人嫌い、疲れて寝る

「ここが僕の家。」


「へー、よくある学生寮よりか綺麗ですね!」


「ペット可なアパートだから、余所よりは高いと思う。」


「…ここが…秀人家。」


「そこでボーッと立ってるなら置いてくよ。」


買い物も終え、秀人の家に着いた3人。学校からは20分かかるかどうかの距離だ。


「結構離れた場所に住んでますね!お邪魔します!」


「…お邪魔…します。」


「はいはい。」


心のなかで秀人は思う、本当に邪魔だから消えてほしいと。しかし、今回の提案に同意した以上言えなかった。ましてや、呼んでおいて追い返すのは流石にまずいと思えた。


「ミャー。」


「ただいま。大人しく留守番してたのか。」


「先生、もしかしてその猫は…」


「危うく君達に殺されそうだった猫だよ。今は僕が引き取ってる。」


「やっぱり…あの時はすみませんでした!」


いきなりタマに対して土下座する大山。その大声と動作にタマは逃げ、麗華は秀人の背中に隠れる。


「離れろ、僕を盾にするな。」


「…もうちょっと。」


「調子に乗らないっと。」


背中にしがみつこうとする麗華を引き剥がし、大山に話しかける。


「謝ってもタマには分からないよ、ひとまず頭あげて。」


「あの後本当に反省して…もう1度会えたらと思っていました。秀人さん、ありがとうございます!俺、面と向かって謝れて少しだけスッキリしました!」


「ああそう。自己満足もほどほどにして、さっさと準備して。」


「はい!少しは料理できますので、頑張ります!」


「…頑張る。」


「そっちは頼んだよ。僕は休憩してる。」


麗華と大山は早速調理を始める。調理器具等はきちんと収納してあり、2人はそれぞれの仕事を始めた。


「…私は…切る。」


「じゃあ俺はスープ準備します!つっても、スープの元入れるだけですが!」


「…よろ。」


一方秀人は、宣言通り休憩していた。朝からの疲れか、部屋の隅で寝ていた。


「それにしても、麗華さんはどうやって先生とお知り合いに?」


「…席が…隣。」


「んー、それだけでここまで仲良く…凄いですね!」


「…ん…私…凄い。」


「他に付き合いはないんですか?」


「…友達…秀人…だけ。」


「そうなんですか?麗華さん、友達多いのかと。」


「…どして?」


「いや、今日初対面の自分ともすぐ話してもらえたので。普段からいろんな方と、お話しされてるのかと。」


「…周りは…私に…近づいて…こない。」


「以外ですね、誰も話しかけて来ないんですか?」


「…男子は…遠目に…見てるだけ。」


「ああ確かに。うちのクラスにも、3組にすげー可愛い子がいるって男子が言ってましたよ。」


「…女子は…それが…嫌みたい。」


「ははぁ。女子の世界は分かりませんが、男子人気を奪われて嫉妬してるって事ですか。」


「…私は…何も…してない。」


「周りから勝手に壁が作られて、壊すきっかけもないと。難しいですね…」


「…声…小さく…してる?」


「ええ。後ろで先生も寝てますし、起こしたら不機嫌になるかと。」


「…なる…大山は…どして?」


「自分は…さっきの猫と関わりがありまして。」


大山は昨日のことを隠さず話した。麗華が自分のことをしっかりと伝えてくれたのだ、嘘をつくのは失礼なことだとおもった。


「…最低…だね。」


「本当にその通りです。あそこで先生が…秀人さんが止めてくれたこと、本当に感謝してるんです。」


「…なんで…投げたの?」


「他校の奴ってのがヤンチャ者でして、入学早々に問題を起こしたらしく。お互い式が終わった後に会ったのですが、鬱憤ばらしにとあいつが…」


「…人の…せい?」


「いえ、そこで止めることなく加わった自分のせいです!本当なら、殴ってでも止めるべきものを…悪のりと片付けるのは駄目でしょうが、あの時は深く考えていませんでした。」


「…反省…してる?」


「一時の憂さ晴らしに、命を奪うなんてことはあってはいけません…やろうとした自分が言っても軽く聞こえてしまいますが。」


大山は泣いていた。たった一度の過ちというのは、どれだけ経っても消えるものではない。命を奪う行為など、忘れることはできないはずだ。


「秀人さんに止めてもらえて、反省の機会をもらえたって思えたんです。でもあいつ…邪魔しやがってと言ったんです。秀人さんのことを、楽しみを邪魔したクソ野郎だって…流石に我慢できず、殴ってしまいました。」


「…友達…なのに?」


「友達だからでしょうか。あいつは猫に石を投げる、当たりどころが悪ければ殺してしまったであろう事を、なんら悪いことと思っていない顔でした。今までの付き合いで気づけなかった自分が恥ずかしいです。」


「…その…後は?」


「あいつはなんで殴られたかも分からず、不思議そうな顔でしたよそうな顔でしたよ。もう少しで間違ったことを、と話したのですが…猫一匹がどうしたって言うんです。その場で縁を切ると言って、別れました。」


「…おつ。」


「ありがとうございます。そう考えると、自分も友達がいませんでした!」


「…もう…友達。」


「…本当に、ありがとうございます。」


秀人が知らぬところで、2人は友達になれた。

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