人嫌い、初出勤

「もう朝か…」


昨日の労働を思いだし、秀人はため息をついた。店が閉まる21時までしっかりと働いた秀人は、帰ってきたあとすぐに寝ていた。


「みゃー。」


「ああおはよう。その様子だと、ちゃんとご飯はもらったんだね。」


寝ていた秀人のお腹にはタマが乗っていた。昨日は大山達に世話を任せたが、しっかりとやっていたようだ。


「さて。僕は今日も行かないといけない、君はどうする?」


「みゃー。」


「分からないや。まあ好きにしといてよ。」


帰り際、店長から言われた言葉を思い出す秀人。その内容は簡単で、土日休みならまた来ないかとのこと。


「履歴書だけ作ってから行こう。午後からで良いって聞いたけど…何時からやってるんだ?」


出勤までの時間、秀人は写真の用意や初めての履歴書に戸惑ったがなんとか仕上げた。


「よし。じゃあ行ってくるね。」


「みゃー。」


「念のためご飯多目にいれたから、一度に食べるのは無しだよ。」


「みゃー。」


今日のタマは留守番の気分らしく、外に出ることはなかった。秀人は昨日覚えた道を歩いていき、20分もすれば寄り道に到着した。


「おはようございます。」


「おお来たか!本当に来るか分からなかったから、心配だったよ。」


「昨日の働き分をまだもらってないですし。」


「はは、確かに。」


「てんちょー、誰すか?」


「ああお疲れ。昨日からうちで働くことになった、高山くんだ。」


「どうも。」


「ほーん…なかなかイケメンだねー。ウチは月宮心愛つきみやここあだよー。よろしくねー。」


「はあ。」


「ちょ、反応悪いよー。」


「さてと、顔合わせもすんだし。高山くん、今日は彼女についてもらうよ。」


「分かりました。よろしくお願いします。」


「うんうんー、元気に行こうねー。」


その後着替えを終えた秀人を待っていたのは、心愛からの質問攻めだった。


「どこの学校なのー?」


「近くの鳴神学園です。」


「彼女はー?」


「いないし、作る気ないですね。」


「もったいなーい。秀人ならーモテそうだけどー。」


「そうですか。あと高山です。」


「いーじゃん秀人でー。」


「二人とも…客がいないからって仲良くしないの。」


「無理矢理です。」


「んなこと言ってーうりうりー。」


「まじで勘弁してください。」


「あははー。」


「まあ年の近い子だ。お互い仲良く、仕事しといて。」


「りょーかいー。」


「仲良くね…はあ。」


「んな顔しちゃだめー。」


ふざけながらも、心愛は仕事のことをしっかりと教えてくれた。在庫はどこにあるか、レジの打ち方はこうだとか。そのたびにメモを取る秀人、仕事は一度で覚えてなるべく教わりたくない。いや関わりたくないからだ。


「メモとるって真面目だねー。分からなくなったらーウチがいつでも教えるよー?」


「いえ、迷惑はかけませんので。」


「うけるー。」


「ほら、話してたらお客さん来たよ。」


「じゃあ秀人ーよろよろー。」


「分かりました。」


少しずつ来店しだした客を相手する秀人と心愛。心愛の口調はそのままだが、以外と人受けは良いらしい。一方秀人はマニュアル通り、きっちりとした挨拶で乗りきった。


「疲れる。」


「分かるー。ウチも初日はー頭パンクしそうだったしー。」


「本当に高山くんは飲み込み早いな。そのうちコーヒーでも作って、お客さんに出してもらおうかな。」


「そこもバイトなんですか?」


「料理のオーダーがあると、火元から離れられないんだよ。」


「たまにーウチもやるよー。」


「今客足もないし。月宮さん、試しにコーヒー入れてあげて。」


「はーい。」


心愛がカウンターでコーヒーを作り出す。その間店長と秀人は雇用に当たっての条件や履歴書の確認、週明けに学校側に許可を取ることを話していた。


「本当に助かったよ。昨日は来るはずのバイト君が連絡つかず、俺一人だったからな。」


「バックレですか。」


「そうなんだよ。多分俺と2人きりってのが耐えられんのかもな。」


「僕は気にしないですけどね。」


「ほら、店長の前でミスしたらーとか。」


「ああなるほど。」


「もしくは、月宮さん目当てかもな。」


「そんな可能性が?」


「彼女の人気は凄いよ。人懐っこいから、初めて来たお客さんにも気に入られるし。彼女の出勤日だけ来るお得意さんもいるくらい。」


「へー。」


「…興味薄くない?」


「興味ないので。」


「珍しいもんだ。」


改めて心愛を見る秀人。

金髪のサイドテール。店支給の制服を着ているが、勝手にスカートを短くしてるのか脚の露出が多い。見た目はギャルと言われても不思議ではない、しかし人懐っこい性格が悪い印象を消している。


「どうだ?興味出たか?」


「スカートが短いですね。痴女って本当にいるんだな、と思いました。あと髪の毛が料理に入ったらクレーム来そうだなと。」


「どんな着眼点だよ。まあそこは認める、男の客はあの脚に夢中だぞ。」


「…店長が言うと犯罪臭がしますね。」


「ちゃんと妻がいますから。」


「へー。」


「…興味ないからって、その反応はやめよう。」


「善処します。」


「ほいーできたよー。」


心愛のコーヒーが出来上がり、秀人と店長はそれを飲む。


「うん。ちゃんとやれてるじゃないか、これなら任せていい。」


「やったー!」


「へえ美味しいですね。」


「でしょー?愛情があるからねー。」


「きっと豆が良いんでしょ。」


「照れちゃってーうりうりー。」


「その頭小突こうとするのやめてください。」


「…本当に今日あったばっか?」


「当たり前ですよー違う学校だしー。」


「同じ学校だったら身が持ちませんよ。」


休憩もそこそこに、また来だした客をさばきだす秀人達だった。

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