第14話 建国の母と講和会議
~ブリタニア百科事典⑤~
【エトルリア王国】
ユーラ大陸の南側に位置する強大な海洋王国で主要民族は人間(ヒューマン)である。
人口は約3600万人で、首都はパラティーノ・ディ・ロマーノ(通称ロマーノ)。
ユーラ大陸の半分を領有していたロムルス帝国が多くの都市国家に分裂した。
分裂、統一を何度も繰り返し数百年前に旧帝国の北西側を支配していたイクヌーザ王国が旧帝国の北東側を支配していた神聖ヴェネティア帝国と旧帝国の南側を支配していた両シケリア王国を征服し、再び統一を果たした新興国家である。
そしてゲルマニアと同じ、国際協同連盟の永続理事国である。
過去の反省を踏まえ、人種で差別しない理想国家を宣言しているが、亜人に対する差別は未だに各地で残っている。
ゲルマニアと同様に魔法が発達していたが、異世界から来た日本人の台頭により強力なチート魔術や科学技術などが発達したため、現地のヒューマンによる魔法が急激に衰退した。
だが、その科学技術を使って火薬などの強力な武器を多く生産し、ゲルマニア帝国と並ぶ軍事国家となる。
最近は『新ロムルス帝国構想』のため領土の拡大を進めており、まず最初の北部・西部の領土拡大の障壁となっているゲルマニア帝国との戦争を始め、ユーラ戦争が勃発、そして数十年の戦いによって念願の勝利が叶う。
会議が始まる前に会議室の入り口とは反対に大きな扉があり、その扉がゆっくりと開き、奥から絹のように繊細な白髪を持った美しい女性が現れる。
その瞬間、国連の職員の一人が声を高らかに聞こえるように声を出す。
「ヘルヴェティア様が参りました!皆様、静粛にお願いします!!」
すると、そこにいた人々は彼女を見て静かに黙る。
部屋には多くの人々が居るのに、室内では彼女のハイヒールでカツカツと歩く音が響いていた。
彼女はゆっくりと前を歩いていた。
そして、席の前に着くと立ちながら各国の要人に対して短いスピーチを行った。
「遠くからご足労頂きまして、ありがとうございます。今回は私、ヘルヴェティアがフーサン帝国と一緒に仲介し、ユーラ大戦でのゲルマニアとエトルリアの単独講和条約の件について話し合いましょう!」
ヘルヴェティアの言葉に対して、拍手が起こる。
「それでは始めましょう、皆さん!」
ヘルヴェティアは席に座り、真剣な眼差しで彼らを見ていた。
すると最初に口を開けたのはムッツリーニである。
「我が国はゲルマニアに対して、多額の賠償金とオストマルク領の日本人引き渡し、もしくはその領土割譲を要求する。」
そう話すと、ヘルマンが手を上げる。
「はい、ゲルマニアの外相のヘルマンさん、何か異議がありますか。」
そうヘルヴェティアがヘルマンに言うと、彼は首を横に振り、立ち上がらず座りながら話す。
「いえ、先程の発言の中で他国への魔法・魔科学製品の輸出禁止を仰っていないので………。」
「ああ、それは後ろの官僚から聞いたが、政府は全ての亜人の戦争が終わった後に話し合う事を決めたのだ。」
ムッツリーニはヘルマンの話に割り込む。
ヘルマンは話を続ける。
「それはその項目を今だけ棄てるという事か?」
「そうだ、我が国はゲルマニアとは将来友好的に為りたいと思っているからね。」
ヘルマンは不思議に思う。
先程の話し合いで執拗に直ぐに魔法・魔科学製品の生産と販売は禁止にしようとしていたから。
ヘルマンはまさかと思うが、深く考えるのを止める。
「賠償金についてだが、我がゲルマニアは120億ターラーを5年間で用意するが、我々はそれしか求めない。」
「それについては我が国は一括で1300億ターラーを求める。」
ムッツリーニの発言にゲルマニアの外交官達はざわめく。
この時代のゲルマニアの国民総所得の約2.5倍の賠償金である。
つまり、この額は到底ゲルマニアが払える金額ではない事は確かである。
