ああマだ。だから安心しろ。」


 他の兵士や将官は安心し、胸を撫で下ろす。

 ただ、ヴィクトルだけは溜め息を吐く。


「ハァ、こんな将官が軍の上に立つから我が軍は撤退続きなんですよ。」


 その発言にその場に居た多くがヴィクトルに怒りを向け、パールがヴィクトルに近づき、そしてヴィクトルの襟を掴む。


「何だと!?ヴィクトル、貴様伝令の分際でっ!」

「放して下さい大佐。おかしいとは思わないのですか?カール様がカズトなる男にカール様と同じ帝位を授けるなんて、ボクはすぐに気が付きましたよ。」

「つまり、どういう事だ?」

「カール様は売国奴という事ですよ。」


 そのヴィクトルの発言に他の将官は堪忍袋の緒が切れたのか、ヴィクトルに対して暴言を捲し立てる。

 大佐はヴィクトルを地面に倒し、頬を引っぱたく。


「カール様を侮辱する事は許さないぞヴィクトル!カール様は我々ダークエルフを第一に考えておられるお方だ。もしそんな発言をしてみろ、俺は貴様を憲兵に渡すぞ!」

「その通りだ、俺はカールに頼んで帝位を貰ったんだ。」


 俺はパールに外で待ってくれと言われていたが、俺は我慢出来ずにそう言いながらテントに入る。

 テント内に居た全ての将兵がこちらに対して睨んでくる。


「カズト様、私はまだ入って下さいとは――――――」

「いや、こんな一大事に外で待っていられるか?敵は目の前に迫ってるんだぞ。」


 俺がパールに対して叱責している時、周りの将兵による冷たい視線が突き刺さる。

 完全に歓迎はされていない冷ややかな状況だ。


「連絡がこちらに入らなかった様なので自己紹介する。最近カールと一緒に皇帝になった炬紫一翔(こむらさきかずと)だ、よろしく。」


 俺は挨拶をしたが、歓声などは特に無かった、まあ当たり前だけど………。

 後ろからヴァイスとセバスが入ってきた。

 でも何故かセバスやヴァイスの方が俺と比べてまだ歓迎されていた様な感じだった。

 どんだけ異世界人、もしくは日本人を嫌ってるんだよ、逆に俺がドン引きするわ。

 

「というか、さっき『タピる』とか聞いていたけど、こんな一大事にタピオカミルクティー飲んでる場合か?」


 すると横に居たパールが小声で耳元でボソボソと囁く。


「いいえ陛下、タピオカミルクティー・・・・・・ではなくタピオカミルクコーヒー・・・・・・・です。」

「えっ、何だそれ?それは美味しいのか?………いやいや、そんなのどうでも良い!それよりも今は敵が――――――」


 すると、ヴィクトルが俺の話を遮る。


「陛下。」

「何だ……えーっと………」

「ヴィクトルです。陛下は現在の内戦状況を余程知らないようですね?バーベンベルクとは今は休戦状態であります。戦いが再び始まるのは五日後でありますので今は休息をするべきでございます。」

「そんな話は我々は聞いてないし、それを信じるのかお前らは?攻められる可能性はあるだろう?」

「ええ、最初は疑っていましたが、その発表が行われて二日が経っていますが未だに攻められておりません。」


 ………意味が分からん。

 この休戦中に作戦を立てないのもそうだが、一番はバーベンベルク側が休戦を行った事だ。

 戦局はバーベンベルクの方が優勢なのに何故休戦を行ったんだ?

 財政難か?それとも兵役による人員不足か?

 そんな訳無い、それなら急いで戦いを終わらせるはずだ。

 一体どういうつもりなんだ?


「という訳で我々は休んでいるのです。」

「そ、それなら奇襲作戦とかどうなんだ?」


 俺がそう言うと、その場に居た皆の顔がまるで苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

 するとヴィクトル以外の将兵が呟き始める。


「成功したら喜べるけど、失敗したらねぇ………。」

「多くの兵士が死んじゃうかもしれないし、それに後々に批判されるかもしれないしな。」

「それに奇襲を行ったら、周りの国からどんなことを言われるか………。」


 俺は彼らの発言に呆れてしまった。

 コイツら、ヘタリア軍とか言われたイタリア軍よりヘタレだぞ。

 よくもまあこんな軍隊がこの国の国防を維持していたよ。

 そりゃ、失敗したら恐ろしいが、成功したら勝利するし、更に今後勝ち続けるかもしれないじゃないか。

 ハア………俺は何でこんな奴らの国の長になったんだ?って思ってきたよ。


「取り敢えず一時的な休息は大事だが、兵士には訓練をしておいてくれ、今からずっと休息は禁止だ。」

「そこまで休んではいない、当たり前だ。」

「あと、俺も作戦会議に出る。お前らがサボる感じがするからな。喜べ。」

「「「ええええぇぇぇぇぇ………。」」」


 将兵が俺の参加に不満を示す。

 そんなに俺の事が嫌いか!


