人嫌い、招かれる

その日秀人は、喫茶店が休みであり有意義な休みが過ごせると思っていた。


麗華[暇な人いるかな?]


大山[何かありましたか!]


想汰[暇ではあるよ。]


正子[何か困り事かな?]


林[練習中。]


彩花[どうしたのよ?]


麗華[実はお父さんたちが旅行に行っちゃったの。]


大山[急ですね!しかもその様子だと留守番ですか!]


麗華[一人残されました。]


想汰[仲悪いの?]


麗華[宿題やってないのバレて…]


正子[麗華くん、早めに済ますべきだよ。]


麗華[一人家にいると寂しいもので。]


林[勉強?]


麗華[それも見てほしい。なんならお泊まりとか。]


彩花[今度はお泊まり会なの?]


麗華[そう。]


大山[我々男子は難しいですね!]


麗華[んー…リビングで寝るとか?布団はあるし。]


想汰[宿題を片付けたい気持ちはわかる…]


麗華[もし来れるなら、昼に正門前にいるね。]


林[把握。]


正子[しっかり勉強するか見せてもらおう。]


大山[少し遅れていきます!]


想汰[みんなで宿題片付けよう!]


彩花[また楽しそうね。]


どうやら一人の麗華家に集まり、夏の宿題を処理するようだ。これらやり取りを見て、秀人は返信することにした。


秀人[頑張って。]


それを打ち込み、秀人は横になる。今日は静かな休日であり、他人のあれこれに首を突っ込む気分ではないのだ。しばらくすると秀人にチャイムの音が聞こえた。


「はーい。」


「…ど」


ドアを開けて姿を確認、即ドアを閉めて秀人は鍵をした。きっと日頃の疲れだろうと部屋に戻る秀人の耳に、またチャイムが聞こえた。


「はーい。」


「…な」


再び閉めようとするも、靴を挟まれて閉めることができなかった。


「…なんで…閉めるかな。」


「新聞は断ってますんで。」


「…勧誘じゃ…ないから。」


「僕無宗教なんで。」


「…違うから。」


「じゃあなんのようなのさ。」


「…分かってると…思うけど。」


「もしかして、さっきの宿題の件?僕は終わってるから、行く必要ないと思ってさ。」


「…本当は?」


「めんどくさそう。」


「…秀人に…手伝ってほしい。」


「君の苦手な国語をかな?他のメンバーでも、充分こなせると思うけど。」


「…全部。」


「は?」


「…一通り…見てほしい。」


「つまり、もう終わってる僕の答えと君の答え。比べたいわけね。」


「…秀人は…嘘つかない。」


「そうかな?ついさっきも嘘ついたけど。」


「…頼みます。」


「報酬はあるわけ?」


「…何か…望みはある?」


「そりゃ平穏だよ。」


「…難しい。」


「じゃあこの話は無しかな、頑張ってね。」


「…これなら。」


そう言って麗華が取り出したのは図書券、しかもその額は一万円だった。


「…手元にある…一番の物。」


「図書券…そんな高額を渡してまで、答えが知りたいわけ?」


「…それよりは…秀人も…来てほしい…それだけ。」


「また訳の分からない…まあ金額がいいし、バイトと思って見てあげるよ。」


「…ありがと。」


「で?昼頃に正門前だったよね。タマもいいかな?」


「みゃー。」


「…いける。」


「だとさ。」


「みゃー。」


「…それじゃ…待ってる。」


「ドタキャンしないように頑張るよ。」


「…タマ…連れてきてね。」


そう言って麗華は帰り、秀人は軽く準備をすることにした。泊まる話も出ていたが、さっさと帰りたい秀人はタマの餌だけ持って行くことにした。


「まだ時間あるし、まずごはん食べようか。」


「みゃー。」


そうして食べ始めようとする秀人の耳に、何故かチャイムが聞こえた。


「…なんだよ今日は。」


「みゃー。」


そうして玄関を開けると、今度は彩花が立っていた。


「おはよう。」


「君が来るとは、何かあったわけ?」


「ドタキャン監視要員…らしいわ。私も図書券に踊らされた、可哀想な1人よ。」


「…僕って信用ないわけ。」


「こと待ち合わせとか、約束事に対しては低いわね。」


「まあいいや。」


秀人は用件を聞くと部屋に帰っていき、彩花もついていく。


「鍵は閉めないのかしら?」


「なんで上がってるのさ、もう出掛けるしいいよ。」


「あら、外で待つのも疲れるのよ。」


「僕は朝御飯だからね。」


「お構い無く、私は食べてきたから。」


彩花は秀人の本棚へ向かい、適当に本を読み出した。

それを見て秀人は朝食準備をしつつ、いつも飲むコーヒーを用意した。


「はいこれ。」


「ありがとう、まさか一杯貰えるとは思ってなかったわ。」


「客をもてなさないのは、人として終わりでしょ。」


「変なところで常識的よね。」


「誉め言葉として聞くよ。」


秀人は朝食を食べ終え、着替えを済ませて準備完了。彩花は気になるシリーズがあったようで、読書に夢中で秀人が声をかけるまで反応がなかった。


「もう行くけど、君はここにいるわけ?」


「…え?あら、もうこんな時間なのね。」


「よければそのシリーズ、貸してもいいよ。僕は読み終わってるし。」


「じゃあお言葉に甘えて。」


「みゃー。」


「タマもいい?行こうか。」


「今日はタマも来るのね。」


「当たり前だよ。」


早く帰ってこれるよう、そう願いながら秀人は出掛けた。

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