人嫌い、歴史を楽しむ

「おお、これは凄いね。」


想汰と別れ、清々しい気分で博物館を楽しむ秀人。彼が興味を持つのは内乱や裏切りなど、醜さ満点の歴史ばかり。世界の歴史が集まってるとあり、多くの国の繁栄や滅亡が記されていた。


「自分が選んだ腹心に情報を流され、抵抗むなしく惨敗…いいね。」


そんな人の醜い歴史こそ、秀人は好物だった。改めて人の醜さを知り、そしてこうはなりたくないと思えるからだ。


「あら、楽しそうね。」


「ん?どうも。」


声をかけられた方を向けば、図書室の受付をやっている女生徒がいた。


「彼も残念よね。親友と言える人に騙されて、国が終わるんですもの。」


「仕方ないよ。いくら親友でも、言っちゃいけない情報を区別できない彼が悪い。」


「へえ、面白いわね。」


「それにほっといても終わる国よりは、情報を売って確かな繁栄ある国に行く方が頭が良い。」


「それは同意するわ。民たちも、大きい国に吸収されて長生きしたでしょうに。」


「話がわかるね。じゃあ。」


「ええ、さよなら。」


以外と話せた。秀人としてはそこまで語るつもりはなかったが、まさか共感が帰ってくるとは思えず、少し話が長引いてしまった。


「次は…これにするか。」


秀人が次に選んだのも、裏切りよって滅んだ国だった。


「あら、どうも。」


「こんにちは。」


まさかとは思ったが、先程の女生徒がいた。どうやら彼女も、同じ裏切りを見に来たらしい。


「これは有名よね。王の飲み物に側近が毒を混ぜて、民衆の前で殺したのよ。」


「事前に毒味させない間抜けさもあるし、側近の手際に感服するよ。」


「どうして王は、毒を入れられたのかしら?」


「上に立つ人間なんて、下で踏まれてる人間を見ないからね。普通に鬱憤が爆発した…もしくは自分の娘を襲われたとか。」


「結末までのストーリーなんて、見た人の憶測しかないものね…娘を奪われるというのは、復讐にちょうど良いわね。」


「一番あり得るのが、最初から敵国の兵士だったとか。」


「でもそうすると、裏切りではなく策略だわ。」


「だからこそ、そうじゃない可能性を探るのが楽しいのさ。」


「確かにね。」


2人黒い会話をしていると、秀人は後ろから聞こえる駆け足に振り向いた。見れば麗華が、物凄い勢いで近づいてきていた。


「先生すみません!もう自分には無理です!」


「…1人でって…言ってた。」


その言葉と同時に、秀人に飛び付く麗華。秀人は後ろの展示物を守るために、げんこつで打ち落とす。顔から落ちたものの、麗華は普通に立ち上がり話を続ける。


「…賭けは…1人で…回るはず。」


「1人で回ってたよ。同じ展示物に興味を持ったどうし、意見交換をしてたのさ。」


「そうね。彼の意見、そこらの頭空っぽな連中よりは面白かったわ。」


「まあここに来てる奴等は、しっかりと裏まで考える頭はないよ。早く終われって連中と、眺めるだけで学んだ気になる連中ばっかでしょ。」


「まあ中には、こうして話し合えるほどに頭を使う人もいるわけね。」


「…私も…行く。」


「先生!ご無事ですか?」


「どうしてこうなったの。見守り頼んだのに、僕の頼みは無視かな?」


「麗華さんは、1人で回ることを邪魔しない。そう主張してまして!他人と話してる先生を見て、無効になったと止まらなかったです!」


「…いつもなら…すぐに…突き放すはず。」


「関わる価値もない相手に時間を使うのは、無駄だし疲れるんだよ。」


「あら。私はいいの?」


「この手の話題で話せる人は、そういないからね。」


「確かにね。私自身、最初の返答がありきたりだったら近づきたくなかったもの。」


「先生は面識があるんですか?」


「…図書室…受付。」


「そういえばあなた、前に彼が借りた本を借りた人ね。」


「本当に読んだんだ…どうだった?」


「…胸が…モヤモヤした。」


「それが正常なのさ。」


「そうね。あの作品は、人の黒い部分描写がきついもの。」


「僕はそこが好きなんだよ。ああも人の醜さってのを、言葉で表しきるところがね。」


「…難しい。」


「それで先生、どうしましょうか。」


「もういいや。有意義な話もできたし、後ろを着いてくるくらい気にしないさ。」


「…ごめん…なさい。」


「謝るならやらないでよ。ただ、回る場所は僕の行きたいところにするからね。」


「先生にお供できるなら、どこへでも行きます!」


「…おけ。」


「ちなみに、次は何処へ行くの?」


「ベタだけど、ブルータスを見に。」


「良いわね。行きましょう。」


二人は思った。どうせここで別れても同じ展示物で会う。いちいち挨拶するのも面倒なので、揃っていこうと。


麗華はそれが気にくわない様子、大山は秀人についていけることを喜んでいた。


「…なんだよ、僕とは違うじゃんか。」


そんな様子を後ろから見る想汰。不思議な組み合わせが出来上がった。

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