「文句を言うなぁ!俺は絶対に参加するからなっ!!」


 俺はそのテントから出ていく。

 ヴァイスとセバスも後から付いていく。


「何なのですかあの人達!本当にカズト様に失礼なのです!!」

「まあ、これから仲良くなれば問題ないと思うけどね。」

「カズト様、カズト様待って下さい!」


 するとパール大佐が追いかけてくる。


「何だ?何か問題か?」

「い、いえ、陛下専用のテントがあるので案内させていただきます。」

「そんなのがあるのか?」

「はい、こちらです。」


 パールに俺専用のテントに案内してもらう。

 近くに居た兵士達はボソボソと話しながら俺を物珍しいそうな目でこちらを見る。

 ………おかしい。

 日本人、もしくは異世界人が多く住んでいたのがこのエスターシュタットだろ?

 ますます怪しい………この世界に来てからアレマン候国の君主以外の日本人を見たことないし、見た目が俺と同じ日本人が居ないのが謎だ。


「着きましたよ、このテントです。」

 

 パールに案内されたテントは他のテントとは違い、とても大きなテントが設置されていた。

「いやいや、こんな大きなテント必要ないよ!」

「ですが、もう既に用意しましたのでこちらで滞在して下さい。撤去するのも時間が掛かりますので。」

「………分かった、それなら使うよ。」

「ありがとうございます。」

 

 パールはそう言いながら去っていった。

 俺はテントに入る。

 意外にも価値のありそうな物は置いておらず、目立つものは銃や剣などの武器、簡易ベッド、大きな燭台が複数と、それぐらいの物しか置いていなかった。


「意外だな、皇帝専用のテントだから金目の物とか置かれていると思った。」


 セバスは俺の言葉を聞いて溜め息を吐く。


「そんな事する君主は只の馬鹿ですよ、陛下。もし負けた場合に戦利品として持っていかれたりしたら、それもそれで国の士気が下がりますよ。」

「ハハッ、それな!」


 そうか、そう言われてみれば食料とか武器、戦場で必要最低限な物しか置かれていなかったな。


「セバス、ヴァイス、明日は作戦会議に参加とこの周辺を探索するから俺の護衛を任せるけど大丈夫か?」

「任せて下さいなのです!」


 ヴァイスは元気良く返事するが、セバスはすぐに頭を下げる。


「カズト様、申し訳ありませんがカール様の護衛をするために今夜ウィンドボナに戻ります。私の代わりに明日の朝に貴方が助けたマルクスと私の部下のスラが護衛として着任しますが、宜しいですか?」

 

 まあ、セバスが信頼するスラはまだ良いけど、マルクスって護衛に役に立つのか?

 まだ子供だぞ。

 でも、俺よりカールの安全の方が大事だ。


「………分かった、それは致し方ないからそちらを優先してくれ。」

「ありがとうございます。」

「あと、俺は今から少しだけ休む。今日は色んな事をしたりしたから疲れたよ。」

「はい、了解なのです………あの、私も横で寝ても良いですか?。」

「うん、構わないよ。」


 俺はヴァイスの返事を聞き、近くにあるベッドにそのまま倒れた。

 いや、ホントに疲れた、マジで疲れた!

 もう今日の事全て忘れたい位だよ。

 少し寝よう。

 そこにヴァイスが俺の横に寝る。

 髪の毛が顔に当たるが、女性の髪の毛の様にサラサラとしていなくて少し感触がフワフワして癒される。

 そして温かい………ヤバイこれはマジで寝そ……う……………だ…………………。

 俺はグッスリと熟睡した。

 この時にある一枚のカズトが写った写真が世界に影響を及ぼした事を彼らは知らないだろう。

 その写真がこの内戦の命運が決まる事を………。

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