人嫌い、ばれる

秀人が快適な入院生活を得てから1週間。親が1度顔を見に来たが、すぐに帰った。他に来客はなく、久々に1人を満喫していた。


「最高だよ…そうか。こういった事故災難に見舞われる人生なら、誰とも関わらずにいられるかも。」


「そんな上手い話はない。勉強はどうだ?」


幡山は秀人の様子を見に来ていた。1ヶ月の療養中、成績が落ちては困るからだ。


「はあ、終わってますけど。もう帰ってもいいですよ?」


「なんとなく分かってきたが、お前距離を置きすぎだろ。」


「近づく必要もないので。現に今回近づいたら、刺されましたし。」


「あの包丁な。あいつ、うちの家庭科室から持っていてたみたいで、管理の見直しをしろと上がカンカンだよ。」


「うわ、そんなに管理甘いんですか。そりゃ僕も死にかけますよ。」


「まあ今後はないように、先生達も工夫してくさ。」


幡山は会話を返しながら、プリントの採点を進めていく。どうやら本人が言った通り、問題なく満点だった。


「お前頭がいいな。それとも、他人から教わるのが嫌なだけか。」


「先生の手間を減らそうと、頑張った結果です。」


「んな真顔で言われてもなぁ…この結果じゃ文句ないけどよ。」


幡山は少しだけ困っていた。目の前の生徒は人付き合いを拒み、1人になろうとする傾向があった。今こうして会話はしていても、そこに心はないように見える。あるとすれば、安息を邪魔された怒りだけだ。


「ま、お邪魔虫は帰りますよ…そうだ高山、先生1つ謝るわ。」


「なんですか?くだらない内容なら」


「バレた。」


その一言で、秀人は凍りつく。恐らく自分の入院場所の事だろう。だとしたら、ここはもう安全ではない。


「…どうしてですか、まさか言ったんですか。」


「いや先生な?車持ってないのよ。だからここまで、バスと歩きで来てる。今日まで1週間、毎日蔵野達が問い詰めてきて…先生も疲れてたんだうん。」


「で?疲れから尾行に気づかず、まんまと案内したと?」


「ああ。病室までは分からんだろうが、受付で聞けば一発だ。バスを降りるとき、後ろの方に制服が見えたからまさかと思ったが…間違いない。」


「先生、謝るくらいなら一緒に連れ帰ってください。」


「無理だ、若いのには勝てん。それにこの足音…」


秀人にも聞こえた。普段この病室に来るのは巡回のナース、経過を見る医師だけなので足音は少ない。他のベットにも患者はいるそうだが、面会しているのを秀人は見たことがなかった。


「これは…蔵野達だな。先生帰っていい?」


「逃がすわけないでしょ。僕は隠れるので、上手くやってください。」


少しベタだが、秀人はベットの下に隠れる。ここ以外だと迷惑になるし、今廊下に出れば鬼ごっこの始まりだ。


「…ここに…いる。」


「見たいですね。先生!お久しぶりです!」


「やあ高山くん。」


麗華に大山、正子は病室を見つけ出した。受付で学友と伝えると、あっさり聞けた。


「よおお前ら。どうした?」


「…案内…ご苦労。」


「いやー秀人さんが言うわけないので、後ろから着いてきました!」


「すまない先生、私も高山くんに謝りたくて仕方なく。」


「おかげで、さっき高山に怒られたよ。職務怠慢だとさ。」


「…秀人…どこ?」


「お前らが来るとわかって逃げた。」


「秀人さんならやると思いましたが、すでに逃走済みとは。」


「…本当に高山くんは逃げたのかい?」


「お?先生の言葉疑う?」


「さっきまで怒られていたのだろう?この病院の廊下は一直線、怪しい動きはすぐに見える。」


「…秀人の…気配。」


「つまり先生はここにいますね!あ、先生ってのは秀人さんの事で、幡山先生じゃないですよ!」


「…高山、これ以上は無理だ。」


秀人は諦め、ベットの下から這い出てくる。その瞬間、麗華は飛び付き大山は安心し、正子はほっとした顔になった。


「おい離れろ、怪我人にするぞ。」


「…さみし…かった。」


「お久しぶりです先生!お元気そうで!」


「高山くん…その、大事ないか?」


「なんともないです。おい、いい加減にしないとまじで殴るぞ。」


「…けち。」


この瞬間秀人は休息を失った。

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