人嫌い、提案を聞く。

「あー来た来たー。」


「…連れて…きた。」


「連行されました。」


「お連れしました!」


「お、お店に迷惑じゃない?」


「開店まで時間あるから、好きに使いな。」


「ありがとうございます。」


「さて高山くん、座ろうか。」


「食べる。」


テーブルを2つ繋げて座る秀人たち。店長が注文すれば作ってくれると言い、全員が頼みながら話は始まった。


「僕はコーヒーを…で?何のようなのさ。僕はこれから家に一人、誰とも会わない夏休みだってのに。」


「…オレンジ…ジュースを。」


「自分はココアを!先生、本日は海の家バイトの話です!」


「あ、アイスコーヒーを。一応高山くんのことも考えて、みんなで決めてたんだよ。」


「私は水で。まあ高山くん、これは私たちからの提案なんだ。」


「私はホットコーヒーを。あなたがいないところで、みんな頭を悩ませたのよ?」


「ウチはー自分で入れまーす。秀人ー来ないつもりでしょー。」


「サンドイッチ。」


「そもそも行くなんて言ってないけど。」


「…海は…嫌い?」


「人が集まる所は嫌なんだよ。」


「バイト代が良いですよ!」


「別に困ってないし、ここでもバイトしてるからね。」


「す、素敵な出会いとか…。」


「夏の思い出。」


「求めてないよ。」


「まあそうだろうな。」


「分かってて聞かないでくださいよ。」


「でもーウチはー秀人がいないとー嫌なのー。」


「個人の意見は聞きませんので。」


「あら、これは総意よ?だからこそ、この提案になったわけ。」


「ずいぶんともったいぶるね。その提案ってのは、僕に良いことあるのかい?」


「…では…説明を。」


「はい!先生には荷物レンタルをしていただきたく!」


「する前提なのは気にくわないけど、その理由は?」


「れ、レンタルだけなら物を渡すだけだし、店の中は涼しい。」


「それに、客が来なくても稼げるわけだ。」


「楽。」


「なるほどね。」


「店番はもちろんあなた一人。」


「秀人はー1人の方がーはかどるんだよねー。」


「なるほど…僕の納得しそうな理由を集めたわけね。」


「…考えた。」

 

「先生がいないと、なんか嫌だったんです!」


「た、高山くんは気にしないだろうけど。」


「どうかな、これ以上に嫌な点はあるかい?」


「私たちとしては、これ以上思い付かなかったの。」


「頑張った。」


「ごめんねー。」


「じゃあ聞くけど、僕が行く理由はなにさ。」


「「接客業の練習!」」


「馬鹿にしてるわけ?」


「…夏場は…いろんな人…やってくる。」


「ここではできない経験を、海でならと!」


「こ、ここに来るのは静かな人じゃない?」


「君が人間関係を知るなら、もっと多くの人を観察すべきだ。」


「大勢見てれば、勉強にはなると思うけれど。」


「修行。」


「難しいことはーよく分かんないけどー行こー?」


秀人にはここまで誘われる理由、自分を連れていこうとする麗華たちが不思議だった。秀人自身、人に好かれず距離を置かれる事がほとんどだ。

そんな彼を逃がさない、何をしても離れてくれない奴等が嫌いだった。それと同時に、なんで執着されるのか理由を知りたかった。


「どうして僕なのさ。学校を探せば行きたい奴は多いだろうし、それこそ場を盛り上げる奴でもいた方が良いんじゃないかな。」


「…馬鹿…言わないで。」


「先生でなければ誘いませんよ!」


「お、男2人だと女子が多くて気まずい…。」


「高山くんとご飯を食べれそうなら、私も頑張るさ。」


「ウチはー秀人にもー楽しんでほしいかなー。」


「癒し。」


「あなただからなのよ。言われた本人はピンと来ないでしょうけど、高山秀人だから誘ってるの。」


「本当にピンと来ない理由だよ。そんな意味不明な答えに、僕は付き合わなきゃいけないわけだ。」


「…じゃあ。」


「ただし条件がある。たまも連れてく事。」


「それならーなんとかするー。」


秀人は諦めを知っていた。しかし、今回は折れたわけではない。このバイト中に多くの人を見るのも楽しそうと感じ、バイト中一人になれることもラッキーと思えた。


「じゃあ参加してあげるよ。」


「…本当に?」


「ああ。」


「当日のドタキャンは!」


「多分しない。」


「きゅ、急に音信不通とか。」


「その手があったね。」


「バイト先で、フラッと消えないか?」


「保証はできません。」


「ウチの水着ーどんなのがいいー?」


「興味ないので。」


「抱きつきは。」


「絶対に許さない。」


「私でさえも疑うけれど…OKなのよね?」


「何回も言わせないでよ。嫌なわけ?」


「…やった。」


「成功ですよみなさん!」


秀人のOKを皮切りに、まるでパーティーのように騒ぐ麗華たち。秀人は騒ぎだしたテーブルを離れ、カウンターに座った。


「ったくうるさいな。」


「まあ見逃してあげて。私たち、あなたを説得できるか不安だったもの。」


「まあ昔なら断るどころか、君たち黙らせて帰ってたかもね。」


「それでも来てくれるのね。」


「ここまでされて、断るのも失礼かなって。」


「…全然そんな顔してないけど。」


「ばれた?」


「まあ、理由は何でもいいの。来てくれるならそれでね。」


「本当、よくわからないや。僕一人にそこまで盛り上がれるの。」


「そこが分かるようになれば、あなたも成長したって事よ。」


そんな日が来るのだろうか、秀人は考えるのだった。

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