第15話 両大臣の思惑

 ―――――小さな会議室を借り、ヘルマンは一応盗聴器が無いかを確認し、全員に着席させる。

 ゲルマニアの外交官は皆ソワソワとして落ち着きの無い状態でいる。

 何故ならヘルマンの全員召集は珍しいからである。

 だから、今から何を話されるのかが心配するのは仕方が無いことである。

 ヘルマンは深い溜め息を吐く。

 ポケットから煙草のケースを取り出し、魔石で出来たライターのアナプティラスを取り出し、へルマンはアナプティラスで点けた煙草をくわえる。


 「えー、知っている人も居るかもしれないが、ヴィルヘルミナ殿下は生きている。」


 その瞬間、ゲルマニアの外交官によって会議室はざわめき始める。


 「ヴィルヘルミナ様が生きてる!素晴らしいニュースだ!!」

 「良かった!敗戦後にこんなニュースを聞けるなんて。」


 ざわめく外交官にヘルマンは深く息を吸う。


 「注目(アハトゥング)!!!」


 ヘルマンは部屋に響くような声を出し、他の外交官は硬直する。

 静かになった会議室でヘルマンは話を始める。


 「その通り、皇女殿下が戦死したという話は嘘、本当はデマだ。だが、このニュースは首都陥落級の敗戦後に流す予定のニュースだった。」


 その言葉に多くのそこに居た外交官は頭を傾げ、理解できない人が多かった。勿論外交官からの質問攻めが始まる。


 「何故そんなニュースを流そうとしたのですか?」


 一人の外交官が発言すると、ヘルマンは机を強く叩く。


 「………誰かが漏らしたんだ、この嘘情報を。これがキッカケで国内の各都市で暴動が起きた。」


 一人の外交官が手を挙げる。


 「ヘルヴェティアで駐在の大使ですが、私はそんな情報、国外では聞いてません。」


 ヘルマンは発言した外交官に呆れた顔をする。


 「情報統制に決まってるだろ、極力国外には流さないようにしている。お前それでも大使か?」

 「す、すみません。」


 ヘルマンは溜め息をつき、煙草を灰皿に擦る。


 「………話を続けるとしよう、もしエトルリアが帝国領土内を侵攻し、皇帝が殺され、敗戦した場合、ヴィルヘルミナ殿下だけでも国外に亡命させ改名し、エスターシュタートの女王として立たせ、その後にゲルマニアの皇帝の位に立たせようと帝室と内閣で話し合われた。だが、その一部の人しか知らない情報を漏らしたがために、しかも皇女殿下が戦死したと勘違いした帝国内の南部諸邦はゲルマニア帝室が弱体化したと勘違いし、連邦参議院内は分裂、帝国は南北に分断されようとしている。これだけは避けなければならず、偽情報だと報道しなければならない。」


