人嫌い、キレる
「まあ、わざとじゃないとは思ってたが。まさか初めて触るもんで、ミュートも知らないとは驚きだぞ。」
「今までの人生にて、使う必要がなかったもので。」
「こいつの使い方こそ、学生のうちに覚えとけ。うまく使えば付き合いなんて、全部これで済むぞ。」
「それを聞くと、すごくやる気が出ました。」
「とりあえず、今後は鳴らすなよ?次は放課後残りで反省文だからな。」
昼休み。朝鳴らしてしまった携帯を取りに来た秀人は、畑山から無事返してもらえた。親切なことに扱い方も多少教えてもらえ、助かった秀人だった。
「なるほど…上の時計辺りを触るとメニューが…ふんふん。」
歩きスマホ。誉められた行為ではないが、教わったことを忘れないように操作をしていた。初めて触る機械なのに、秀人は説明書は読まないタイプであった。
「先生!お疲れ様です!」
「えーと、音の消し方がこうで…」
「先生?先生!」
「ああごめん、僕忙しいから。」
「見てわかりますが、そのまま行くと壁にぶつかります!」
「え?」
歩みを止め前を見る秀人。大山が言った通り、廊下の突き当たりまで気づかず歩いてきたらしい。あと二歩で壁に当たっていた。
「だめだね。集中すると周りが見えない。」
「分かります!自分も貰った日は、寝る間も惜しんでいじってました!」
「じゃあ僕は適当な場所で、これの使い方勉強しながら食べるよ。」
「言いにくいですが…自分が来たのは先生を連れていくためでして!」
「もしかして、僕のお隣さんが何か?」
「はい!もし来ないなら、覚えておけだそうです!」
「参考までに聞くけど、素直に行くのと逃げるの楽なのは?」
「行くほうかと!麗華さんがその気になれば、先生は学校で1人になれないかと!」
「…僕の安息のためか。」
「はい!自分としても、今回は麗華さん側なので!」
「つまり君も敵って訳ね。突破は簡単だけど、後を考えると面倒。」
「では行きましょう!」
観念した秀人は、大山に連れられいつもの食事場所に行く。もし断っていたら、ただでさえ少なくなった1人の時間がさらに減り、ストレスによる弊害がでると秀人は考えた。今こうして職員室に行くのにも、さりげなく麗華は付いてこようとしていた。
「それで?想像はつくけど、何て言ってたの。」
「スマホを持っていたことを言わなかったとか!持っているなら、1人目の友達として登録したかったとか!そんなことを言ってました!」
「聞かれた覚えないし、友達でもないのに。調子が良いこと。」
「まあまあ、麗華さんにとっては先生が始まりですから!」
「友達一号って言うなら、君がぴったりじゃないか。」
「いえ!先生には負けますから!」
「なんの勝ち負けなのさ。」
「…やっと…来た。」
「やあ高山くん。聞いたぞ、ついにスマホデビューらしいな。」
「だ、大丈夫だった?」
「お邪魔してるわ。」
「麗華さん!先生をお連れしました!」
「…うむ。」
そういって麗華は大山にジュースを一本渡した。どうやら報酬のようだ。
「僕はジュース一本の価値ってこと?」
「…仕事には…対価を。」
「さすがに物をもらっては、断れませんでしたので!」
「あっそう。じゃあさっさとご飯食べて、僕は帰るとしますか。」
「…待った。」
何事もないかのように食べ始めようとする秀人の手を、麗華は握って止めた。
「…なんの嫌がらせかなおい。これが、この行為がどれだけ僕を怒らせるか知ってんのか?」
「まあ落ち着け。麗華くんは、君が来るまでずっと待っていたのだ。」
「ぼ、暴力はなしで。」
「なんでも、大事な用らしいわ。気持ちはわかるけど、まずは拳を下ろしてあげて。」
「先生!殴るなら連れてきた自分を!」
「…ごめん。」
「…まあいいや。これから食べるってのに、手が汚れたら嫌だからね。」
拳を下ろす秀人。周りが止めていなければ、ためらいもなく麗華を殴っていただろう。そうなれば、麗華はただではすまなかったはずだ。
「ほ、本当にやるかと思った…」
「当たり前でしょ?手にゴキブリが止まった、僕にとってはそんな感覚さ。」
「高山くん。食事中にその名前を聞くと、食欲が無くなるので控えてくれ。」
「蔵野さん。命がけで彼を止めたのはいいけど、何がしたいの?」
「…アドレス…交換。」
「はっ、今の僕は気分最悪さ。」
「先生!お気持ちは察しますがどうか、頼めませんか?」
「お互い、冷静になるといい。ここは先輩である私が、しっかりと仕切ろう。」
「せ、生徒会長に任せます。僕なんかだと、油を注ぐだけだし…」
「じゃあ私は傍聴してるわ。」
「自分は…熱くなりすぎてるので、空気を吸ってきます!」
そうして始まる、ただアドレスを交換することが目的の話し合い。解決するだろうか。
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