人嫌い、休息をとる。

「やった…やったぞ!なんとかなった!」


病室で秀人は思わず声を大きくする。刺されてから2日経ち、秀人は元気だった。


「ここまで上手く事が運ぶなんて…とっさの思い付きだけど良かった。」


秀人は傷を縫われ、安静のため1ヶ月入院となった。きれいに臓器を避けていたため、酷いことにはならなかった。


「刺されたときは痛いけど、この1ヶ月のための痛み…お釣りの方が多い。」


秀人が刺されたのは故意だ。あのとき、正子が投げ飛ばさんと構えていた後ろで、秀人は考えた。この手の相手は、今この場でやられてもまた来るだろう。ならばいっそ、要望通り刺されて捕まってもらおうと。


「僕が殴ったところで、また人数増やして来るだろうし…この3年間を平和に過ごすにはこれ。しかも、1ヶ月誰とも会わなくていい!」


秀人は病室で叫ぶ。学校という他人だらけの環境から離れる、それも狙いだった。


「おーい高山、平気か?」


「ちっ、幡山先生。なんですか?」


「なんで俺の顔見て不機嫌なんだよ…その様子なら、心配要らないか。」


「ええ。学校には行けませんが、元気ですよ。」


「それは良かった。今日は、お前を刺した生徒の処分を話に来た。」


話を聞くと、あの男子生徒は懲役3年ほどに軽減され、さらに少年法に守られ実名も出されず、すでに外に出たらしい。


突発的な事と、本人の深い反省の態度から軽くなったそうだが、秀人はそう思えなかった。


「でもあの人、刃物を事前に準備してたし。殺意満々じゃないんですか?」


「本人は、ちらつかせて終わる予定だったんだと。馬鹿な奴だよ。でもかっとなって刺したらしい。」


「反省してたんですか?マジですか?」


「そう聞いてる。一時の感情に任せて、大変なことをしてしまったとか。」


「はあ、嘘くさ。」


「そう言うな。冷静になって思い出して、後悔してるんだろ多分。」


「で?普通の顔して学校に通ってると。」


「もう別の学校に転校したよ。うちとしても、犯罪を犯した生徒がいるってのはまずいんだと。」


「でしょうね。」


「示談だが、高山の両親が勝手に決めてたが…いいのか?」


「僕が参加したところで、向こうは謝り倒してうるさいだけですから。」


「そうか。まあ入院費負担、それで終わりみたいだ。」


「妥当ですね。あんな汚い奴の金なんて、欲しくもないです。」


「酷い言いようだが…分かる気もする。」


「親は何か言ってましたか?」


「あー…息子が誰かのために体を張るなんて、成長が嬉しいってさ。ただ、変に入院を伸ばさずすぐに学校へ戻れだと。」


「そうですか。」


わざと刺されたことがバレてなければいい。親は心配よりも、人のために動けたことを喜んでるみたいだ。


「これで最後なんだが…1ヶ月休むと勉学がな?ヤバイだろ?」


「わかってますよ。ここで勉強ですか?」


「プリントにしてある。分からないところは、週に2回俺か他の先生が見に来る。その時に聞いてくれ。」


「多分教科書でなんとかなるかと。まあ、万が一があったら聞きますよ。」


「凄い自信だな…ところで、クラスの奴らに伝えなくていいのか?ここに入院してるって。」


秀人は市内の病院に運び込まれたことを、誰にも伝えてなかった。親と学校側には伝わっていたが、それ以外には言わないでほしいと頼んでおいた。


「僕のお見舞いなんて誰も来ないですし、場所を聞いたら行かなきゃって無理する奴いそうですから。」


「まあ入院してる、そう聞けば行けと言われてると考える奴もいるわな。」


誰がどこにいるから、そう言われると行けと言われた?などと考える人もいる。それがまるで知らない人でも、顔を出さなきゃと動く人もいる可能性がある。秀人はそれが嫌だった。


「でもあいつら、蔵野と生山がしつこいんだが。それに洲原も。」


「…絶対安静なので、言わないでくださいね。」


「わ、分かったから。んな睨むなよ。」


「まさか尾行されるとか、笑えないのやめてくださいね。」


「…努力するが、そこまでやるか?」


「念には念を、お願いしますからね。」


誰とも会いたくない秀人、この安全を守りたかった。しかし、長くは平和も続かない。


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