人嫌い、相談される

「頼むよ高山くん…どうしたら、そんなに笑顔になれるの?」


「うるさいよ。周りの迷惑だから、静かにしたら?」


遠足当日、秀人は1人優雅に歴史を楽しむ予定だった。麗華とはバス内でカードゲームを行い、事前の賭けで1人にすることを確約させた。ここで秀人が負けていれば、1日麗華と過ごすはめだった。


大山はその麗華の監視役を頼んだ。秀人の頼み事を断ることもできず、麗華を連れて歩いているはず。そう、完璧だったのだ。


「ぼ、僕は1人ってのが怖いんだよ。誰かが噂してるとか…あっ!あの人、今僕を見て笑ったよ!」


「そこまでいくと病気だから。どっか有名な先生に見てもらったら?」


そんな秀人の後ろを歩いている彼は岸辺想汰きしべそうた。秀人は最初思い出せなかったが、自己紹介の時に馬鹿をしでかした男だと思い出した。


「高山くんは怖くないの?も、もし今大人数で攻められたら、勝ち目がないよ。」


「どうしてそんな状況を考えてるか知らないけど、僕は1人が好きなんだ。」


「そこだよ!僕が知りたいのは、1人を好きになれた理由なんだ!」


簡潔に説明しよう。想汰は自己紹介の時、高校デビューの勢いで派手にかましたのだ。結果として、何人かは彼と関わりを持とうとしたが、本当の彼はそんなキャラではなく、作り物の仮面はすぐに剥がされた。


ただの一発屋。話してみれば挙動不審な根倉野郎と噂は走り、気づけば1人だった。当然今日の遠足も1人で過ごすことになったのだが、満面の笑みで1人を楽しむ秀人を見て驚いた。同じ境遇にいながら、ここまで違うのは何かを探りに来たのだ。


「僕としては、他人との関わりなんて疲れるだけ。ストレスの元だから、自然と1人が好きになるよ。」


「高山くんは、誰かに頼らなきゃって思わないの?人って感じの通り、支えあう生き物なのに。」


「支えあうって言うけど、人間なんてサボるものだよ。漢字で見ても、短いほうが明らかに苦労してる。長いほうは鼻唄でも歌って、くつろいでるに違いないさ。」


「た、例えば!勉強が分からないとき、友達がいると聞けるでしょ?」


「勉強が分からないなら、その分自己学習とか先生に聞けば終わるよ。そうならないよう、普段からやってれば他人頼りの人生にはならない。」


「ま、町で絡まれたとき!1人だと負けるけど、誰かが一緒なら勝てるとか。」


「そんなの妄想の中だけだよ。素人が何人集まっても、喧嘩慣れしてる奴に勝つのはほぼ不可能。走って逃げるか、警察でも呼んだ方が確実だよ。」


「…さっきから警察とか先生とか、高山くんだって他人頼りじゃないか!」


「使える物を最大限利用してるだけだよ。君の言う友達は、やりたくなきゃ勉強を教えなくても良いし、勝てない喧嘩から逃げても良い。でも先生は仕事だから、やりたくなくても付き合う。警察が逃げちゃ威厳もない。」


秀人にとって、他人などそこらに転がる石と同じに見えている。大きさは様々で、形は歪な物から綺麗な物まで。石と話し、仲良くなる気にはなれなかった。ただ石の中でも、使えそうな石は転がっている。


「つまり職務なんだよ。勉強を教えるのも、市民を守るのも。仕方なく付き合ってるんだ、すると早く終わらせようと的確にやるでしょ?効率も良いし、何よりお互い一件が終わればさようならだ。」


「き、君の考えは分かったよ…僕には無理だ。」


「わかったら消えてほしい。僕は1人で回ることに喜びを感じ、存分に楽しめるからね。」


「うん…ありがとう。」


秀人はお一人様を堪能するため、早足で次の目的地に向かう。想汰は1人、今後の自分をどうするか悩んでいた。


「…考えても、ああはなれないか。見たかった物もあるし、今日は博物館を楽しも。」


結論など出るはずもなく、想汰は館内を歩き始めた。

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