人嫌い、遊ぶ

「先生!暇なので、何か遊びませんか?」


「よりによって僕に聞く?まあ、あと2時間は時間潰さないとね。」


「…やる。」


「あんまり激しくないのがいいわ。」


「さ、参加しても良いの?」


公園でただ喋って過ごしていた五人だが、さすがに話題もなくなった。人は話すことがないと、何故だか気まずい雰囲気を感じる。秀人は喋らない事こそが嬉しいのだが。


「では何をしましょう?五人となると…だるまさんが転んだとか!」


「…缶けり…良い。」


「向こうに遊具があったわ。靴飛ばしなんてどう?」


「か、かくれんぼかな。」


「よくそんなに思い付くね。」


まず、かくれんぼは無しになった。この公園では広すぎる上に、秀人を見つけられる自信が誰にもなかった。


「先生を見つける…不可能ですね!」


「…秀人の…本気…むり。」


「酷いね。遊び程度に気配は消すよ。」


「じゃあ、まずはだるまさんしましょう。」


「だ、誰が最初にやる?」


「ここは言い出しっぺの自分が!」


大山は近くの木に向かいながら、ルールを確認する。


「最初の一歩はありですか?」


「…なにそれ?」


「…最初に…飛ぶ。」


「鬼に近づけるのよ。ただ、鬼はタッチされたら振り返って次の鬼を捕まえる。その時にとっておけば使えるわ。」


「ま、まあ地域によってはないルールだね。」


「では、今回はなしでお願いします!」


「他には何かあるの?」


「お、鬼は言いかけたら最後まで言いきる。じゃないと、タッチした子が不利だから…」


「…言ってる間…動く。」


「それもローカルらしいわ。」


「…ちょっと…ショック。」


「じゃあまとめると、鬼が背中を向けてる間近づいてタッチ。動いたら捕まると。」


「ですが、捕まった人もタッチすると助けられます!」


「…助けないと…タッチ…できない。」


「へー、捕まる分助ける労力ができるわけね。」


「小指を切るとも言うわ。」


「ま、まあやってると分かるよ。」


ちゃんとやろうとすると、子供の遊びというのはルールが多く存在する。昔はその場で何となくやれていたが、いざ成長してルールを学ぶと小難しく感じられる。


「それでは…だるまさんが転んだ!」


いきなり始める技を使った大山。しかし予想されていたか、誰も動かなかった。


「そうでした…鬼は振り返って10秒カウントにします!」


10秒経つが誰も動かず、大山は次に進む。


「では…だーるーまーさんが転んだ!」


前半を伸ばし油断させる。すると距離を稼ぐため、急に止まるとバランスが悪い状態で止まる場合がある。


「…あっ。」


「麗華さん、アウトです!」


麗華は距離を稼ごうと大きく動いていた。大山が振り向いたとき、麗華は片足が浮いた状態だった。


「…不覚。」


「他はいないですね。では…だるまさんが」


さっき捕まえた麗華がすぐに助けられ、別の手がタッチしてきた。


「転んだ!ストップ!」


慌てて言葉を言いきり、動きを止める大山。どうやら彩花が麗華を救出、いつの間に近くにいた想汰がタッチしたようだ。


「ふ、ふふ。僕の薄さが役に立つ日が来るなんて。」


「…助かった。」


「すんなり行けて良かったわ。」


「…自分の敗けです。ここから3歩が条件として、届きそうにないです!」


ほんの一瞬油断した隙に、3人は遠く離れていた。ちなみに、秀人はスタート地点から2歩進んだだけだった。


「早い決着だね。」


「次は勝ちますとも!」


「じゃあ交代ね。」


「…私…やる。」


「じょ、女子にタッチ…通報しない?」


この後何回か鬼を変えてやり、30分は時間が経った。


「…秀人…強い。」


「背後とはいえ、近づく気配に会わせるのは簡単だよ。」


「凄いわね、後ろに目があるようだったわ。」


「ぼ、僕なんかすぐ捕まっちゃったよ…」


「先生には敵いませんね!」


「次は缶けりだっけ。缶を蹴って、拾ってくる間に隠れるんだよね?」


「…簡単。」


「ちょうど飲んだ缶もあるし、すぐ始められるわ。」


「つ、次は僕が鬼をやるよ。」


「では自分、蹴ります!」


缶けりもそこそこに盛り上った。大山の蹴りは容赦なく、1度缶を紛失する距離まで飛ばされた。大山はキック役禁止となり、麗華や彩花などあまり飛ばない面子が蹴った。


缶けりは秀人もちゃんと参加し、気配を殺して鬼の不意をついて何回も勝ちを得た。しかし見つかったときには悔しがる顔もした。


「くそっ、少し甘くなったかな。」


「…悔しい?」


「大丈夫ですよ!普通あれだけやられたら、心折れますから!」


「そうね。何回か見つかったのも、偶然が強いわ。」


「つ、強いよ高山くんは。」


秀人としては、人に関わられない為には気配を殺すこと。そこにいると思われなければ、話しかけられないと気づいた日から、存在を消す努力をしていた。それが偶然にも破られたことは、悔しさ以外なかった。


「で、最後は靴飛ばし?」


「ええ。ブランコを漕いで、靴を飛ばすの。勝敗は飛距離だから簡単よ。」


「帰りの時間も考えると、後30分ですね!」


「…缶探し…時間かかった。」


「ご、ごめんね…僕が見失ったから。」


「いえ!はしゃぎすぎた自分の落ち度です!」


彩花が見つけたと言うブランコに到着、早速秀人から飛ばすことになった。


「周り誰もいないよね?こんなとこまで来て、揉めたくないけど。」


「いざとなったら、自分がキャッチします!」


「…こっち…OK。」


「右も問題ないわ。」


「こ、こっちも平気そう。」


しっかりと安全を確保して行い、ここは大山が勝利した。次に麗華が飛ばし、秀人・彩花・想汰の順位だった。


「やりますね麗華さん!」


「…よゆー。」


「どうやったらあんなに飛ばせるやら。」


「わからないわね。」


「ぼ、僕はビリかぁ。」


時間も良いところだったので、五人は帰ることにした。

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