「ば、馬鹿な事を。その額は我が国が容易に払えない事は確かだろう!」
「だが、600億ターラーは安すぎる。」
「安くない!!我が国の限界がこの額なのだ。友好的にと言ってるが本当は我が国を潰すつもりだろう?違うか!!」
すると突然、誰がが溜め息を出す。
二人は話を止め、溜め息が聞こえた方に振り向く。
そこにはヘルヴェティアが呆れた顔をしていた。
「私はエトルリア側に賠償金の提案は一時的に放棄、もしくはゲルマニアに譲歩すると聞いていたけど、どういうつもり?」
ヘルヴェティアの発言にムッツリーニは溜め息を吐く。
「はい、勿論言いました、ですが私たちは敗けた国から賠償金を得ずして帰国は出来ないと思いまして………。」
すると即座に反論するのがヘルマン。
「新聞やラジオなどはゲルマニアが負けたとほざいているが、我が国は『敗けた』という思いは一切ありません。なので我が国が払う理由がない!」
ムッツリーニはヘルマンの発言にブチ切れし、机を強く叩きながら、席から立つ。
「これだからエルフはプライドが高いから嫌いなんだ!!」
すると溜め息が何処からか聞こえた。
二人がその聞こえた方向に顔を向けると、「扶桑」の全権のウワツツノオノミコトが
「いつまで掛かるんだ?早くしてくれ!こっちは口喧嘩を見に遠方から来たんじゃないんだ!!」
『扶桑』の全権の彼は酷く怒っていた。
ヘルマンは申し訳なさそうに礼をする。
「申し訳ない、フーサンの全権の方々。ですが、我々は賠償金については諦められないのです」
ヘルマンがそう言うが、表筒男命が鼻で笑う。
「こっちは欧邏(ユーラ)大戦に参加していないから貴方達の仲介国として参加しているのに、はっきり言って欧邏(ユーラ)大戦は我が国にとって全然関係無い事だ。何ならそんなに時間が掛かるなら、熱爾馬尼亜(ゲルマニア)と伊特魯里亜(エトルリア)の貴殿方の国の戦後処理は私が勝手に決めようか?」
表筒男命が言うと、ヘルマンとムッツリーニは呆れた顔をする。
「関係ない国が何をふざけた事を!?」
「その通りだ、いい加減にしろ!ラシア大陸の極東の島国の分際で、永続理事国入りしたのもブリトンと同盟を結んでいたからじゃないか!」
二人が言った途端、そこにいた扶桑の外交官や軍人はざわめき酷く怒っていた。表筒男命は煙管を燻らし、灰皿で灰を捨て、そしてそっと置く。
彼は立ち上がり、机を強く一回叩く。
「なら、早く終わらせたらどうなんだ!!君達の話し合いが終わったと聞いて調印式に来たんだ、ヘルヴェティア、貴様は何をしていたんだ!」
ヘルヴェティアは気が抜けていたのか、ティーカップを片手に持ち、紅茶を飲んでいた。突然振られた事に彼女は「へっ!?」と可愛らしい声を出す。
会議所が沈黙した………。
ヘルヴェティアは持っていたカップを机の上のソーサーに置く。
「ヘルヴェティア………今の話、聞いていたよな??」
「あ、当り前じゃない!、コホン、そうね1時間前に話す場所以外にも他で用意していたのに解決していないし、仕方ないからいつもの様に私が決めましょうか?」
ムッツリーニは不満な態度を見せ、溜め息を吐き、席に座る。
「そうだな、平等に公平に決めてくれるのはヘルヴェティアしか居ないか………。」
ヘルマンは呟く。
すると、笑顔でヘルヴェティアは地面に置いていた鞄を取り出し、その鞄の中から書類が出てきた。
「実は私も考えてきたの!色々迷ったけど一番お気に入りがこれよ!」
『エトルリア王国とゲルマニア帝国との平和条約』
第一条 ゲルマニアはニホンジンの多くが住む南トレントをエトルリアに割譲する。
第二条 ゲルマニアはエスターシュタートを独立させることを承認する。但し、現地に住むニホンジンはエトルリアに移住させ、ゲルマニア側で用意した領主でエトルリアが認めた人間、もしくは亜人であること。
