人嫌い、けりをつける

「さて高山くん、気づいてるかな?」


「それは後ろの連中ですか?あんなバレバレで、恥ずかしくないんですかね。」


「うん。知っているならいいよ…荒事になるかも分からない。」


「でしたら、人が少ないところに行きましょう。他人を目があると、いつまでも付いてきそうですし。」


「それには賛成だが…」


「では行きましょう。」


秀人が思い付いたのは、大山達がタマをいじめていた場所だ。普段秀人が通っている道を一本外れると、人通りが少ない裏路地に出た。


「確かに。さっきの道よりは人が少ないが、仕掛けてくるだろうか?」


「来るかと。ほら、もう顔を出しましたよ。」


秀人の言葉に後ろを振り返る正子。そこには、昼間の男子以外に、始めて見る顔があった。


「君に見覚えはあるが…君達は?」


「多分、先輩ファンクラブって奴の連中でしょう。」


「くふふ、昼の仕返しに来たぞぉ高山。この人数だ…もう一度言う!正子さんから離れろ!」


「そんな言葉初めて言われたけど、僕だって一人になりたいですよ。」


秀人の言葉が気に入らなかったのか、男達は怒りの表情を見せる。


「酷いな高山くん、私は楽しかったのに。」


「こうなるって知ってたら、一緒に食べてませんよ。」


「ふ、ふざけるな!どこまで馬鹿にする気だ!」


「…それで、その手にある刃物はなんだい?」


正子が気にしていたのは、男子が持っていた包丁だった。素手の戦いには自信あるものの、武器を持った相手には油断ができない。


「これですか?そいつを殺すんですよ…正子さんは騙されてる、僕が助けるんです!」


「頭いかれてますね。僕一人のために、人生棒に降るつもりですか…あほらしい。」


「なんだと!もう我慢できない…殺してやる!」


ついに我慢ができなくなったか、男は秀人に向かって突進する。正子が守ろうと前に出ると、男は止まった。


「退いてください!正子さんのためなんです!」


「私としては、同じ学校の人間が起こす事件を止めようとしている。今すぐ刃物を置くなら、この話は大きくしない。」


「…正子さんのためです。どいてくれないなら、正子さんと一緒に僕も死にます!」


他の男達はというと、後ろで見ているだけ。昼間の男の話を聞いて、少し痛め付けようくらいの気持ちだった。だが目の前の狂気に驚き、固まっていた。


「やってみるといい。昼間のように、地面に叩きつけられるぞ。」


「では、行きます…痛くないようにしますから!」


男は覚悟を決めたのか、正子に向かって刃物を構え突っ込んでくる。しかし正子は落ち着いていた、刺そうと伸ばした腕をとって投げる。イメージは完璧だった。


しかし、この場で誰もが予想しなかった結末を迎える。


「せんぱいーあぶなーいー」


突っ込んでくる男の前に秀人が出てきた。正子しか見えていなかった男は驚くも止まれず、秀人の腹部に思い切り包丁が刺さった。


「な、何をしてるんだ高山くん!」


「ぼ、僕はこんなつもりじゃ…違うんだぁ。」


正子と男がうろたえるなか、秀人は刺されたまま裏路地を出る。ファンクラブの男達は、秀人が刺されたのを見て逃げていった。


「くそっ、あいつらもまとめて終わらせたかったが…良いか。助けてくださーい!」


時間は放課後、帰りを急ぐ学生や家で待ってる親がいる。そんな時間に求めた助けの声は、すぐに届いた。


「どうし…君!大丈夫かい!」


「あ…あの人に…刺されて。」


秀人に駆け寄ったのは、買い物帰りの男性だった。いつもより早く家に帰り、家族サービスを考えていた所出くわした。秀人は自分を刺した男を指差し、続けて言った。


「け、警察を…」


「わ、分かった!すぐに呼ぶから。」


男性が電話を掛けた。それを見て男は逃げようとするも、正子がそうはさせなかった。


「た、助けてください!僕はこんなところで、終わるわけないんです!」


「…君は、自分のしたことが分からないのかい?この地面に落ちた血を見て、その手に凶器を見て思い出すといい。君は犯罪者だ、逃れようはない。」


「うるさい!こうなったら、お前も殺ってやる!」


正子に懲りもせず襲い掛かる男。しかし、今度こそイメージ通り伸ばしきった腕をとり、突進の勢いを使って背負い投げを決める。男は気を失ったようだ。


「高山くん!大丈夫か?」


「触らない方がいい。気絶してる…無理もない。」


秀人は気を失い、少したってから警察と救急車が到着。今回の件は、こうして幕を引いた。

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