人嫌い、油を注ぐ
「あっ先生!探しましたよ!」
「…逃げた…かと。」
「デ、デートしてたのかな?」
「自分で言ったことくらい守るさ。デートって…頭イカれたの?」
「ただ同じ店で食べただけよ。チェーン店ならではの変わらない味、冒険するよりは安心でしょ?」
「…秀人…一緒に…食べた?」
「各自自由にって伝えたでしょ。」
「それで先生!次は何処へ行かれるのですか?」
「…博物館…終わった。」
「ど、どうせならさ。ゲーセンとか…」
「僕は散歩でもしてくるよ。時間には戻るつもり。」
「私もそれに加わることにしたわ。」
「散歩ですか!この辺は大きい公園もあって、緑豊かと聞きますね!」
「…面白い…かも。」
「ど、どうせ僕の意見は消えますよ。」
「いいよ?行ってきなよゲーセン。僕は外に出るから。」
「…散歩に加えてください。」
想汰は折れることにした。ここで意地を貫いてゲーセンに入ったとして、やれることは少ない。クラスメイトに見られては最悪だ。
「ま、来るなら良いけど邪魔したら容赦しないから。」
「では行きましょう!少しなら、お力になれると思います!」
「…行こ。」
「川辺とかあるかしら?静かな場所が知りたいわ。」
「こ、これでボッチレッテル解消…へへ。」
他人から見れば不思議な集まりだった。一緒にいるが一言も話さず歩く少年。そんな彼に話しかける明るい少年と寡黙な少女。喋らない少年の横を歩く、こちらも口数が少ない少女。そして輪にうまく入れず、後ろであたふたする少年。どうやったらこの関係が築けるのか、誰も想像できなかった。
「あれ?彩花じゃん。私達の誘い断って、こんな奴等といたの?」
「あなたに関係ある?」
「あるある!先生に頼まれて、誰とも組んでない可哀想な彩花ちゃんグループに入れてあげたのにぃ。」
「私は頼んでないのよ。それに、あなたたちの名前すら知らないわ。」
「ひっどーい!」
「あなたたちといるより、彼らの方が楽しいし気が楽だわ。ちゃんとグループを見つけたから、安心して放っておいて。」
「おいおい、俺の彼女に失礼じゃね?」
相手は彩花と同じクラス。自分達が助けてやったんだと恩着せがましい態度が、彩花は気持ち悪かった。
「失礼?どこかにそんな所あったかしら?」
「さあね。多分説明しても、理解できないと思うよ。」
「おっしゃる通りです!」
「…アホ。」
「な、なんで噛みつくかなぁ。まあ、あの手のタイプ、僕も嫌いだけど。」
「…聞いてりゃなんだお前ら!」
彩花1人なら良かったが、この場にいるのは全員がはっきり言うタイプ。男を怒らせるには十分な言葉の数々だった。
「おいお前ら、なんか問題か?」
「あっちが姫野さんに絡んできて、あと一歩で殴りあいです。」
「ち、違いますよ先生!俺はただ、同学年の男子と仲良くなろうって。」
「…本当か?」
「違いますよ。だいたい、僕が友達作るわけないでしょ。」
「だよなぁ。まあ今回は証拠不十分、とりあえずお咎めなし。ただ、問題起こす気があるなら覚悟しとけよ。」
「だそうよ、名前も知らない人達。」
「おい姫野。なに油注いでんだよ。」
幡山は軽く頭を叩く。教師としては、揉め事があると解決のため動かなくてはいけない。今日は巡回してれば良いだけの楽な日、それだけは嫌だった。
「暴力は良くないですよ。」
「これでお前らが止まるなら、安く済むわ。じゃあお前ら、ほら行った行った。」
「…覚えてろよ。」
「うわ聞いた?いかにも三流だよあれ。」
「今時いるんですね!あんな捨て台詞、思い出して恥ずかしくなるまでがコースですよ!」
「…キモい。」
「高山くんが勝ったってことは、このグループ末端の僕の勝ち…ざまあみろ!」
「…お前らなぁ。」
幡山は諦めた。去っていった生徒の目は、明らかに暴力に出ると見た。秀人達が静かに見送れば、まだ大人しくしてたかもしれないが。
「ては先生、僕ら外に出ますので。」
「まあ自由行動だからな。歩くにしても、この二つの建物周り。あと集合に遅れない範囲にしろよ。毎年馬鹿が離れすぎて、待つために全体が遅れるんだ。」
「少なくとも、僕はちゃんと帰ってきますよ。」
「…同じく。」
「ご心配ありがとうございます!」
「私も、規律を乱す真似はしないわ。」
「そ、そんなヘマしないです。目をつけられたくないし…」
「じゃあ行ってこい。さっきの連中がいたら、近づくなよ。次は本当に手を出す気だぞ。」
「その時はその時です。後悔させます。」
「…それが心配なんだよ。」
幡山が心配するなか、秀人達は施設回りの探索に行くのだった。
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