人嫌い、銭湯へ行く

「断水だってさ。」


「みゃー。」


ある日のバイト帰り、ポストを見ると断水のお知らせが入っていた。時間は昼の間で終わるもので、あまり生活への影響はなかった。


「んー…汗を流せないのは嫌だな。」


「みゃー。」


しかし季節は夏、家で過ごしていても汗をかく時期だ。断水は秀人の休みを直撃しているし、買い出しの予定は外せなかった。

秀人は普段から、外を歩いて汗をかいたと思えば風呂に。最悪シャワーだけでもとしている。


「ベタベタで二時間…駄目だ。何かないかな。」


「みゃー。」


秀人は最後の手段として、銭湯があるかをスマホにて検索。もちろん近くだと、断水の影響でやってないと考えたので地区を見て選んでいく。


「歩いて30分、ここが一番近いか。帰ってる途中で汗かくけど、その頃には終わってる。」


「みゃー。」


予定は決まった。買い出しの時間を早め、家に荷物を置いたらすぐ出発。距離があるため、顔見知りとは会わないだろうと秀人は思った。


「そうと決まれば早く寝ようかな。」


「みゃー。」


バイト終わりということもあり、すぐに寝た秀人。朝起きればタマに餌を出し、自分は出掛ける準備をしていた。


「まずは買い出しか。」


「みゃー。」


「それじゃ、行ってくるよ。君も出掛けるだろ?」


秀人がドアを開け、タマは外へ散歩に行った。秀人の買い出しは主に食材がほとんど、たまにペット用品の補充もある。


「よし、これで今週はいけるか。」


必要なものを買い込み、秀人は自宅へと戻ってきた。この日の気温は34℃もあり、荷物を持って歩けば汗でベトベトだ。


「…風呂入りたい。」


着替えだけ持って銭湯へ向かう秀人。長い30分だったが、ようやくついた銭湯はがらがらだった。


「らっしゃい。」


「1人です。あとタオルと石鹸ください。」


「700円ね。」


金額を払い更衣室へ、他に誰もいない空間に秀人は喜んでいた。秀人自身人が集まる場所、誰かと過ごさなければいけない空間は嫌いな方だ。

以前似たような状況で銭湯に来たときは、同じ地域の人で溢れ賑わっていた。その時の印象で、苦手意識がついていた。


「さすがに昼間から来る人もいないか。」


脱いで風呂場に入るも、やはり誰もいなかった。一人静かな中で入る大浴場に、秀人は今後の使用も検討していた。


「常にこんな感じなら、毎日通ってもいいけどね。」


実際はそうもいかず、秀人が入浴中に何人か利用客は見えた。しかし誰もが静かに利用し、帰っていくだけ。


「あれ…これ最高かも。」


秀人もゆっくりと浸かり、気づけば2時間入浴していた。洗濯機も置いてあったので、着てきた服の洗いや乾燥まで済ませ、家に帰ったのは15時を過ぎていた。


「予想より長くいたけど、今後も続けていいかも。」


「みゃー。」


「ごめんね、ちょっと遅くなったよ。」


家に帰ってきた秀人がまず確認したのは、水が復旧しているかどうかだ。疑うわけではないが、予定通り作業が終わっていない場合も考えられる。


「よかった。これで風呂も入れる…タマも洗わないとね。」


「みゃー。」


タマはあまり水を怖がらないのか、今のところ強く拒否されたことはない。散歩から帰っていればひとまず洗うことにしている。


「よーし暴れないでよ。」


「みゃー。」


タマを洗い終えれば次は自分、大浴場の後では狭く感じるものの落ち着きは勝っていた。


「ふう…いつもの風呂ってのもいいね。しかし昼間の銭湯は、人が少なくて過ごしやすかったよ。」


「みゃー。」


タマは洗い終わっても、風呂場から出ずに秀人を待っている。暑くないかと心配はするも、本当に無理なら逃げるだろうと秀人は思った。


「さてと出るかな、ちょっとどいてね。」


「みゃー。」


風呂上がりに秀人は、銭湯通いも悪くわない。今後も続けてみようと決心した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る