第12話 馬車での混沌

 馬車が発車する。

 キャリッジと呼ばれる馬車で、 俺とヴァイスが乗った二人乗りのクーペとは違って、引いている馬は2頭で、内装や外装の装飾は豪華で広い。

 外見は一般人でも見れば分かる富裕層専用馬車のやつやん!

 馬車の前側には馬車を操縦する御者(ぎょしゃ)は年老いたエルフが座っていた。

 4人乗りの馬車でお互い対面して座る。

 俺の正面にはレナが座り、そのレナの横にフレイヤが座る。

 そして俺の横の席には荷物が積まれており、ヴァイスが座っている場所はフレイヤの膝の上である。

 フレイヤはヴァイスの頭を延々と撫で続け、ヴァイスは苦々しい顔をしていた。

 ヴァイスを撫でる以外で目立った事をしてないし、杞憂だったかな?

 そう感じ、俺はこの世界に来てから一度も寝ていないし、色々な事があって疲れたため少しだけ眠ろうと思った。


 

 俺は馬車に乗って少し仮眠をとっていると、レナとフレイヤの会話が聞こえてきた。

 俺は少しだけ瞼を開いて、レナ達の会話を覗き聞く。


 「それにしても、自分はヴィルヘルミナ様が無事で本当に良かったです!」


 フレイヤは俺が寝ていても関係なしに大声で話すが、両方とも久しぶりの再開で笑顔になって嬉しそうだから俺は無視をする、というより他人が入らない方が良いし、水入らずの会話をさせてやろう。

 というより、もうヴァイスがフレイヤから逃げるのに諦めたようだな。

 それにしてもフレイヤの目は輝いてるが、ヴァイスは死んだような目をしているな、まあ今は変な事をしそうにないし、ヴァイスは大丈夫だろう………。


 「それにしても、我がゲルマニアが負けるなんて未だに自分は信じられません。我が領土内を人間どもに完全に侵攻されていないのに………。」

 「で、でも戦争が終わったから、次は外交戦よ!その領土を侵攻されていない事、まだ軍隊に余力がが有ることで我が国に少しでも有利な方へと平和条約を結ばせるのよ!」


 自信満々な言葉を言うレナを見るフレイヤは驚いた様な顔をしたが、一回頷き、少しだけ笑顔になる。


 「そ、そうですね!我々軍人は頑張った!!次は外交官が頑張る番ですね!」

 「そういえば、貴方が陸軍大臣になるなんて前のフリッツさんはどうしたの?辞めたのかしら?」


 レナがそう言うと、フレイヤは暗く深刻そうな顔になる。


 「フリッツ殿ですか?フリッツ殿は………残念ながら何者かに殺されました。」

 「……………!?」


 レナはショックで言葉を失う、少し時間が経って、レナが口を開ける。


 「………嘘でしょ?彼は実力もあったはずよ。」

 「はい、自分が来た時にはもうフリッツ殿の体には無数の穴が空いていて瀕死の状態だったんです。そして自分がフリッツ殿を背負って帝国軍の軍病院に着いた時にはもう、それがキッカケで皇帝陛下は緊急事態だと慌てて和平を結ぼうとしました………。」


 涙を堪えようとするフレイヤにレナは肩に腕を回し、ポンポンと慰めるように優しく肩を叩く。


 「ヴィルヘルミナ様すみません、も、もう大丈夫ですから。」


 そうフレイヤは言い、顔を赤らめる。

 すると、何かに気付いたのか、自分の顔をジーッと見る

 薄目で見ているのがバレたのか!?

