人嫌い、復帰する

「さて。忘れ物はないし、準備よしと。」


退院の翌日、特に休む理由もないので学校に行くことにした秀人。傷は跡が残るものの問題はなく、服を着てしまえば目立たない。


「よし…行くか。」


秀人が学校に到着するのは、いつも始業30分前位だ。久しぶりにクラスへ入ると、先に来ていた生徒が一瞬こちらを見るも、すぐに気にしなくなった。秀人がいないことを気にかけていたのは麗華くらいで、他の生徒は秀人に興味が薄いのだ。


「…おはよう。」


「どうも。早くない?」


「…来てるか…見に来た。」


「いくらなんでも、学校をサボるほど非常識じゃないよ。」


「…それも…そうだね。」


麗華と少しばかり会話し、後は本を読んで過ごす事が秀人の決まりだ。本を読んでる間は麗華も話しかけてこないし、何より1人の世界に入れるからだ。


「…その本…面白い?」


「面白いね。親友が裏で邪魔してて、主人公は馬鹿だから最後まで気づかず死んでいく。これぞ人間って感じ。」


「…終わったら…貸して。」


「貸すも何も、これ図書室のだから。入院で長引いたけど、今日中に読んで返すよ。」


「…その後…読む。」


「お好きにどうぞ。普通の人が読んでも、胸糞悪いと思うけど。」


「先生!おはようございます!」


自身が読んでいる本について話していると、大山がやってきた。


「おはよう、僕はこれ読んでるから。」


「読書ですか!これ、昼のパンです!」


「ああ、またこれが始まるのか…」


「では!昼休み、またお会いしましょう!」


大山の目的は秀人にパンを渡すこと。それが終わると、すぐに自分の教室へ帰っていった。


「…乙。」


「ほんとね。いつになったら、僕は先生を止めれるやら。」


「…友達に…なるとか。」


「はっ。」


麗華の提案を笑う秀人。どうやら、その解決法は受け付けないようだ。


「おーい席につけ。出席確認するぞ。」


幡山が来たことで、散らばっていた生徒達は自分の席に戻る。


「今日は久しぶりに全員出席だ。この調子で頼むぞ。それと高山、放課後職員室に来い。」


「わかりました。」


そして午前の授業が終わり、昼休みになると大山の他に、何故か正子が来た。


「学校で会うのは久しぶりだね。さあ高山くん、食べに行こうか。」


「わざわざ迎えに?目立つのは嫌いなんですが…」


「そう言うな。ご飯仲間が逃げないか、心配で来たのだから。」


「行きましょう先生!」


「…お腹…すいた。」


秀人達が出ていった教室では、いろいろな噂が飛び交っていた。なんでも、アイツが入院したのは痴情のもつれだとか。生徒会長と仲がよく、恋仲ではないのか。その全てが根拠もなく、勝手な憶測で作られている。それでも、人は時として思い込みを信じきってしまうのだ。


「さあ!食べようじゃないか。」


「声がでかいですよ。耳が痛いんで、少し静かにお願いします。」


「すまない…やっと4人で食べれるのが、嬉しくてね。」


「先生とのご飯は、あの鍋以来ですね!」


「…また…やろう。」


「なんと、高山くんの家で鍋かい?是非お願いしたいね。」


「断ります、疲れます。」


いつもの場所についた秀人達は、昼食を食べ始める。秀人としてはもちろん、1人での食事が良いのだが、この三人相手に走り回るのは面倒だった。


「君たち一年は、そろそろ遠足じゃないかな?」


「はい!なんでも博物館に行くそうです!」


「…つまら…ない。」


「待って。そんな話聞いてないんだけど。」


「先生がお休みの間に、学年アンケートで決まったんです!」


「…水族館…博物館…2択だった。」


「よく博物館が勝ったね。」


「まあ、楽しんでくると良い。1日くらいなら、1人で食べても平気だ。」


「僕が放課後に呼ばれたのは、その話かもしれないね。」


「バスの席が決まってますので、そうかもしれませんね!」


「…席が決まってる?」


「…私の…隣。」


「まじで?」


「知らない人よりは、まだ良いと思うがね。」


「そりゃそうですが。」


「…大丈夫…何も…しません。」


「バスを降りたら一旦集まって、その後は自由行動だそうです!」


「はあ。憂鬱だよ。」


昼を食べ、午後の授業を終えた秀人は職員室に向かった。


「おう高山、お疲れさん。その様子だと聞いたか?」


「遠足のしおりでもくれるんですか?」


「おう。一応目を通して、当日問題のないように頼むぞ。」


「分かりました。失礼します。」


遠足のしおりには朝の集合時間から帰りの時間まで、スケジュールが書かれていた。


「まあ変わりはないか。早めに来てバスに乗る、着いたら点呼をとって先生の話。自由に見て回って帰る…昼は隣接のショッピングモール内で食べるのか。」


一通り確認した秀人は、最後に図書室へ本の返却に来た。


「すみません。返却お願いします。」


「あら、久しぶりの顔ね。」


「しばらく休んでいたので。」


「ふーん。はい、これで良いわよ。」


「ありがとうございます。」


「それじゃ。お大事に。」


お互い名前も知らないが、借りる側と貸す側程度の面識はあった。やることを全て終えた秀人は1人、帰路につく。放課後の呼び出しもあったので、麗華達は先に帰っていた。


「遠足か…自由行動なら、1人で歩き回るのもありかな。」


少しはポジティブに考える秀人。当日何事もなく過ごせることを、願うばかりだった。

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