第三条 ゲルマニアの賠償金はエトルリアに対し、120億ターラーを5年間で払う。
第四条 魔法・魔科学商品の生産販売は三年間禁止とする。
以上。
ヘルヴェティアは全ての出席者に渡し見せる。
ゲルマニアの外交官は領土を失うのは仕方ないと考えたが、少し溜め息をついて、心を落ち着かせ、最終的に承認することを決め、調印する。
ムッツリーニはムスッと不満げな顔をしていた。
当然である。
自分の国が望んでいた事が手に入らないのは妥当である。だが、国際協商連盟は話し合いが長く続く場合、議長ヘルヴェティアが最終的決定を下すのである。
これは連盟設立当初からあるやり方であるが、勿論反対が多かった。
何故なら、ヘルヴェティア連邦は『中立的な立場』にあると言われているが、やはり友好的な国には有利に立たせるのである。
ヘルヴェティアとエトルリアは過去に悲しい歴史があるため、不利な面に立たされやすい。
なので今回はゲルマニアが有利な条約である。
少額の賠償金、
はっきり言って、これは勝者にとっては不利益な条約である。
ヘルマンはヘルヴェティアから渡された文書にサインする。続いてムッツリーニの前に万年筆と先程の文書が置かれる。
ムッツリーニは無言で文書に名前を書き、ペンを置くと同時に席を立ち、突然挨拶もなくその部屋から立ち去る。
置いていかれた外交官や軍人は突然の状況に狼狽し、急いでムッツリーニに付いていき部屋から出る。
部屋では沈黙が続く。
沈黙が続いて最初に口を開いたのはヘルヴェティアである。
「で、では皆さん、ゲルマニアとエトルリアの講和条約を記念に今夜パーティーを催すので、戦勝国も敗戦国も仲介国も参加してくださいねっ!」
そう彼女は笑顔で言うと、彼女は静かに席を立って後ろを振り向き、最初に彼女が出て来た大きな扉へと向かい、扉の向こうへと消えていった。
「ヘルマン大臣!我が国の賠償金の支払いは今の所は大丈夫ですし、有利な話し合いでしたね!」
一人の若い外交官がヘルマンに近づき言うが、ヘルマンは黙って何かを考えていた。しかも、深刻そうな顔をし、深く考えていた。
「大丈夫ですか?大臣。」
若い外交官がヘルマンの肩をポンポンと優しく叩くと、「うん?何だね。」と振り向く。
「何か深刻な顔をしていたので、どうしたのかと。」
「ああ、別に気にするな!ちょっとした考え事さ。」
「あ、そういえばフレイヤ大臣、遅いですね?どうしたんでしょう?」
若い外交官がそう言うと、ヘルマンは眉をピクリと動かす。
「な、なんだと!?まだあいつレナ様を連れて来て無いのか?」
「レナ様とは?」
外交官は頭を傾げ、ヘルマンは溜め息をつく。
「そうか、君は帝都在住じゃないから知らないのか、そのつまり………ヴィルヘルミナ殿下の事だ。」
ヘルマンがそう言うと、外交官は目を丸くし大声を出してしまう。
「ええっ!?あの皇女殿―――!」
「馬鹿!大声を出すな!!」
ヘルマンは慌てて急いで外交官の口を手で塞ぐ。
周りは先程の大声でざわめき始め、彼らを見る。
ヘルマンは周りに笑顔を振りまいて、すぐに外交官に小声で強く叱責する。
「(ば、馬鹿野郎っ!声を大にして言う必要があるかっ!?)」
「す、すみません。それにしても生きていたのですね?新聞で勇敢に戦死したと載ってましたので………。」
すると ヘルマンは辺りを見渡す。
周りには多くの人がまだ会議室の中に居た。
「人が居ないところで話す、他の我が国の外交官を集めろ。」
「は、はい!」
ヘルマンは立ち上がり、窓を見て身体をぐっと伸ばし、溜め息を吐く。
彼の表情は不安が一気に取れ、ほっと安心しているように見えたそうだ。
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