人嫌い、雨に濡れる
6月に忘れてはいけないのは梅雨である。じめじめした空気と降り続ける雨、晴れの無い週もあったりする。
「ついに梅雨ですね!」
「…雨…苦手。」
「そうかい?僕は好きだけどね。雨が降ってると、普段より人通りが少ないから。」
「じ、じめじめしたのが苦手かな。」
「本が濡れるのは困るわ。」
「私は高山くんと同じで雨は好きだ。普段の晴れ日と違った景色が、見ごたえある。」
いつもの昼食会。さすがに雨が降っていては校舎裏は使えず、今日は秀人のクラスで集まっていた。普段から天気が悪い日には各自自由か、キズナを使い集合場所が決まればそこで食べることがあった。
「雨と言えば!この前ビニール傘を卒業したんですよ!」
「…おめ。」
「一度しっかりしたものを買えば、その分長く使えるからいいんじゃない。」
「ぼ、僕はビニール傘がいいな。壊れても安心だし。」
「でも買い換えが早いと、出費で見ればなかなかよ?」
「そうだな。まあ高い傘を買って盗られた、そんな話も生徒会には相談があった。生山くんも気をつけておくように。」
「はい!」
「…それで…新品…どう?」
「使いやすいですね!」
「じゃなきゃ不良品だよ。」
「ち、ちなみにいくらしたの?」
「4000円なので、他と比べたら安物です!」
「学生の出費と思えば、少し高い方じゃないかしら。」
「そこは人の考え方だろうな。」
この集まりに1-3組は注目していた。普段喋らない麗華の話や、近づくなオーラ全開の秀人、さらにはスベり倒した過去のある想汰。
このメンバーだけでも驚きがあったのに、生徒会長である正子や先生と慕う大山、さらには図書室の美人受付と噂ある彩花が集まっているのだ。
「そういえば彩花さん!図書委員は順調ですか!」
「…人数が揃えばね。」
「…私…頑張る?」
「無理しなくて平気よ。」
「そういや、先生に委員交渉するの忘れてたよ。」
「やる気があるならいつでも歓迎だわ。」
「う、うちの図書委員は行ってないの?」
「ええ、あの人たちよね。初日に顔を出してから、欠席ばかりよ。」
「それは良くない。夏休み前に、一度委員会の現状を聞き取る必要があるか…。」
「ちなみに先輩。幽霊委員に変わって、本当にやりたい人が出てきた場合はどうですか?」
「うん。もし高山くんが良いなら、すぐに変わってもらいたい。」
「なら放課後にでも畑山先生捕まえて、話しますよ。」
「ありがとうね。」
「先生が委員ですか!」
「…放課後…遊べない。」
「それを言ったら、今まで彼女が犠牲にしてきた時間は戻らないんだから。」
「別に気にしてはいないけれど。じっくり本を読めたし、結果的にこのグループに加われたもの。」
「ま、まあ結果論は大事だね。」
「では高山くん、委員になったら一度生徒会室まで報告してくれ。」
「それいります?」
「今回の件をきちんと残したいんだ。それにこれを機として、他委員会の調査の足掛かりにしたくてね。その為にも変わった理由を聞き、受理する必要がある。」
「この場だけの話にしてしまうと、幽霊委員の件が忘れられてしまいますもんね!」
「…手順…大事。」
「い、委員会は大変そうだね。」
「図書委員はまだ楽よ。その月のおすすめ本を出したり、生徒からの入荷要望を聞くくらいだわ。」
昼休みが終わりそうになったので話は中断、各自教室に戻ることになった。
午後の授業のあと、秀人は畑山に委員の話をするため職員室に向かった。
「なんでいるのさ。」
「…付き添い。」
「別にいらないよ。1人で職員室入れないほど、臆病でもないさ。」
「…実は…提出物…ある。」
「…まさか君が1人でいけないから来たわけ?」
小さく頷く麗華。いわく、以前職員室を訪れたものの、声の小ささにすぐ気づいてもらえなかったことがあったそうだ。
「大声出せばいいじゃないか。」
「…これ…精一杯。」
「苦労してるね。」
「…練習…する。」
「くれぐれも部屋でやりなよ。外で叫んでたら、不審者扱いされるだろうから。」
そんな話をしているうちに、職員室についた2人。名前を呼べば畑山はすぐ来た。
「おう、どうかしたか。」
「…これ。」
「ん?こないだの遠足感想文か。まあ強制提出ではなかったが…確かに受け取った。」
「僕は委員会の話です。」
「うちの委員は決まってたろ?何か問題か。」
「図書委員ですが、初日の顔合わせ以来来ていないと。そのせいで他クラスの委員が受付を担当し、放課後を潰されているそうです。」
「…それ本当か?かなり大事じゃないか。」
「…嘘じゃ…ないです。」
「生徒会長にも報告済みの案件ですから、今後話題にはなるかと。」
「おいおい!先に俺に言ってくれよ。まあ本当なら仕方ないか、それでうちの図書委員をどうしたらいいんだ?」
「話が早くて助かります。僕がやりたいので、変えてもらえませんか?」
「それはありがたいが…まあ人が少ない図書室なら高山も平気か。」
「…先生…よく…分かってますね。」
「こいつの価値観は入院中に聞かされたしな。まあ分かった、じゃあお前を図書委員に任命する。」
「ありがとうございます。じゃあ話も終わったんで、さようなら。」
「切り替え早いな。まあ引き留める理由もないし、気をつけて帰れよ。」
「…さようなら。」
話も終わった秀人達。下駄箱で靴を履き替え、外の様子を伺う。
「うわ、結構降ってるよ。」
「…傘…無事だった。」
「まあ盗る奴なんてそうそういないさ。」
そうして帰ろうした秀人達の視界に、呆然と立ち尽くす生徒の姿があった。
「…どうしたの?」
「え、声かける普通。」
その生徒は喋ることなく、ただ秀人達を見るだけだった。
「…無言。」
「知らない人に話しかけられて、警戒してるんじゃないの?」
「…分からない。」
ふらっと動き出した無言生徒は、何故か秀人にぴったりとくっつく。
「おい、なんの真似か知らないけど消えてくれない?」
「…秀人…どうどう。」
「いや迷惑だよこんな雨で…まさか傘が無いから?」
頷く無言生徒。強くなってきた雨にどうするか考えている内に、身動きできなくなってしまったらしい。
「まさかだけど、僕の傘に入れろってこと?」
「…らしい。」
「冗談じゃないよ、君の傘に入ればいいんじゃない?」
「…身長と…傘の大きさ的に…厳しい。」
「…なら仕方ない。」
そう言うと持っていた傘を無言生徒に握らせ、秀人は準備運動を始めた。
「…まさか。」
「誰かと相合い傘するくらいなら、この雨を走り抜けるさ。」
「…風邪…ひかない?」
「その時はその時さ。じっくり休ませてもらうよ…それじゃ。」
麗華が止める間もなく、秀人は全速力で走っていってしまった。傘を受け取った無言生徒は、しばらく去っていった秀人の方を見ていたが、傘を差して帰ってしまった。
「…秀人…平気かな。」
残った麗華も帰ることにし、後で秀人にメッセージを送ろうと決めた。
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