人嫌い 準備する

約束の17時、秀人は着替えるのも面倒なので、制服のまま正門前に来た。


「お!早いですね先生!」


「…やっほ。」


「ちっ、2人とも揃ってるか。」


大山と麗華は着替えてきたようだ。大山は胸元に英単語が書かれた半袖、下はジーパンを履いている。麗華は膝まであるショートパンツに、上は黒の半袖を着てきた。


「わざわざ着替える?普通?」


「制服だと息苦しくて!こっちのが、過ごしやすいんです!」


「…逃げても…追いかけ…やすい。」


麗華はどうも機動性を重視しているようだ。昼の秀人を見れば、隙を見て逃げる可能性も捨てられなかった。


「いや、流石に逃げないよ。今日は走らされて疲れたし。」


「にしても先生、足が早いんですね!」


「…全力…だった。」


「まあ、人並みだようん。時間もないし、さっさと済ませよう。」


会話を切り上げ、まずは材料を買いに行く事にした秀人達。ここで話題になったのは、何を食べるかだ。


「でも三人いるんじゃ、何食べますかね?」


「…秀人の…手作り。」


「やだよ疲れる。人数もいるし…鍋とか。」


「いいですね鍋!三人の出会いを記念して!」


「…賛成。」


「記念ね。僕にとっては悪夢だよ。」


そんな皮肉も聞こえないようで、秀人以外は盛り上がっていた。今まで避けてきた人付き合いを学ぶためとはいえ、この短時間での疲れが尋常ではなかった。


「大丈夫ですか先生?顔色が優れないようですが。」


「そりゃあ慣れないことしてるから、体調も悪くなるよ。」


「そうですか!でも、鍋を食べれば元気になりますよ!」


大山には伝わらなかったが、麗華には伝わったようだ。


「…迷惑?」


「はっきり言えばね。嫌いなんだ、人付き合い。でもいつまでも嫌ってたら、将来仕事なんてできないからね。これは練習、耐える訓練かな?」


「…私も…苦手…一緒に…がんばろ。」


「結構です。」


話をしているうちに、秀人家から最寄りにのスーパーに到着。鍋のもとと具材をいくつか購入し、一行は秀人の家まで歩く。


「ちなみに、先生の家に器具はあるのですか?」


「親が困らないようにって、色々送ってくれたよ。絶対使わないと思ってた鍋が、まさか役に立つとは。」


「…料理…任して。」


「できるんだ、じゃあ僕は寝てるから。」


「…だめ。」


「麗華さんが作ってる間、話でもしましょうか!」


どうあっても休めない、夢に逃げることも禁止された秀人は1人うなだれる。地獄はここからのようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る