人嫌い、護衛される

昼の騒動の後、教室に戻った秀人は悩んでいた。先程の面倒事をどう片付けるかと。


「…平気?」


「言わずとも心配されるなんて、ずいぶん酷い顔してるのかな僕は。」


「…死にそう…な顔。」


「下手したら死ぬかも。さすがに、夜道を襲われるとは思いたくないね。」


「…何事?」


「まあ、後で嫌でもわかるよ。」


午後の授業が終わり、帰宅時間になった秀人は窓から正門を見る。そこには昼の言葉通り、正子が待っていた。


「まさかの真ん中仁王立ち…逃がす気はなさそうだな。」


「…あれが…悩み?」


「あれもって言い方になる。たとえあれを避けても、もう一つ悩みの種があるんだ。」


「先生!お疲れ様…大丈夫ですか?顔色が悪いですけど。」


「うん、多分僕は死ぬかも。」


「…秀人…乙。」


「なんだか分かりませんが…力になれると嬉しいです!」


もはや揃って帰ることに文句を言う力もわかない秀人、三人で正門へ向かう。その道中で、昼間の話をした。


「…それは…災難。」


「先生、あの洲原さんとお知り合いでしたか!生徒会長を勤めて、人望も厚いそうですよ!」


「え?生徒会長なの?」


「ええ。ほら!入学式で挨拶してたじゃないですか!」


「興味なくて…まともに覚えてないよ。」


「…同意。」


「さすが先生です!まあ、それだけじゃなく見た目もよくて、男子女子と分け隔てなく接する人だそうです。そりゃ、勘違いした男子が告白してもおかしくないかと。」


「たまに思うけど、よく情報知ってるよね。僕なんて君たち以外誰がいるかなんて、まるで知らないよ。」


「…私も…あんまり。」


「周りの話を拾ってるだけです!まあ、知るだけなら損はないかと。」


「そっか。」


会話をしているうちに、下駄箱に到着。秀人は靴をとろうと靴箱を開け、固まった。


「先生?どうかしました?」


「…どした。」


「悩みの種その2だよ。早速仕掛けてきたか。」


麗華と大山も後ろから覗く。中には恨みの言葉レターや脅迫紛いの文章、およそ10通入っていた。


「うわー、今でもやる奴はいるんですね…」


「…秀人…気にしない。」


「まあ、こんなの気にならないけど。靴を隠されてたら、探し出して絞めあげてたかもね。」


「まあ直接被害が無いのは幸いです!どうしましょう?自分が下駄箱見張りましょうか?」


「好きにやらせといていいよ。実害を出すようなら排除するし、容赦はしない。このくらい、さっきも言ったけど気にならないからね。」


「…秀人…どんまい…何か…手伝う?」


「今回の件は僕一人で。他人に助けらなきゃ駄目だって、なめられても嫌だし。昼間の奴みたいなのがいくら来ても、僕がどうにかなるとは思えない。」


「…りょ。」


「そうですか…無理だけはやめてくださいね!」


入っていた手紙はそのまま捨て、帰ることにした。そして待っていた正子は、秀人を見るとこちらに歩いてきた。


「待っていたよ高山くん。さあ、帰ろうか。」


「あの、ほんとにいらないんで。悪目立ちは避けたいです。」


「何を気にする?私では不満か?」


「先生は、生徒会長の事を心配されてまして!」


「…そゆこと…秀人…心配性。」


「心配ねえ。僕だけでいいから、邪魔するなって言ってるんだよ。他人の心配なんてしない。」


「いや先生、適当な理由を作って離す作戦ですので…ここは一つ。」


「あの、丸聞こえなのだが。」


「じゃあ普通に言いますが、今回の件は僕一人でいいです。先輩と一緒にいると、あいつ以外にも目をつけられそうなので。」


「…秀人…一人でも…余裕。」


「そうだとしてもだよ。私が原因なんだ、今日だけでもいいから力になりたい。」


「今日だけ…その言葉本当ですか?」


「ああ、二言はない。今日の迷惑に対しての償いだ。何かしないと、気が収まらない…もっと余計なことをしてしまうかもな。」


「脅されてるような気もしますが、では今日だけ。」


「良いんですか先生、自分悪い予感がしますが…」


今日だけ、その条件で同意した秀人。返事を聞いた正子は嬉しそうだった。こうして仕方なく、秀人は正子と帰ることになった。


「自分はバイトですので、失礼します!」


「…秀人…また明日。」


「ああ、無事だったらね。」


麗華としては付いていきたかったが、自分がいても力になれないのが分かっていた。


「じゃあ帰ろうか。」


「はあ、よろしくです。」


二人並んで帰る。その後ろを、ついてくる存在を知りながら。

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