人嫌い、ついに休みに入る

「夏休みだからと気を抜かず、我が校の生徒たる自覚をもって行動してください。くれぐれも、はしゃぎすぎないように。」


校長のスピーチがやっと終わる頃には、ほとんどの生徒はあきれ顔だった。ついに夏休みが始まるというのに、暑い体育館に集められ長々と話されては気も滅入るものだ。


「…暑い。」


「うちの生徒は丈夫だね。何人か熱中症で倒れたら、すぐに教室へ帰れるのにさ。」


「…でも…やっと終わるね。」


「長すぎだよ。なんで偉い人ってのは、長々と薄い話を引き伸ばすのかな。」


「…分かんない。」


校長先生のありがたい言葉も終わり、教室へ戻ってこれた秀人たち。


「いやー涼しい。」


「た、体育館にはクーラーつけられないのかな。」


「…コストが…かかるとか?」


「無理なんじゃない?」


「だ、だよね。」


「お前ら席に座れ、成績表渡すからな。」


畑山から渡される成績表、それを見て落ち込むものや喜ぶものと反応は様々。秀人はいつも通りのコメントに、鼻で笑っていた。


「協調性に欠けています…この言葉と10年は付き合ってると、何も響かないね。」


「…昔から…そうなの?」


「僕が進んで人の輪に入って、意見やら感想を言うタイプかい?1人で動く方が楽だよ。」


「…ですよね…私も…変わらない。」


麗華が見せてきた成績表には、もっと発言しましょうと書いてあった。


「なんて残酷なことを。君に一番できないし、できても聞こえないやつじゃないか。」


「…そこまで…言います?」


「うん。」


「…ショック。」


「てか先生のコメントってのは、どうして傷つけるようなものばかりなんだろう。」


「ふ、2人にはそれ以外無いんじゃない?」


想汰も成績表を見せる。もっと勉強を頑張りましょうとの、ありがたい言葉が書かれていた。


「ぼ、僕としては頑張ってるんだけどね…」


「…どんまい。」


「もっと頑張ればいいんじゃない?1日18時間勉強するとか。」


「し、死ねって言われるのと同じだよ。」


「…困ったら…勉強会ね。」


「げ、またやるのあれ。」


「た、頼むよ。」


「全員貰ったよな。それじゃ、最後に夏休みの注意事項プリントだ。」


生徒に配られたそれは、夜に外出しないとか学生だけでの遠出は避ける等、基本的なことが書かれていた。


「これだけ注意しても、毎年指導される奴がいるんだ。頼むから休みくらい、大人しくしててくれよ。」


これにて本日の日程は終わり。下校となり、秀人たちも帰ることにした。


「先生!お疲れ様です!」


「お疲れ。」


「この後は喫茶店だったかしら。」


「…休み前に…海の家…打ち合わせ。」


「あーそうだったね。じゃあ皆さんさよなら、僕は関係ないよね。」


「先生!日頃の感謝を込めてぜひ奢らせてください!」


「いやいらないけど。」


「…私からも…一杯。」


「別に欲しくないけど。」


「奢る。」


「いや断ってるじゃん。」


「え、えーと…好きなの頼んでいいから。」


「何これ、僕をどうするつもりなのさ。」


「今回は、私もあっち側なの。強制連行されるより、自分の足を使ってほしいわ。」


「…最初から逃がすきはないと。」


「…ごめん…でも…悪い話じゃない。」


「自分たちなりに、一生懸命考えたんです!」


「わ、悪い思いはしないと思うよ。」


「来て。」


「だそうよ?私としては、夏の図書委員活動の話もあるわ。」


「ちっ。分かったよ…どうせ話が終われば、1月は会わなくてすむしね。」


秀人は1人先に歩きだす。逃げる気はなさそうと判断し、他五人も歩き出した。


「で?何をするのさ。」


「…話せば…分かる。」


「本当に!悪いことにはさせませんので!」


「ま、まあ高山くんにお礼したいのは、本当の気持ちだから。」


「そうね。この3ヶ月、あなたに恩返ししたこと無かったわ。」


「感謝。」


「感謝してるならさ、僕を1人帰らせるってのは…」


その発言をした瞬間、林に背中から抱きつかれそうになる秀人。避けて林の頭にげんこつした後、さっきの強制連行は本当だったと確信した。


「痛い。」


「そっちが悪い。」


「…お願い…今回は…困らせない。」


「はあ。この状況に困ってるってのに…また集団の勝ちか。」


「本当にすみません!なんならこの場で土下座します!」


「そ、それくらいなら僕にも。」


「私も。」


「やる流れかしら。」


「やらなくていいよ面倒くさい。ちゃんと奢ってよね。」


そうして喫茶寄り道に着いた秀人たち。これから何が起こるのか、秀人は頭を痛めるのだった。

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