第16話 決断と嫉妬
時間と場所が変わって、俺と他の三人が乗る馬車は講和会議が行われているジェネヴラの万国宮殿に着いていた。
ヴァイスは目覚め、フレイヤの怪我はレナが治していた。
俺は数十分しか乗っていないのに、一週間分の疲れがどっと来たように感じた。
俺達は馬車から降りる。
「そう言えばフレイヤ、講和会議は何時からなの?」
レナがフレイヤに尋ねる。
フレイヤは胸を張って、胸ポケットから懐中時計を取り出す。
「ははーん、ヴィルヘルミナ様オレを疑ってるんでしょ、オレがいつも議会で遅刻をすると思ったら大間違いですよ?」
そう言って、懐中時計の蓋を開くと、時計には単語が時計の数字のように円状に並んで書かれており、短い針の先に読みにくいがローマ字のような文字で『Aph』を指していた。
フレイヤは懐中時計を見た途端に彼女は青ざめ、冷や汗を掻く。
レナはフレイヤの顔を見て、懐中時計を覗き込む。
彼女は何かを察したのか、ニヤッと微笑み尋ねる。
「今、四時を指してるわね?それで会議は何時から始まるの?」
その発言にフレイヤはどっと冷や汗を大量に掻き、深呼吸をする。
「じ、自分、時間を間違えていたようです、ハハハ……ハハ………ハ…………。」
フレイヤは最初はニッコリと笑っていたが、目が泳ぎ始め、最後は静かに黙っていた。
レナは黙り込んだフレイヤに溜め息をつく。
「まあ、いつもの事だから分かってたわ。」
「す、すみませんでした。」
フレイヤは顔を下に向け、落ち込む。
「ここに来ても仕方ないから、外務大臣が泊まっているホテルに向かいましょう。」
「………了解です。」
もうフレイヤは俺と出会った時と比べて、あの時の威勢は無くなっていた。
俺達はすぐさま振り返り、馬車に戻り乗る。
馬車をまた二時間位乗ると首都ロツェルンに戻って中心街にある高級そうなホテルに着く。
車窓から覗くと、周りは高級自動車や馬車が並んでいて歩いている人の服装は高そうなスーツやドレスを着ていた。
ホテルの若いハーフエルフのドアマンが近づき、馬車の扉を開ける。
「ようこそ我がホテルへお客様、荷物はポーターの彼が運びます。」
ドアマンとポーターの二人がお辞儀をする。
「カズト、そういえば貴方は私に部屋まで付いてくるの?」
レナは振り向き、俺を見て言う。
「そうだな………。」
「ダメです!カズト様は私とここに居るのです!!」
ヴァイスは俺の腕に掴まる。
だが、自分は興味がある。
外務大臣で長命なエルフだ。
過去には日本人には会っているのかもしれないから興味がある。
「………俺は少しだけゲルマニアの外務大臣の話を聞きたいと思う。」
俺はそう返事をすると、ヴァイスは「えーっ!」と声を出し、驚く。
「何故ですか?カズト様はエルフと関係ないじゃないですか。」
「まあ、そう言われたらそうだが興味があるし、良いだろヴァイス?」
そう言うと、ヴァイスは頬を大きく膨らませ不満げな顔をする。
「じゃあ、私も付いて行くのです!」
ヴァイスはギュッと強く腕に掴まる。
俺は何故か可愛いと感じたのか、頭を撫でる。
彼女は嫌がらず、黙っていた。
「それで、行くの?行かないの!?」
レナは腕を組みながら腹を立っていた。
俺はそれを見て、ヴァイスの頭からすぐさま手を離す。
「貴方、本当に幼女趣味なんて無いのよね………。」
「無いよ!子供は好きだけど、決して恋愛までは考えてないよ!」
ヴァイスは不満げになる。
「それで、行くの?行かないの?」
「行くよ、ヴァイスも連れて良いよな?」
俺がそう言うと、レナは「チッ」と舌打ちをする。
本当にレナが一国の姫様なのかと疑う。
「良いわよ、別に。でも、彼女がカズトの腕から離れないと駄目よ!何故か私が許せないから。」
「イーヤーでーすぅー!!」
俺は溜め息をつく。
何で未だ二人が仲悪いのか俺は呆れるしかない。
先にフレイヤに怒っていた事の本末転倒じゃないか?
このままじゃ、先に進まないからな。
仕方ない、俺が説得しようか。
「レナがそう言ってるから、ごめんだけどヴァイス離れてくれないか?」
俺がそう優しく言うと、ヴァイスは下を向きながら、俺の腕を強く掴んで黙る。
何秒か経って、彼女は口を開ける。
「………カズト様が言うなら、従います。」
ヴァイスは悲しげな感じである。
俺は泣きそうな彼女が可哀想に感じたのか、彼女の手を強く握る。
突然の事にヴァイスは驚いている。
「レナ、ヴァイスは方向音痴だから手を繋ぐのはダメかな?」
俺がそう言うと、レナは少々不満げになるが、少し考えて頷く。
「まあカズトがそう言うなら構わないけど………。」
レナは一瞬躊躇う。
「でも貴女、絶対に変な気を起こさないでよね!」
レナはヴァイスを指さし、物凄い顔で睨む。
「フン!さあ、行きましょ!フレイヤ、ヘルマン大臣の部屋を早く教えなさい!!」
「ま、任せてください!こっちです。」
レナは先々進むと、ヴァイスはレナに向けてべー、と舌を出す。
「じゃあ俺達も行こうか。」
「………カズト様は本当に優しいですね。」
「普通の事だよ、悲しんでいる人には手を貸す、助けるのが普通だ。」
あれ?俺はこの台詞を過去に言ったことがあるような、しかも何度も。
「は、早く行きましょう、カズト様!」
ヴァイスは顔を赤らめ、空いている片手で顔を隠し、俺の手を引っ張る。
少し前まで、手を繋ぐだけで大声を上げて発狂していたのに。
俺はそう思いながら、「おう、そうだな。」と軽く返事をした。
こうして俺たちは今からゲルマニアの外務大臣に会いに行く事になる。
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