第70話 閲兵演説

「ダークエルフたちよ!!私は君達の安全と自由を守る君達の皇帝であり異世界の民(たみ)、炬紫一翔(こむらさきかずと)である!!!」


 俺がそう叫んだ瞬間、先程まで聞こえていた兵士による暴言や罵声、そして『帰れコール』が一瞬にして無くなった。

 少しの間沈黙が続いた途端、先ほど俺に暴言を吐いた一人の兵士が俺に対して反論する。


「う、嘘つけ!異世界人もしくはニホンジンは化け物みたいに強くて、俺達ダークエルフだけでなく敵味方関係無く殺す殺人鬼や悪魔のような奴らだって聞いたぞっ!」


 突如そんな発言が飛び出たが、そりゃあラノベや漫画の主人公は化け物みたいに強いが、

 実際の日本人がそんな化け物じみてたら日本は簡単に世界征服できるわ。

 もしそれがこの異世界だけの話なら俺の世界から来た日本人からそんな噂が出来るって、ホントに何したんだよ………。

 俺はその話を聞き、そして落ち着いて息を深く吸い込む。

 俺はすぐに冷静になり、彼らに分かりやすく鼻で笑ってにんまりと笑顔で答える。


「本当にそうか?俺は神から授けられたチート魔術や効果を頼るだけの身体は強くとも心が弱い奴等だと聞いたぞ!」


 俺がそう言うと彼らも俺の言葉に頷き、彼らから「そうだ!その通りだ!!」という声や笑い声が聞こえてくる。

 俺はこの空気をチャンスだと感じ、そのまま堂々とした態度で演説を続ける。


「俺は君達がエルフや人間の暴政から独立し、立ち向かうまるで英雄の様な人々だと俺は知っている!ダークエルフの自由を求めて戦おう!そして自由を手にしよう!!お前らは自由が欲しくないのか!?なら自由の為に戦おうではないかっ!」


 そう俺は自信満々に言うと、兵士達は先ほどの空気を一変させ、ブーイングの嵐となる。

 だが理由はすぐに分かった。

 何故なら一人の兵士が呆れた顔をしながら、こう俺に向けて叫ぶ。


「うるせぇ、自由なんて要らねぇ!命の方が大切だっ!!」


 するともう一人の兵士が続けて俺に対して叫ぶ。


「そうだそうだ!逃げて生き延びる方が良い!!」


 ………やはり死ぬのは怖いのか、それは俺もそうだし理解は出来る。

 だが、彼らには俺がもしもバーベンベルクの国王になったとしても彼らの自由どころか命を保証することができない。

 彼らは反逆者として殺されるだろう、俺の許可なしで………。

 それにバーベンベルクの軍はここを落とせば首都目前だ。

 彼らにはもう敗走出来ないし、敗北は許されない。

 すると横に居た将官は兵士に対して睨みつけ、「この敗北主義者どもめ」と呟いたが、それ以上は彼は睨みつけるだけで何も言わなかった。

 俺は頷きながらその兵士達の言葉を聞き、演説を続けると同時に彼らの言葉に答える。


「ああそうだ、その通りだ!戦えば死ぬかもしれない。そして逃げれば命は助かる。だが、何十年、何百年も後にお前らは病院で、ベッドの上で死ぬ時に思うだろう!『あの日に戻りたい』と!!今まで耐えてきたエルフや人間どもからの辛い人生を賭けてたった一度だけで良い、敵にこう言ってやろうではないか!『我々の命を奪う事は出来ても、我々の自由は奪えない!』と!!そうだろう諸君っ!!!」


 俺がそう言ったその瞬間、兵士達から大きな雄叫びが陣地内で響き渡る。

 その声は大地を揺らし、空気が震える。

 彼らは俺の言葉を聞いた途端、突然銃や軍帽を高く振り上げ、まるでもうすでに戦争に勝ったかの様な雰囲気を醸している。

 俺は士気を上げるのに成功した。

 くぅー!よっしゃー!昔観た戦争映画が役に立ったぜ!

 

「ダークエルフよ!エステルライヒよ!永遠なれっ!!」

 

 俺はこう叫びながら、この士気の高い状態を維持したまま、すぐさま作戦を考え、敵陣地に向けて一斉に攻勢を行おうと考えた。


「カズト様、とてもカッコ良かったなのです!」


 ヴァイスは演説が終わるや否や俺に向かって抱きついてきた。


「ヴァイス!お前兵士の前だぞ、抱きつくな、って全く仕方ない奴だな………」


 セバスは俺にゆっくりと近づく。

 そういえばセバスは俺を殺させないように必死に馬につけていた旗を降っていたからな。

 

「ありがとうセバス、お前は俺の命の恩人だよ」

「別に私はアンナ様の命(めい)に従っただけですので………」

「それでも感謝はさせてくれ、ありがとう」


 俺はセバスに感謝すると、ヴァイスを下ろし、自分の横に居た将官を呼ぶ。


「おい将官、君の名前は?」


 将官は口をパカッと開けたまま、その士気の急な上がり様に驚きを隠せなかった。

 

「おーい!聞いてるか!?」


 すると俺の言葉に放心していた将官は覚まし、返事をする。


「は、はい!何でしょうか!?」

「我が軍の構成を教えてくれ、あと君の名前は何て言うんだ?」

「ハッ!自分はパール大佐であります。えー、我が軍の構成は今から説明させていただきます。まず一番数が多いのは山岳兵を中心とした大隊、それから竜騎兵隊、砲兵隊、そして魔導隊がこの前線に居(お)ります。」

「パール、魔導隊とは何だ?」

「………えっ!?ニホンジンなのに存じないのですか?魔導隊は治癒魔法や魔法、もしくは魔術による後方からの支援攻撃を行う部隊です。只今作戦会議を行うのでそのテントまで案内します」

「分かった、案内してくれ」

「はい陛下!」


 魔法を使える魔導隊か………。

 いやぁー、段々と異世界になってきて楽しみだよ!

 やっぱ魔法使いの様なローブとか着けて杖とか持ってるのかな?

 うひゃあ、オラワクワクしてきたゾ!


「カズト様、戦場に来て何故かウキウキしているのです」


 ヴァイスは俺を見ながら呆れていた。

 俺は目的を忘れながら、作戦会議を行うテントにパールという男に俺達は連れていってもらった。

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