人嫌い、裸の付き合い

「広いですね!さすが銭湯です!」


「うるさい。」


「こ、声が大きいよ生山くん。」


「これは失礼を!」


秀人の銭湯案がばれ、全員で来たのは秀人が前回来た場所だった。秀人家からよりも遠かったので、距離で断れと願っての提案は普通に受け入れられた。


「どうでしょうか先生!お背中流しましょう!」


「それやったら、僕は何をするか分からないよ。」


「た、髙山くんが言うと本当に怖いから…」


「では想汰さん、流し合いましょうか!」


「…ど、どうしてかな。」


「そうして磨かれる友情です!」


「ま、男二人楽しんでね。洗い終わったから、お先。」


想汰の背中がごしごしと磨かれているのを見ながら、秀人は先に湯船へ向かう。夜なので昼間よりは人がいるものの、静かな場所だった。


「ふう…このまま過ごしたい。」


少しばかりの休息、秀人は大きく息をはく。多少は慣れてきた人付き合いも、ダメージは相変わらず深刻なものだった。


「もうすぐボクシングにも行くし、いや強制ではないか…」


「楽しみですね先生!」


「こ、怖くはないよね。」


「ああ来たんだ…背中真っ赤だけど。」


「き、聞かないで。」


「いやー!嬉しさに力が入ってしまいまして!」


「御愁傷様。」


想汰と大山も入り、男子メンバーは揃った。かといって中心は秀人であるかぎり、そこまで会話は発生しないのだが。


「それで先生!当日の動きはどうされるので!」


「ひとまず風邪を引くために水風呂、最悪自宅に鍵かけて立て籠ろうと。」


「そ、そっちに全力なんだね…相変わらず。」


「僕はそう簡単に変わらないさ。」


「先生はそのままがいいと思います!」


「よ、良くするために学校へ来てるんじゃ。」


「良くはなってるよ。昔の僕だったら、ここまでの距離を許すわけないじゃないか。殺すよ?」


「先生!本音が少し漏れてます!」


「い、言われてみれば。入学頃よりは、丸くなってるんじゃない?」


「そもそも他人の家に上がるなんて、人生初なんだから。」


「先生は子供の頃から、距離を置いてたんですか?」


「もちろん。付き合いは面倒だし、友達なんて言ってグループ作り。そこで力関係やらカーストに縛られる、小さな社会の形成に入るのは嫌だったね。」


「一貫してますね!」


「た、確かに小学校でも、上と下って無意識に決められてたような。」


「僕はどこにも属したなかったから、頭数欲しいグループのスカウトはあったけど。全部断ったし、呼び出してきた相手にはそれなりの手段をとったものさ。」


「…先生が変わったと言う話、ここまで話してくれる事も昔では無かったですね!」


「む、昔話聞けるとは思わなかったよ。」


「聞かれれば答えるさ。必要ないと判断したら、無視するけど。」


話して30分、長く浸かれたので上がることにした秀人たち。まだ麗華たちが来ていなかったので、休憩所で待つことにした。


「親父が読んでた漫画ですよ!」


「まあ来る年齢層、明らかに父親世代だし。」


「そ、それは年齢問わず面白いと思うよ。」


「なるほど!早速読んでみます!」


「はいはい。」


そう言って秀人は受け付けに行き、飲み物を買うことにした。


「コーヒー牛乳を。」


「140円。」


「どうも。」


「自分はコーラを!」


「ぼ、僕は牛乳かな。」


「2つで280円。」


「漫画読むんじゃなかったの?」


「先生に着いてきたまでです!」


「の、喉が乾きまして…。」


三人揃って飲み物を買い、女子を待つことになった。


「…おまたせ。」


「すっきり。」


「すまない、思ったより話し込んでしまってな。」


「遅くなったかしら?」


「まあまあ待ったね。」


「自分たちもさっき上がりました!」


「そ、そんな感じです。」


「…たまには…いいね。」


「うむ、広い風呂場もワクワクするものだ。」


「楽しい。」


「広いからって泳ごうとした件、忘れないでよ。」


「賑やかなことで。」


「こっちも盛り上がりましたよね先生!」


「何張り合おうとしてるのさ。」


「も、盛り上がり?髙山くんの小学校時代とか?」


「…後で…聞こうか。」


「ほう高山くんの…想像はできるが。」


「興味。」


「実際に聞いてみるのも、悪くないかしら。」


「…今回ばかりは味方なしか。」


帰り道タマへのご褒美缶を買いながら、秀人たちは麗華家へ戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る