人嫌い、悩みを聞かされる

「よし。片付けは俺一人で平気だから、学生はもう帰りな。」


「はーい。」


「分かりました。」


土曜日の仕事も終わり、秀人は帰り支度を始めた。


「おー。秀人ー良い体だねー。」


「…セクハラで訴えますよ。」


「やーん。そんな怖いことー言わないでー。」


「じゃあドア閉めてくださいよ。」


「えーでもー、ウチも着替えなきゃだしー。」


「まさかとは思いますが、この店更衣室はここだけですか?」


「まあねー。」


「はあ。残りはトイレで着替えますので、どうぞ。」


「一緒はー?」


「お断りです。」


更衣室を出てトイレ内で着替えを済ませた秀人は、帰る前に店長に確認することにした。


「お疲れ様です。」


「おうお疲れ…どうしたその顔?仕事終わりより疲れてないか?」


「お聞きしたいんですが、ここの更衣室事情は?」


「奥に1部屋だな。」


「男女共用ですか?」


「…言いたいことは分かった。まさかと思うが、月宮さんの裸を?」


「逆ですよ。ガッツリセクハラされそうでした。」


「まじか。」


「本当です。なので、トイレで着替えました。」


「それは悪かったな…でも今まで月宮さん、入る前は必ずノックしてたような。」


「じゃあ何ですか、僕だって分かってたから開けたと?」


「今日の様子じゃ、結構仲良さそうだったぞ。からかいたかったとかじゃねーの?」


「もしそうなら他の職場を…」


「分かった悪かった!そうだな、明日は来るか?」


「ええ。なるべく早めに覚えたいので。」


「分かった。ロッカーは更衣室のを使ってくれ、着替えは別の部屋を用意する。」


「お願いします。」


「あれあれー?秀人、ウチの事待ってたー?」


「違います。異性からのセクハラを相談して、今解決しました。」


「こら月宮さん。男子が出勤の日はノックしてって、お願いしたじゃんか。」


「他のバイトと一緒なのー、久しぶりだったからー。」


「ぐっ。言葉が痛い。」


「それにー、秀人なら見られても良いよー。」


「結構です。」


「遠慮しちゃってーうりうりー。」


「やめろ。」


「…仲がよろしいことで。そうだ高山くん、月宮さんを送ってあげれない?」


「僕がですか。」


「ほんとー!そうしてくれるとーウチも嬉しいなー。」


「いつも遅い時間で暗い中、一人で帰らしててな。特に事故なんてなかったが、どうにも不安が消えなくてよ。」


「じゃあ平気ですって。」


「ウチー一人だとー襲われちゃうかもー。」


「冗談でも言うな。こっちは片付けしながら、毎度心配してるんだから。」


「てんちょー優しいねー。」


「はあ。帰る方向は?」


「あっちー。」


「僕の家も同じ方向です。たまたま同じ道なら、仕方ない。」


「すまん、頼むよ。これで安心して片付けられるってもんだ。」


「僕が襲う可能性は考えないんですか。」


「そんな人ならーウチ分かるもん。」


「高山くん、今日一日を通してやらしい目をした事無かっただろ?他の男よりは信用できる。」


「はいはい。じゃあ帰りますね、お疲れ様でした。」


「あー待ってよー。乙でーす。」


「おうお疲れ。また明日頼むぞ。」


帰路につく二人。店を出てからも、心愛からの話は終わらない。


「学校はたのしー?」


「楽しくはないですが、勉強のため通ってますね。」


「そかそかー。ウチも楽しくないのー。」


「そうですか?その性格なら、毎日楽しそうって感じしますけど。」


「んーとねー。ウチ、学校だとービッチ?て呼ばれちゃってー。」


「なるほど。」


「まだ付き合った相手もいないのにー経験豊富って言われてー。」


「はいはい。」


「そんでーよく告られるけどー知らない人ばっかりー。」


「まあ経験豊富なやり手だと、周りは思ってますから。」  


「ちゃんと断るのにねー、男を選び放題?とか大喰い?て噂がー止まらないのー。」


「振られた男が悪い噂に乗っかって、復讐してる気分なんでしょうね。」

 

「まだ初めてなのにーヤりまくりだとかー。」


「見た目の判断9割ですね。」

 

「でしょー?だからーあんま楽しくないー。」


「苦労してますね。でも一人って訳じゃないでしょ?」


「まーねー。ちゃんとお友だちはいるけどー、少なめー。」


「なら噂も気にしない、その友達たちと遊んでれば良いじゃないですか。」


「でもウチがいるとー、その子達も言われそうでー。」


「そんなの気にしてたら、はなから友達なんてなりませんよ。むしろ離れていったら、その程度では。」


「…難しいねー。」


「その悩み、友達に話したことは?」


「ないないー。」


「なら話した方がいいですよ。一度腹割って話した方が、前に進みます。」


「やーん。秀人は優しいねー、ウチの学校に来ないー?」


「毎日あなたに絡まれるのはきついです。」


「つめたー。あと、同い年だしーフランクにいこーよー。」


「…分かったよ。僕もこの方が楽だし。」


「良いねー。」


「それで?家はどこなのさ。」

 

「通りすぎたー。」


「あ?」


「怒らないでよー、秀人に相談できてー嬉しかったのー。」


「ああそうかい。じゃあ引き返すよ。」


「もういいよー。」


「送ることを頼まれたんだ。途中で投げ出すのは、嫌いなんだよ。」


「本当はーウチの家を知りたいのかなー?」


「さようなら。」


「やーん、嘘だから行かないでー。」


「分かったからくっつかないでよ。」


「でも不思議だなー。」


「何が。」


「ウチ、こうやって距離が近いんだー。ウチが近いとー男の子は勘違い?するんだってー。」


「まあそうなるだろうね。距離を詰められると、自分を好きなのかって勘違いする奴。」


「そうなのー?ウチはー特になにもないのにさー。」


「男子はそんなもんだよ。それで気があるって勘違いして告白、実はそんな気無かったと知ると自分を騙した悪女って言われるんじゃない?」


「まじかー。」  


「そんな事を何人も言えば、君が男で遊んでると言われても不思議じゃない。そのうち振られたことを隠そうと、一回ヤってさようならなんて言い始めたりね。」


「うえーん。ウチはただーお喋りしただけなのにー。」


「いやガチ泣きやめてよ。」


「だってー本当のウチはーそうじゃないもんー!」


「そこも含めて、友達とやらに話しなよ。一人で悩むから煮詰まるんだ。」


「…ぐすっ。分かったよー。明日ーお店に呼ぶねー。」


「…まさかとは思うけど、僕も参加するわけ?」


「今の秀人ーすごいカッコよかったよー。それにー秀人がいたらー話す勇気もらえそうー。」


「まあ好きにしなよ。僕は働くだけだし。」


「はーい。じゃあここが家だからーばいばーい。」


「お疲れ様でした。」


こうして秀人は無事頼まれ事を済まし、家に帰るのだった。


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