 そう思っていると、フレイヤは先程の泣き顔が嘘みたいにニヤリと笑みをこぼし、フレイヤは話を続ける。

 あの顔はまるで何かを企んでいるような顔だ。


 「そういえば話が変わりますが、ヴィルヘルミナ様は戦場で我が兵士達の慰問をして来たんですから、お疲れでしょう?」

 「えっ………?」


 フレイヤがそう言うと、レナはキョトンとする。


 「あの、ヴィルヘルミナ様?大丈夫ですか?」


 心配するフレイヤにレナは突然笑い出す。


 「さっきまでアナタの暗い話をしていたのに、突然私の心配をするなんてどうしたの?」

 「いや、疲れているように見えましたので、違いました?」


 フレイヤがそう言うと、レナは首を横に振る。


 「いや、勿論疲れたわ。視察に訪れた前線が襲撃されて近衛部隊とも離れるし、もう散々よ!」

 「それなら、私と一緒に風呂に入りませんか?」


 俺はドキッとする。何故いきなり風呂の話になる?

 さっきの笑みは俺を試しているのか?それに男女が風呂に入るなんて許されるのか?

 いや、許されないだろう。

 世界が違っても、民族が違っても許されざる行為である、俺にとっては。 

 だが、まあ、俺が頼まれたら断るのは失礼だな。なーんて………。

 そのときに俺はヴァイスが言っていたことを思い出す。

 ヴァイスはフレイヤの事を『変態』だと言っていたが、本当じゃないのか?

 だとすれば、彼らでの入浴を止めないといけない感じがする。

 だが待て、待つんだ俺、レナが断れば問題ないじゃないか。

 もう少しだけ様子を見てみるか。


 「い、いやよ!」


 ほーら、断った、だよな、普通に無理だろ。

 しかも相手は皇女、姫様だぞ?

 男性が簡単に風呂に入れるわけ………。


 「だ、だって、アナタすぐに私の乳房、揉むじゃないの。」


 …………………ホワット?

 乳房?ムネ、つ、つまりおおお、おっぱいのことだよな!?

 こいつ、イケメンだからってそれは許せない。

 許すマジ!

 俺は急いで体を起こし、大声で叫ぶ。


 「おいフレイヤ!黙って聞いてりゃレナのムネを揉むとはどういうことだぁ!?」


 レナは突然起き上がった俺にビックリする。

 同時に彼女の話を俺に聞かれていた事に急に顔を赤らめる。

 主人公カズトはすでにレナのムネを事故で一度は揉んでいるが、カズトは忘れているようだ。

 まあ、それは置いておこう。

フレイヤはヴァイスを抱きながら、俺を睨み付けながら言う。


 「お前には関係ないではないか?それに寝ながら盗み聞きとは男らしくないぞ。」

 「そんな事は関係ない、ムネを揉む事に俺は怒っているんだ!それとも何か?そういう関係なのかレナとは?」


 フレイヤは俺の発言を聞くと、鼻で笑う。


 「フッ、それはどうかな?だがその前にヴィルヘルミナ様を『レナ』と呼び捨てしているのはどういう事だ?帝都の城下町の人でも知らないばずだが………。」

 「その呼び名で呼びなさいと私が言ったのよ。」


 突然レナがフレイヤの言葉を遮る。

 彼女の顔は何故か呆れていた。


 「し、しかし、それではヴィルヘルミナ様は彼のことを信頼しているという事に………。」

 「ええ、信頼できる人物だと思っているからそう呼ばせてるわ。」

 「そ、そうでしたか。」


 レナがフレイヤを叱るとフレイヤは萎縮する。

 そして次は俺の方向に向き叱責する。


 「カズト、貴方も何か勘違いしているでしょ!」

 「む、ムネを揉む事にどこが勘違いがあるんだよ!?」

 「そうね、ムネを揉む事は止めて欲しいと思っているが。」

 「ええっ!?ヴィルヘルミナ様、何故ですか!!」


 フレイヤは大声で叫ぶが、レナはフレイヤに睨みつける。


 「フレイヤ、アナタは黙りなさい。」

 「は、はい………。」


 フレイヤはまた萎縮する。

 本当に軍人なのか?と問いたい位に小さくなっていた。


 「話を戻すけどカズト、フレイヤは女性よ。」


 ……………………………えっ???


