人嫌い、一人になれず

「…お邪魔…します。」


「今日は君ってこと?思うんだけど、病院に足を運ぶってのは面倒でしょ。やめない?」


「…やめない。」


「あーそう。好きにどうぞ。」


前日三人で押し掛けられた秀人。今後も一気に来られるのは身が持たないので、来るなら1日1人と釘を刺した。


「…元気…出た?」


「どんな発想したらそうなるのかな?僕は1人でいることが、最高なんだけど。」


「…付き合い…頑張る。」


「そりゃ頑張るど。何も入院中まで頑張ってたら、治るものも治らない…それもありだね。」


真剣に考え出す秀人を見て、呆れた顔になる麗華。他人付き合いで怪我が悪化するならば、多くの人は面会謝絶となるだろう。


「…馬鹿…言わない。」


「いや、普通の人なら無いだろうさ。でも極度の人アレルギーとも言える僕なら…どう?」


「…ない。」


「もう少し夢を見させてよ。」


その後も話は続いていく。秀人自信、しっかりとした受け答えはできる。疲れやストレスを受けないために、避け続けているだけだ。


「…また…今度。」


「いやもういいから。」


「…来るもん。」


膨れ顔で帰っていく麗華。やっと1人になれた秀人は、深いため息を吐く。


「辛い…何が辛いって、こんな生活がまだ2週間近くある。1人穏やかな入院生活が、どうして他人とのお喋り会に早変わりしたんだ!」


他人の迷惑にならない程度の声で叫ぶ。頭に思い描いた入院生活は崩れ去り、まるで対人教室のような毎日に秀人は苦悩する。


「明日は誰が来るやら…嫌だなあ。」


秀人の悩みなど知る由もなく、次の日には大山が現れた。


「お疲れ様です先生!これ、差し入れの果物です!」


「うわーうれしいなー。」


「…もしかして、果物苦手ですか?」


「いや、果物より人の方が苦手。」


「じゃあ食べれますね!どうぞ!」


「今すごい嫌味を言ったんだけど…聞こえてたよね?」


「はい!人よりは果物が好きだと!」


「…もういいよ。」


「では自分はこの辺で!しっかり休んで、学校でお会いしましょう!」


麗華より短い時間だが、何故かひどく疲れた秀人。差し入れの果物を食べながら、明日こそ誰も来るなと願う。


次の日は正子だった。


「どうだい高山くん、調子のほどは?」


「先輩が今すぐご帰宅されれば、万全になるかと。」


「それは叶わないよ。さて、一緒におやつでも食べようか。」


「今ここで?正気ですか?」


「なに、最近は蔵野くんや生山くん。彼らと食べているのだが、やはり高山くんがいないと寂しくてね。」


「はあ。」


「もしかして、何か食事の制限でもあるのかい?」


「無いです。食べれます。」


「それは良かった。よく食べて眠れば、すぐに治るとも。」


食べ終えた正子は満足そうに帰っていった。


「よお高山、勉強はどう…痩せたか?」


「どうも先生。おかげでまともに休めず、日々心身を削ってますとも。痩せるというか、疲れきってます。」


「まあ…あれだ。頑張れ。」


「無理です。」


「でもな、あいつらを止めるのは無理だ。蔵野はクラスにいても、高山としか交流がない。生山は他にも付き合いがあるらしいが、先生が一番なんだと。洲原は…よくわからんが。」


「先輩はただご飯食べに来てるだけです。」


「ここで飯食ってるのか?そりゃ災難だな。」


「なんでも、誰かと食べると美味しいんですって。」


「そんな理由でか…ともかく、皆お前の顔が見たいんだよ。諦めろ。」


「もう諦めてますよ。じゃなきゃ窓から飛んでるか、屋上から飛んでます。」


「…先生は何も言えん。」


それから退院までこの生活は続き、日に日に秀人は弱っていった。


「傷はもう大丈夫だけど…顔色は最悪だね。」


「ええ。色々ありまして。」


「まあ退院できるまでに回復してるから。」

 

「はい、お世話になりました。」


「お大事に。」


秀人は退院した。その顔は疲れきり、今にも倒れそうなほどだった。


「…家に帰れば。家に逃げ込めば平気だ。」


タマは両親に預かってもらっていた。さすがに、病院に連れてはこれず、ペットホテルも近くになかった為だ。


「まあホテル代を考えると、正解だったかな。」


ひとまず今は家に戻り、久しぶりに1人空間に浸りたかった秀人。親には携帯で連絡を取り、次の休みにタマを返しに来ることになった。


「さて…誰もいないよな。」


入り口から出て、辺りを警戒しながら帰る秀人。どうやら誰もいないらしく、すぐに家へ戻った。


「…見間違いかな。」


「あっ先生!お帰りなさい!」


「…乙。」


「やあ高山くん。退院祝いに、ご飯でもどうかな?」


「今日は1人で…やっと1人になれると思ったのに…」


「ご安心ください!さすがに今日は帰りますとも!」


「…ちゃんと…帰ってるか…心配で。」


「そ、そうだとも。」


「それは良かった。この通り生きてるから、さよなら。」


「はい!また明日から、よろしくお願いします!」


「…待ってる。」


「ではな高山くん。昼休みを楽しみにしているよ。」


秀人の無事を見届け、三人は帰っていった。秀人は久々の1人という喜びと、明日から始まる絶望を胸に休むのだった

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