人嫌い、やらかす

「じゃあ行ってくるね。」


「ミャー。」


月曜日、それは休み明けの地獄である。秀人は登校準備を終え、学校へ行こうかと玄関に立ったときだった。


「ああそうだ。せっかくだし、携帯持っていくか。触ってれば、誰も話しかけてこないかも。」


普段持ち歩かないと、それをどこにやったか忘れてしまう。わざわざ買ってもらった携帯をポケットに入れ、秀人は学校へ行くのだった。


「…おは。」


「おはよう。」


校門前で麗華に遭遇。会ってしまったからには無視できない秀人は、とりあえず話すことにした。


「…休み…どうだった?」


「何その質問。僕のプライベートが気になるの?」


「…暇なら…遊ぶ。」


「この二日は忙しかったよ。タマが帰ってきて、猫用の家とか買いに行ってたから。」


「…なる。」


「そもそも、僕が暇だとして遊ぶなんて…本気じゃないよね。」


「…近くに…ケーキ屋…できたの。」


「まさかそこに?」


「…一人だと…心細い。」


「僕じゃない人は駄目なの?」


「…大山は…バイト…彩花…もう行ったって。」


「いつの間に連絡先交換したのさ。」


「…この前…帰るとき。」


「みんな忙しいんだよ。つまり、僕も忙しいって訳さ。」


「…今日…行く。」


「ああどうぞ。気をつけて行ってらっしゃい。」


「…むう。」


教室に着いた二人は席に着く。すると想汰がやって来た。


「お、おはよう二人とも…やっぱ付き合ってるの?」


「…ばれた。」


「んな訳無いでしょ死にたいの?」


「ご、ごめん。クラスのみんな、そこが気になってるんだよ。」


「気になってるなら、直接聞けば良いじゃないか。」


「そ、そんなわけにいかないよ。声をかけるってのは勇気がいるんだよ。」


「…分かる。」


「そんなもんかな?じゃあ君の口から否定しといて、蔵野さんはフリーで募集中ですって。」


「…別に…彼氏は…いらない。」


「ま、まあ聞かれたらそう答えるよ。こないだ博物館の後から、よく聞かれてたんだ。」


「なるほどね。僕たちと一緒にいた君なら、聞くのに勇気はいらないわけだ。」


「…おつ。」


「先生!おはようございます!」


大山がやって来た。毎朝の光景なので、他のクラスメイトは反応しない。


「まずこれが昼の分です!」


「そろそろパン渡してくるのやめない?」


「財産が尽きたら、やめる所存です!」


「…気合い…入ってる。」


「こ、これはパシりとは違いそうだね。」


「あ、そうだ先生!無いと思うのですが、麗華さんとお付き合いされてるのですか?」


「ないよ。なんで朝から同じ質問されて、同じ答えを言わなくちゃならないのさ。」


「…ないない。」


「ですよね!いやーこないだの遠足で麗華さんを見たやつから、彼氏はいるのかとよく聞かれまして。」


「わ、分かるよ。遠足は全クラス来てたから、一気に注目されたんだね。」


「…めんどい。」


「いいじゃないか。君を気になってる奴に片っ端から、お友達からって言えば。」


「…それは…違うと…思う。」


「先生、男子というのは欲を隠すことが下手です。仮に友達になれても、ワンチャン彼氏とか良い思いしたいとかで馬鹿なことしかしませんよ。」


「も、もし純粋になりたい人がいるなら、ちゃんと紹介するよ。」


「…友達は…募集中。」


「お、てことは僕も下心満載で接したら嫌われるのか。」


「…秀人には…無理でしょ。」


「まあまず、良い思いしたいなんてこれっぽっちもないし。なんなら、遠く離れて静かに過ごしたい。」


「流石です先生!自分は、ちゃんと友達付き合いしてみせますよ!」


「ぼ、僕なんかはこうやって話の輪にいるだけ、良い思いしてるから。」


「…ありがと。」


「では先生!そろそろ自分のクラスに戻りますので!また昼休みに!」


「ぼ、僕も席に戻るよ。」


大山はクラスに、想汰は席に戻っていった。気づけば朝のホームルームの時間であり、すぐに畑山が入ってきた。


「おーい席につけ。始めんぞ。」


ホームルームの内容は、すぐに迫った中間テストの話が多かった。授業の復習はしっかりやれとか、当日は遅刻しないように等言われた。


「よし、今日は俺の授業からだからな。しっかり用意しとけよ。」


各生徒準備を終え、チャイムと共に授業は始まった。このクラスには授業中騒ぐ生徒もおらず、他と比べると静かに授業が行われていた。しかし、だからこそ携帯が鳴るとすぐにばれる。


「ん?おい誰か携帯触ってるか?」


授業半ば、鳴り響いたピコーンという電子音に畑山は黒板を書く手を止めて振り替える。そこには、手を挙げている秀人がいた。


「すみません。音の切り方が分からず。」


「はあ…ちゃんと申告するのは偉いが、ルール上没収な。昼休みにでも取りに来い。」


「そこは放課後じゃないんですか?」


「初回だからな。軽く説教して終わりにしてやる。」


秀人の携帯は没収され、後で取りに行くことになった。


「…スマホ…あったの?」


「…ううん僕のじゃないよ。」


それは同時に、隣の麗華に持っていることがバレた瞬間だった。

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