 「え?女性??マジ???」

 「本当よ。」

 「でも、髪は短いし、ムネも小さいし………。」


 俺がその言葉を言った途端、フレイヤは突然立ち上がり怒鳴る。


 「誰かペチャパイだ!ゴラッ!!」

 「フレイヤ!!!」


 レナはフレイヤの方に振り向きもしないまま、フレイヤに殺気を出す。

 フレイヤは「はい。」と返事をし、ゆっくり静かに席に座る。

 ヴァイスはすでに無心になって抜け出すのを諦めていて、まるでぬいぐるみの様になってフレイヤに抱かれていた。


 「彼女のムネはさらしを巻いているから見えない様になってるだけよ……多分。それに私は高貴なエルフの国の皇帝の娘よ!?簡単に男性に裸体を見せると思ってるの?馬鹿じゃないの!?」

 「はい、すみません。」


 つまり、フレイヤは女性で、女性同士だから風呂に入っても、ムネを揉まれても問題ないという事。

 そういえば、怪我の治療した時は服を一度脱がしてるが………黙っておこう!

 それはそうと俺はフレイヤの罠にまんまと嵌まり、理由を知らず激昂した。

 嗚呼っ!恥ずかしすぎるっ!!

 俺は真実を知ると顔を赤らめる。

 フレイヤはクスクスと笑いながら言う。


 「お前、絶対童貞だな。」


 その発言に俺の心を痛める。

 「グハッ!!」 

 まるで何かが刺さったかの様な痛みを感じた。

 フレイヤは俺を嘲笑っていると、レナがツンツンとフレイヤの肩を突っつく。


 「何ですか?ヴィルヘルミナ様。」

 「少しだけ、その角人族の子を離してくれる?」


 レナはヴァイスを指差す。

 フレイヤは腕からヴァイスを離す。


 「はい、離しましたよ、ヴィルヘルミナ様。それで何をするんですか?」


 フレイヤはそう言うと、レナはニッコリと微笑む。


 「ならフレイヤ、歯食いしばりなさい!」

 「へ?」


 フレイヤは惚けた途端、後ろに隠してたレナの右手に溜められた魔法がフレイヤの顔面にぶつかる。

 瞬間、彼女の頭は後ろに吹っ飛び、車窓に突っ込む。


 ガッシャン!!


 ヴァイスは硝子の割れる音に無心から目覚めるが、フレイヤの無惨な光景に気絶する。

 俺は震えが止まらなかった。

 血塗れになっているフレイヤにレナが笑みを浮かべている。

 そして何事も無いかのように御者の人が馬車を止めないのが恐ろしい。

 多分ご高齢だから耳が遠いからだと思うけど、余程耳が遠いな!?

 そしてこの時、俺は誓った。

 二度とレナの前でふざけた行動を慎むことを。

 するとレナは笑みを浮かべたままフレイヤに話す。


 「フレイヤ??アナタ、今日どうしたのよ、物凄い陰湿よ。誇り高いゲルマニア兵が聞いて呆れるわよ。」


 レナはそう言うと、フレイヤはゆっくりと起き上がる。

 フレイヤの顔は硝子の破片によって顔が血塗ちまみれになっていた。


 「す、すみません………ヴィルヘルミナ様、もう十分懲りましたから………。」

 「アルカディアの神々に誓える?」

 「………はい、誓い………ます。」

 「うん、なら良し!!」


 レナは俺の方へ振り向く。

 それを見た俺は恐怖で声を出す。


 「ヒッ!!」


 レナは怖がる俺を見て慌て始める。


 「あ、安心して、フレイヤは私の魔法で怪我を治せるから。」


 いやいや、そっちじゃない!

 そんな事で怖がってない。

 というか、本当になんであの時の戦場に居た兵士を倒さなかったんだ?


 「あと、カズトが物凄い変態だということを改めて感じましたわ。本当に失望まではいかないけど残念よ………。」


 ………まあ、おっぱいやムネ連呼してたらそうなるよね、ハハッ。


 ああどうしようか!レナでの俺の株が絶対急降下してる!!

 というか、早く会議場に着いてくれ!!

 俺はそう上を見ながら願い、この混沌とした馬車の中でヴァイスを抱えながら俺は座っていた。

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