8 【第蜂(はち)話】 (約1500文字) 【バズる】

8 【第蜂(はち)話】

【バズる】


 とある動画サイトに、一本の動画が投稿された。


 夜中なのか、周囲は暗く、辺りの様子はよく分からない。画面の先に街灯らしき明かりと、舗装されている道路がぼんやりと見えるだけだ。

 場所を特定できないようにするためか、電柱やマンホールなどに記載されている住所や地名などは、あらかたモザイク処理が施されていた。

 撮影しているのは若い男女のグループなのだろう、画面の中に数人の姿と声が映っている。話している内容はインターネット上に散見されるような、ありふれた都市伝説についてだ。深夜、ひと気のなくなったこの辺りを通ると、何者かに襲われて殺されてしまう。歩いている者はもちろん、自転車やバイク、自動車に乗っていようが、それらを紙コップのようにぐしゃりと潰して。

 そんなことあるわけないよな~、はははは。

 あったらあったで、カメラに撮って出版社やテレビ局に売りつけようぜ。きっと高値で売れるし。

 そんなこと言って、本当に出たらどうするのよ、わたしたち殺されちゃうじゃない。

 やだ~!

 都市伝説など一向に信じていない様子で、彼らは暗い道を進んでいく。

 画面の先に見えていた街灯まで歩くが、やはり何も現れなかった。

 やっぱりウソだったな。ま、都市伝説なんてこんなもんさ。

 なんだよ~! せっかく金儲けのチャンスだったのによ~!

 あ~よかった、殺されなくて~。

 ほんとほんと~。

 何も出なかったという安心感と少しの残念感を漂わせて、彼らはいま来た道を引き返すために振り向こうとする。

 そのとき、上空から、ぶーん、という音がした。巨大な扇風機を回しているような、蚊が飛び回る羽音を大音量にしたような。

 沈黙し、その場に硬直する若者たち。カメラが映す彼らの顔はこわ張り、血の気が引いて蒼くなっている。大学生らしい若い男が、恐る恐る星のない真っ暗な夜空を見上げる……。その途端、彼は悲鳴を上げて道の向こうへと逃げだした。

 お、おいっ……! 撮影者が声を掛けようとするのとほとんど同時に、上空から飛来した巨大な【何か】によって、逃げた若い男は襲われた。

 暗闇の道に響く絶叫。

 ばりばりっ、ぐしゃっ、ばきぼきがきぐきっ。骨や筋肉など、身体を噛み砕く音。

 周囲が暗いせいで、その正体は判然としない。

 女性が悲鳴を上げた。

 逃げろおおオオッ! 撮影者が叫んだ。画面があらぬ方向を映したかと思うと、上から下へと移動し、つまり地面へと落下していき、視点が固定されたときには道の向こうに逃げていく男女の姿を映していた。

 その彼らも、巨大な羽音を響かせて上空から襲い掛かる【何か】によって、喰われていった。

 絶叫が静まり、

 咀嚼音が途絶え、

 そしてその巨大な【何か】は、

 再び大音量の羽音を轟かせて暗闇の上空へと舞い上がっていった。


 動画はここで終了している。

 投稿された初日から閲覧数が伸びていき、多数のコメントが寄せられ、世間一般でいうところのバズッた動画となった。

 話題が話題を呼び、数日後にはオカルト系のテレビ番組がその動画を地上波放送するために、投稿者にコンタクトを取ろうとした。が、動画サイトに登録されていた情報は全てデタラメで、連絡が取れなかった。

 そのテレビ番組のスタッフだけでなく、各種のメディアや、動画の撮影場所などを特定しようとした者たちが、投稿者の正体を割ろうとするも、IPなども含めて、投稿者に繋がるあらゆる手掛かりは、なぜか、すべて完全に消されていた。

 判明していることは、投稿されている動画の内容と、もう一つ。投稿者のネームだけだ。


 動画タイトル:【Buzz】

 投稿者名:【ライヴド】


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