人嫌い、理想の休み
「学校もないし、外に出るようもない。」
「にゃー。」
「そしてバイトも休みなんだ。」
「にゃー。」
「…凄く幸せなんだけど。」
「にゃー。」
夏休み初日。海の家は八月に入ってからなので、7月中は本当に暇だった。貴重な休日をどう過ごすか、秀人の答えは家にいる事だった。
「今までが忙しすぎて、こんなにのんびりできるのは久しぶりだよ。」
「にゃー。」
ふと秀人は、スマホを取りだしカレンダーを確認する。組まされた予定も含め、基本カレンダー等にその日の予定を書くようにしていた。
「前半に海、中頃にボクシングを見せられる可能性か。後はバイトと家かな。」
「にゃー。」
「そういえば、たまも海に行くから。心の準備だけしといてね。」
「にゃー。」
そんなのんびりした一日を過ごしながら、秀人はここ三ヶ月を振り返る。始めは人付き合いのやり方を学ぶためと、自分を知らない土地までやって来た。
クラス発表の日に麗華と知り合い、その帰り道ではたまと大山と知り合った。
先生と呼ばれ、昼休み逃げ回ったら校舎裏で正子と知り合い、気づいたら昼御飯を一緒に食べていた。
「その後で腹部を犠牲に、まとまった休みを取ったんだっけ。」
「にゃー。」
「いや悪かったよ。僕だって死ぬか生きるか、危なかったかもしれないし。」
長い休みの後は遠足で想汰と知り合い、顔見知りだった彩花と話すことにもなった。
バイトを始めれば心愛にくっつかれ、おまけに会うこともないだろうと思っていた正人との再開もあった。さらには林に絡まれ、彼の周りは賑やかさを増していくのだった。
「どうして僕ってのは、願ったことと逆の事ばかり起きるんだろうね。」
「にゃー。」
「まあ君に相談したって、何も変わらないけど。」
入学までは、中学までと変わらない一人の日々が待っている。誰とも話さず、周りの人付き合いを観察して終わるものだとばかり考えていた。
始まってみれば彼を中心に人が集まり、色々な出来事をもたらしたのだった。
「んー…あんまし考えてても気が滅入るな。僕は本屋に行くよ、君も散歩してきたら?」
「にゃー。」
部屋での考え事を一旦やめ、気分転換に外へ出ることにした秀人。タマも外に出て、散歩することにしたようだ。
「じゃあ。」
「にゃー。」
秀人は最近通っている、隣駅の本屋まで歩いていく。近所だと自分を知る人がいる可能性があり、万が一邪魔されると最悪な気持ちになるからだ。
「良い天気だな。」
見上げると太陽が輝き、日に日に暑さも増していった。こんな中海に行くことを考えると、行方をくらますこともありだなと秀人は思った。
「にゃー。」
「あれ、今日はこっちに来るんだ。」
ふと鳴き声の方を向けば、タマが塀の上を歩いていた。いつもの散歩コースから離れ、違う場所へ行くらしい。
「君は冒険心があるね。僕は新しい場所なんて、何があるか分からないから行きたくないよ。」
「にゃー。」
「言うまでもないけど、見知らぬ土地だから気を付けなよ。」
「にゃー。」
そのままタマは細い路地へ消えていった。秀人も本屋まで何事もなく到着し、目当ての本や新しいシリーズを買って満足気分で帰ってきた。
「にゃー。」
「はいはい、今開けるよ。」
少し汚れていたタマを風呂に入れて、秀人は買ってきた本を読み出す。ふと置きっぱなしだったスマホを見ると、通知を告げるランプが点灯していた。
麗華[当日はどこに集まるの?]
大山[喫茶店と聞いてます!]
想汰[朝の8時…起きれるかな。]
正子[誰かの家に泊まるなんてのは、間違いないのでは?]
林[面白い。]
彩花[自分で起きなさいよ。]
麗華[朝電話するから、音出るようにしといて。]
想汰[ありがとう、助かるよ。]
大山[もし寝過ごしたら、電車で行けるんでしたっけ!]
正子[時間はかかるが、行けるな。]
林[遠い。]
彩花[代金もかかるし、最後の手段よね。]
麗華[じゃあ当日前に、また確認しあおうね。]
「知らない間に話が固まってる。」
そんなやり取りを見て、本当に行くことになったんだと改めて思う秀人だった。
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