人嫌い、安息の地を見つける

「ここは…誰もいないみたいだな。」


昼休み、麗華と大山に追われていた秀人は逃げ切り、校舎裏にひっそりとあるベンチを見つけた。


「やった!ここは僕の楽園になる!」


1人を勝ち取った秀人は、早速昼食を始める。2人に追われたせいかあまり時間はなく、少しペース早めに食べることになった。


「ん、先客かな?」


「失礼してます。」


秀人が食べていると、女子生徒が1人現れた。肩まで伸ばした黒髪、身長は160cm程度だろうか。


「隣いいかな?ここはお気に入りなんだ。」


「…まあどうぞ。」


「助かるよ。にしても、私以外にここを見つける人がいるなんてね。」


「はぁ。」


ベンチは3人掛けの大きさがあり、2人は両端に座り食べていた。外野からしたら不思議な光景に見えるだろうが、2人はこの距離が落ち着いて過ごせるのだ。


「私は毎日ここで食べてる。君もそうするのかい?」


「ここ以外だと、うるさいので。」


「うん!よく分かるよ…ご飯は静かに食べたいからね。」


秀人としては、周りに誰もいない環境がいいのだが、この楽園をつまらない争いで失いたくはなかった。


「そうですね、ご飯は1人がいいです。」


「むっ、それは違うぞ。ご飯を食べるのは、人数がいた方がいい。」


「じゃあ教室で食べては?」


「教室だと食べてる最中に話しかけられ、せっかくのご飯を邪魔される。心苦しいが、学校で落ち着いてた食べるにはここしかない。」


彼女なりのこだわりはあるようだが、教室という環境では叶わないらしい。食を楽しむよりか、ほとんどが誰かとの会話を楽しむ時間になっている。


「話をするのは悪くない。私だって、普段から会話はしてるからな。しかし!食事中はマナー違反だろう。口にものが入っているのに、会話なんてとんでもないじゃないか!」


「そうですね。」


「まあ今日から、1人寂しい食事でもなくなりそうだ。私は2年の洲原正子すはらまさこだ。」


「1年の高山秀人です。」


「おぉ、後輩君か。よろしく頼むよ。」


挨拶されては返すしかない。本来なら、名前も名乗らず消えたかった秀人だが、この場所を失い麗華達と過ごすより良いと判断した。


「ごちそうさまでした!うん、やはり誰かと食べると美味しいものだ!」


「そうですね。」


「だろう?まあ、明日からもよろしくな。」


正子は笑顔で手を振り、去っていった。途中から「そうですね。」しか返していない秀人は、何を言われたかさっぱり覚えていない。


「ふう。やっぱり便利な言葉だ。そうですね、と同意してれば聞いてなくても進んでいく。」


人との会話に価値を見出だしていない秀人にとって、どう受け取るかよりどう返すか。彼にとって重要なのはそこだけなのだ。


「まあ無難に切り抜けたし…僕も成長してるな、うん!」


先程までの正子との会話を振り返り、自分に満点をあげる秀人だった。

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