 室内は沈黙を貫く。

 先程発言した外交官が手を上げる。


 「では、エスターシュタートの領主は一体誰を選ぶのでしょうか?」

 「先程、宰相に電報を打ったからあちらに任せようと考えているが、私の予想ではフレイヤ陸軍大臣が領主になるだろう、一応、かの名門リクベルト家の娘だしな。」


 そのヘルマンの発言にゲルマニアの外交官一同が話し合いの中での一番の驚きをする。


 「「「ええっ!?フレイヤはリクベルト家のご令嬢だったのですかぁっ!!?」」」


 ヘルマンは室内に大きく響く外交官達の声にすぐさま耳を塞ぐ。

 耳を塞いだヘルマンは、静かになったと感じた瞬間、口を開ける。


 「………ああ、そうだ、まさか君達は知らなかったのか?」

 「だって、あの野蛮な『血塗られた金色の貴公子』がユーラで二番目に古い貴族の出身で、連邦構成国家のドレスディン王国の王女殿下だなんて、到底有り得ません!」


 ヘルマンは溜め息をつく。


 「君、『野蛮』って………一応彼女は我が国の英雄だぞ。」


 だが、その外交官以外の他の外交官の反応は意外にも普通であった。


 「まあ、リクベルト家ならエスターシュタートの領主やっても信用できるな。」

 「一応、我が国の陸軍のトップだから国際情勢も一般の外交官並みには分かるだろう。」


 ヘルマンは周りを見て、一度頷く。


 「では、私の話はこれだけだ!我が国は負けたが、他の亜人国家は戦ってくれている。彼等に勝利を祈って、我々も今夜は終戦を祝い晩餐会を楽しもうではないか!」

 「「「オオオオッッ!!!」」」


 彼らの声は部屋のみならず建物全体を震わせる様な歓声を上げた。

 敗戦したのに彼らはまるで勝者の様に喜び合ったが、今の彼らの国が想像を絶するような状況になっている事を気付くのはカズト達が来てすぐだが、後で話すとしよう………。



 一方、ヘルマンを含むゲルマニアの外交官達が部屋を借りて話し合っている時、エトルリアの外相のムッツリーニは自分が泊まっているホテルの部屋に着く。

 彼は部屋から出て、無言を貫く。

 周りに居た付き人やエトルリアの外交官や軍人は心配し声を掛けるが、彼はすべて無視する。

 ムッツリーニは部屋に入ってシルクハットとコートを脱ぎ、部屋のベットに叩きつける。


 「私は領土を、『ニホンジン』が住む領土を求めていただけで、賠償の事など毛頭無かった………賠償など落ち着いてから話せば良いものをこれではエルフとの関係が悪くなる一方なのに我が国の首相は一体何を考えているんだ………。」


 そうムッツリーニが言うと、後ろから声がした。


 「フッ、毛頭無かったとはお前の頭皮の事か?」

 「誰がだ!?この頭はわざと坊主にしてるんだぞ!!」


 ムッツリーニはその言葉を聞いた途端、鬼の形相で後ろを振り向く。

 彼が後ろを向くと、そこに一人の男が椅子に座っていた。

 彼の髪の色は漆黒で、瞳は焦げ茶色である。

 エトルリア人というより、この世界の人間は様々な色の髪や瞳が多いが、実は漆黒な髪の色はエトルリア人には存在しない。


 「に、ニホンジン!どうやって入った貴様!?」


 ムッツリーニはそう言い、近くに置いてあった銃を手に取り銃口を日本人の彼に向ける。

 椅子に座っている日本人はニンマリと微笑む。


 「まぁまぁ、入ったことには気にするな。それより、講和会議はどうだったんだ?」

 「何故、ニホンジンの貴様に内容を話さなければならない?」


 ムッツリーニがそう言った途端、見えない速さでその日本人は彼の襟元を握り、壁に強く彼をぶつける。


 「良いから言うんだ。」

 「ぐっ、ば、賠償金は少額だが、我が方への『ニホンジン地域』の割譲をする講和条約を結んだ………。」


 ムッツリーニは言うと、日本人は「そうか。」と呟き、襟元から手を離す。

 ムッツリーニは床にに尻餅をつき、咳をする。


 「それだけか、賠償金と領土か、まあ良い。今回は王に伝えておくから大丈夫でしょう、今日は晩餐会を楽しめばよろしいのではないですか?ムッツリーニさん。」


 そう日本人が言うと、彼は忽然と消えてしまった。

 静かになった部屋でムッツリーニはゆっくりと立ち上がり、日本人が座っていた椅子に座る。

 座ってすぐに近くのテーブルにあったガリアの煙草箱から一本の紙巻き煙草を取り出し、アロンソン社のライターを取り出し、火を点けようとするが、オイルが無いのか火花しか立たない。

 彼は煙草とライターを机に叩きつける。

 彼は苛立ちを隠せなかった。


 「クソっ!今日は散々だ!!亜人どもやニホンジンに振り回される!私はまだ人気があるから良いが、もし私が普通の何の変哲もない外交官で、このまま祖国に帰ったら帰国してすぐ弱腰外交と国民から叩かれ、内閣から大臣を降ろされる。何としても俺は強いエトルリアのトップを目指さねばならない。そのためには内閣を倒すためのクーデターを絶対起こしてやる!」


 彼は意気揚々と野望をを打ち立てようとするがムッツリーニだが、


 「まあ、今は晩餐会は楽しまないとな、さぁて、一体どんな美人な婦人や要人が来ているのか楽しみだな!亜人やニホンジンだからって女性には罪はない!!」

 

 と、先程の発言はどこに行ったのかと言いたい位に女性には目が無いムッツリーニであった

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