人嫌い、働く

「では集まって早速だが、帰ろうか。」


「はい!疲れたので、家で休みたいですね!」


「…次は…負けない。」


「ま、また機会があったらよろしく。」


「練習しておくわ。」


「集まる必要ありました?」


「なに、各自自由解散とすると遅くまで遊び、補導に引っ掛かる場合も考えれる。前もって時間を決めておけば、熱中していてもやめれるだろう?」


「なるほど!考えが深いですね!」


「ふふ、これでも会長だからね。」


「まあ僕には勝てない程度の会長ですよね。」


「…いじわる。」


「に、にしても上手かったね、高山くん。」


「そうね。でもお高くいられるのも今日で最後、必ず負かすわ。」


「いい気合いだね姫野くん。私も負けてられないな。」


「君って以外と負けず嫌いだよね。」


駅前ということもあり、帰りは同じ方向のグループで帰ることになった。秀人方面に大山と麗華、他3人は全員が同じ方向だった。


「では気をつけて。明日からは休みだから…月曜に!」


「じゃ、じゃあね。」


「それじゃ。」


「さようなら!」


「…ばいばい。」


「お疲れさまでした。」


それぞれの方向へ歩き出し、今日の集まりは終了を告げた。


「にしても!この三人で帰るのは久しぶりですね!」


「そうだっけ?最近騒がしいから、気にしてなかったよ。」


「…正子さんたち…一緒。」


「ええ!人数が増えて六人帰りが多かったですが、最初はこの三人でしたね!」


「別に一緒に帰りたくは無かったけど。」


「…またまた。」


「ムカつく言い方ありがとう。」


「先生は凄いですよ!短い間とはいえ、こんなにも輪を広げて交流してますし!」


「望んだことではないさ。なんなら一人気ままに、高校生を楽しみたかったのに。」


「…またまた。」


「腹立つ。」


駅からの道で歩いていたため、普段とは違う場所を歩いていた秀人達。ふと視界に、喫茶店が見えた。


「あれ?こんな店あったんだ。」


「いつも通ってる学校寄りの道だと、まず見えないですから!」


「…初見。」


「コーヒーか…悪いけど僕は一杯飲んでくよ。先帰ってくれると、とても嬉しい。」


「お供しますとも!」


「…小腹…空いた。」


「あーはいはい。」


喫茶寄り道に入っていく秀人達。変わった名前の店だが、店内にはちらほらと客の姿があった。


「いらっしゃい。空いてる席でお待ちください。」


店主一人だろうか、オーダーをこなしながら注文を聞く姿が見えた。


「個人営業って感じだね。」


「落ち着いたいい店ですよ!」


「…でも…忙しそう。」


「お、分かる?はいこれ、メニューね。」


「どうも。」


「お一人で回されてるんですか!」


「いやー、バイト募集してるけど…みんなチェーン店とかで働いてるのか、こっちに来ないんだよ。」


「…あらま。」


「じゃ、決まったら呼んで。」


店長はメニューと雑談を済ませると、食べ終わった客の会計をしていた。


「…これは…苦労。」


「確かにね。」


「先生!ここぴったりでは!」


「え、バイトの話?」


「…ちょうど…募集中。」


「しかも人がいないならすぐ採用!そして働き始めも早いはずです!」


「いや言いたいことは分かるけど…まじで言ってる?」


「なになに、バイト探し中?」


「はい!こちらの先生が、働き先を見つけたいそうでして!」


「…良かったら…どうぞ。」


「僕を置いて話を進めないでくれるかな?」


「バイトなら歓迎だ!君、名前は?」


「高山秀人です。」


「うんうん。この後暇かな?」


「まあ特に用はないですが。」


「ひとまず着いてきて。」


「え。」


店主に呼ばれるがまま、裏手に行った秀人。残された麗華と大山は、どうしてるかと心配だった。


「店主さん大丈夫ですかね?先生の機嫌を損ねると、拳が飛びそうですが!」


「…おっかない。」


「人をなんだと思ってるのさ。」


「あっおかえな…その格好は。」


「制服だってさ。」


「…どうして…着てるの?」


「バイト体験だって。」


「…おつ。」


「ご苦労様です!」


「はあ。まあやってみるけど…ご注文はお決まりでしょうか?」


「…秀人の…笑顔。」


「初めて見ましたよ!」


「作り笑いくらいできるさ。」


「…紅茶と…ケーキ。」


「自分はサンドイッチを!」


「かしこまりました。」


注文を聞いた秀人は店主の元へ向かい、オーダー表を見せる。


「店長。4番テーブルです。」


「なんだバッチリじゃないの。分かった、できたら持ってって。」


「あの、まじで今日働くんですか?」


「ちゃんと給料出すから。なんなら明日から来てもいいよ。」


「まだ履歴書も書いてないのに。」


「そこは…気にしない気にしない!」


笑って済ます店長と、それを見て今日は遅くなることを知った秀人。出来上がった料理を運び、帰る客がいたら店主に会計をしてもらう。机を拭き、次に客が来たら案内。

遠目に見ていた麗華達からすると、もう慣れ始めたバイトに見えたが、実際は初日だ。


「お待たせしました。あと悪いけど、この様子じゃ帰りが遅くなる。鍵渡すから、僕の部屋前で待ってるタマを中に入れて、餌あげといて。」


「はい!先生も頑張ってください!」


「…任せて。」


「鍵は郵便受けに入れといて。」


せっせと働きに戻る秀人。麗華達は任された仕事のために早く食べ終わり、店を出ていった。


「あれ、友達帰った?」


「友達ではないです。あいつらなら、先に帰しましたよ。」


「そうか。一緒に帰っても良かったんだが、今日は体験だし。」


「そうも言えませんよ。任された仕事を放り出してまで、あいつらと帰りたいわけでもないですから。」


「…なんか高山くん、変わってんな。」


「どうも。」


そうして秀人のアルバイトは、以外な形で始まった。

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