人嫌い、泊まる

「みゃー。」


「…ただいま。」


「戻りましたよタマさん!」


「ま、まさか出迎えてくれるなんて…」


「忘れずに、君への猫缶は買ってきたぞ。」


「高級。」


「値段が分かってくれるかしら。」


「あまりあげないでよ。僕の普段からの餌代が、羽上がる危険もあるから。」


銭湯からの帰り、タマへの留守番報酬を買ってきた正子。しっかり待っていたタマへ振る舞い、秀人たちはリビングへ集まった。


「じゃ、今日は解散お疲れさまだね。」


「みゃー。」


「…冗談を。」


「先生!自分が家まで取りに行きましょうか!」


「どおりで手ぶらだと…サイズが小さいが、私のを貸そうか。」


「貸す。」


「す、凄く険しい顔してるけど…」


「女物であるし、彼にとっては他人が着たもの。ずいぶん抵抗があるようね。」


「…取りに帰るだけだからうん、ちゃんと戻ってくるよ。」


「…じゃあ…一緒に。」


「家主を働かせるわけには!自分が走って行きますよ!」


「髙山くんの護衛なら、私が適任だろう。」


「ど、どうしようかな。」


「同行。」


各自好き勝手言い出しため、秀人はひっそりと外へ出てきた。この際一人で行った方が、楽だと判断できたからだ。


「今日一日は監視バイト、ちゃんとさせてもらうわ。」


「あらら。」


「みゃー。」


「タマも置いてくなんて、それだけ戻ってくる気はあったということかしら。」


「タマは好きに生きてるだけさ。こんなんでも、僕は飼い主だと言わないし、里親募集中だよ。」


「みゃー。」


「そうなの?まあこのなつき具合を見れば、誰も言い出さないでしょうね。」


「で?本当に来るわけ?」


「ええ。昼に借りた本を返して、別のシリーズも借りたいから。」


「僕の家は図書館じゃないけど。」


「みゃー。」


「好きにって言われたから、好きにやるわ。」


「はあ。」


「…いたいた。」


「先生!結局みんなで行くことに!」


「協力。」


「ぼ、僕はアプリのスタミナ消費が…」


「まあまあ岸辺くん。この遅い時間に出歩くのはいかんが、こうして共に歩むのも仲が深まるものだ。」


「…着替え取りに行くだけで?」


「みゃー。」


「あなたが黙っていく所から、こうなると分かってたわ。」


ただ秀人の着替えを取りに一時帰宅、それだけなのに全員で移動することになった。時間は19時、昼間は多い人通りも静かだった。


「こ、この時間だと誰もいないね。」


「…少しは…見かける。」


「ちょうど仕事終わりですかね!」


「帰宅。」


「つまり僕らも帰宅して、今日は終わりってことで。」


「みゃー。」


「さすがに無理があるわ。」


「さて、もう着く頃だな。」


秀人の家につき、彩花は借りた本の返却のため中へ。他はコンビニで菓子を買ってくると、別行動をとることになった。


「さてと、着替えと鞄は…」


「みゃー。」


「そっちか。」


「…タマの方が詳しいわね。」


「僕より家のこととか、物の位置は詳しいね。」


「みゃー。」


「ところで、これは借りてもいいかしら?」


「あーそれね、良いよ。」


「どうも。」


簡単に荷物をまとめた秀人、次の本を借りれた彩花は外に出る。しかし買い出し組はまだ来ていないので、少し待つことにした。


「…どうかしら、人には慣れたの?」


「慣れるわけ無いさ。ただこの数ヵ月で、無難な付き合い方は覚えたつもりさ。」


「みゃー。」


「それと、折れ所もでしょ。」


「言えてる。前ならどこまでも拒否して、相手が消えるまでとことんだったけどね。」


「丸くなったってことよ。それに加えて、あなたの周りは諦めが悪いもの。」


「それは嫌と言うほど、この身と心が経験してるよ。」


「みゃー。」


「おお先生!お早いですね!」


「君たちが遅いのさ。」


「…遅く…なりました。」


「ど、どれにしようか悩んじゃって。」


「種類豊富。」


「あまり食べ過ぎもいかんが…これくらいなら。」


「…多いと思うけれど。」


「まあ人数で分けたら、そこそこじゃない?」


「…みんなで…パーティー。」


「パジャマパーティーですね!」


「な、夏休みだからできることだね。」


「楽しみ。」


「あまり騒いではいかんぞ。まあ私も、楽しみたいものだが。」


「長話も良いけどさ、そろそろ行かない?」


「そうね。このままじゃ私たち、夜間外出で大騒ぎだもの。」


「…そうだった。」


「学生特有の時間縛りですね!」


「ま、まあ家で起きてる分には言われないけど。」


「夜通し。」


「徹夜は体にも悪い。あまり無理はせず、節度をもって楽しもうじゃないか。」


「…今日は寝ないわけ。」


「みゃー。」


「これも貴重な経験よ。」


遅くなってはいけない。早足で麗華家へと泊まりに行く秀人たちだった。

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