人嫌い、睨まれる
「やあ高山くん、昨日ぶりだね。」
「どうも。」
鍋の次の日、昼休みになったので秀人は楽園に避難していた。麗華や大山は相変わらず誘ってきたが、無視してここまで来た。
「さて、今日も一緒に食べようか。」
「そうですね。」
秀人は正子に対して、簡単に返すだけだ。それでも正子は満足しているようで、嬉しそうに会話を続けてくる。
「それで高山くん、学校には慣れたのかい?」
「そうですね。」
「それは良かった、何かあれば相談してくれよ?」
「どうも。」
「高山くんは、勉強に自信あるのかい?」
「人並みに。」
「人並みか、それもそうだな。勉学に自信あるものは少ないだろう。」
「そうですね。」
無難な会話が続いていくと思いきや、途中で邪魔者が現れた。
「洲原さん!見つけましたよ。」
「げっ。」
「今日は逃がしません。私の思いを、しっかりと受け止めてください!」
「前に断ったじゃないか。誰だか知らない人とは、交際など考えられないと。」
「だからこそ!えぇ、だからこそお付き合いを始め、深く私の事を理解してもらいたいのです!」
「断言できるが、絶対上手くいかないと思うよ。」
「始まる前から諦められません!必ず幸せにしてみせ…ん?」
秀人はこの状況でも食べていた。急に来て告白する神経を疑いはしたが、自分の邪魔にならなければいいと判断した。
「す、洲原さん。その男は…」
「ああ彼かい?高山くんだ。昨日知り合って、ここで一緒に昼食を食べている。」
「わ、私の告白を断るのは、その男がいるからですか?」
「いや、さっきも言った通りだ。よく知りもしない人との交際など、考えられない。」
「嘘ですね!あなたは、そこの男に何かされてるんでしょう!」
受け入れられない現実を突きつけられたとき、他の要因を探す人がいる。今回の場合、彼は告白を断られた原因は秀人にあるとして、現実から逃げたのだ。しかし、それが良くなかった。
「僕は関係ないです。先輩とは、ただ食べる場所が一緒なだけです。」
「騙されるか!洲原さんは清く、美しい人だぞ!君のような奴が、近づくのもおこがましい。」
「そんなの、あんたが勝手に決めたことでしょ。」
「そうだとも。私はそこまでの人間じゃないさ。」
「いいえ違います!あなたは誰が見ても美しい花だ…それに飛び付く害虫は、僕が追い払ってやる。」
男は聞く耳も持たず、秀人を害虫として排除する気だった。話すのが面倒になった秀人は、食事を止めて立ち上がる。
「言っときますけど、手を出したのはあんたですからね。」
「うるさい!私の愛を、思いしれ!」
「いや、高山くんは座っていてくれ。」
「へっ…」
男が秀人に飛びかかろうと伸ばした腕を、正子は掴んで背負い投げをした。男の勢いもあってか、背中から綺麗に叩きつけられ受け身もとれず、男は息が上手くできなかった。
「はっきりともう一度断るが、君のような奴とは付き合えない。今後近づかないでくれ。」
正子は相手を睨み付ける。男はやっと息が整い始め、座り込んだまま話す。
「な、なんで?」
「私がここでご飯を食べていたのは、落ち着くからだ。教室では君のような奴が寒気のする眼で見てくる、気持ち悪いんだ。」
「そ、それは…話しかけるのが恥ずかしく…」
「こんな暴挙に出ることこそ、恥ではないか。同じ学友だというのに、何を恥ずかしがるのやら。」
「じゃあ!こ、こいつがいると気持ち悪いんじゃないですか!」
「高山くんはそんな眼で見ない。私を先輩として、ちゃんと人間として接してくれるぞ。君らとくれば、やれ花だの清いだの…イメージの押し付けが過ぎる。」
「じゃあ私も!次からはそうやって」
「くどい!この一件で分かったが、君には都合が悪くなると相手のせいにして、暴力を振るおうとする傾向が見えた。そんな奴とは、話もしたくない。」
「くっ…わかりました。今回は帰ります。でも!諦めてないですし、高山だったか?私と洲原さんの仲を壊しやがって…」
「勝手に先輩が壊したんでしょ。」
「うるさい!覚えてろよ!」
男は去っていった。残された2人はまたベンチに座り、残りを食べ始める。
「…すまなかったな。変なことになった。」
「平気です。」
「あの様子だと、まるで反省してない。きっと、君に迷惑をかけるだろう。」
「大丈夫です。」
「そこでだ!しばらく行動を共にしよう。そうすれば、君の安全も守れる。」
「自衛くらいできます。」
「遠慮するな。こう見えて、柔道の心得があるのだよ。」
「はあ。」
「安心してくれ。必ず、君を守ってみせよう!」
「いらないです。やめてください。」
なんだか面倒になると感じた秀人は、すぐに食べ終えて教室に戻ることにした。
「では、本当にいらないので。」
「校門前で待っているからな。また後程!」
どうやって回避しようか、頭がいたくなる秀人だった。
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