人嫌い お助けする

「おら!っち、当たらなかったぞ。」


秀人が春からの独り暮らしに借りたアパートへ向かう途中、どこからかそんな声が聞こえた。二人組の男が何かしているようだ。


「下手くそだな、よく見とけよ。」


「おいおい、あんましおもいっきりぶつけたら死ぬんじゃねえの?」


「平気だって、死んだって迷惑かかんねーだろ。」


最初はいじめかと思い、興味すらなかった秀人だったが、次の一言で気が変わった。


「こんな捨て猫、誰も面倒見てねぇって。」


「…おい、何してんだ。」


人同士の醜い争いなんて関わらないが、動物なら話は別だった。秀人にとって動物とは気を使うこともなく、少しばかり心を許せる存在だったからだ。


「あ?誰だよお前?」


「そんなことより、何してるか聞いてんだよゴミが。」


「おい!言葉遣いには気をつけ」


続きの言葉を言おうとして、男は声が出ない事に気づいた。秀人がその喉を絞めていたからだ。


「っがぁ、ゃめてくれぇ。」


「何回も言わせたお前らが悪い。まあ、見て分かることだからもう聞かない。お前らが馬鹿なことしてるから、俺が潰してやるよ。」


「お…おい。は、離せよ!」


秀人の性格上、他人との距離は遠い。そしてクラスで誰とも付き合わない、そんな浮いた存在は時にいじめの対象になりうる。


秀人自身、暴力に出ることはあまりない。しかし周りの人間(ゴミ)共が無駄に絡む、格下と決めつけ調子に乗るならば潰してきた過去がある。あまりいい手段では無いだろうが、対話せず一発で終わらせる効率的な方法だと秀人は考えている。


「じゃあ十秒やるよ。その間に、逃げるか戦うか考えとけ。言っとくが、やるなら容赦せず潰すから。」


秀人には少しばかり喧嘩の心得はあった。最初は経験もなく、人数に負けて苦い思いし。だが、人間というものに負ける悔しさを味わいたくない。俺を馬鹿にはさせない、という思いからそこらのチンピラには勝てるようしてきた。


「わ、悪かったよ!だからそいつ離してくれ!もう二度とやらねえから!」


「俺は人間なんて信じない。どうせ、俺を忘れた頃にまたやるんだろ?じゃあ今のうちに壊しとくのも、今後の為じゃないか?」


「本当にしない!もしやってしまったらお前のところに行く!それこそ、殺されたって構わない!」


「…そう。じゃあ僕は今回の一件、見なかったことにするよ。」


そうして男を離し、もう一人の男に向き合う秀人。その男は秀人に対して、意外な行動をしてきた。


「これ、俺の生徒手帳だ。逃げも隠れもしない!だから少しだけでもいい、信じてくれ…」


「はぁ。そんだけの事ができるなら、なんで猫に石を投げるのかな?馬鹿としか言いようがないし、そんな奴はろくでもない。」


「…そうだな。自分勝手な言い分だ。とにかく、生徒手帳は置いていくし、こいつも連れて帰る。」


「そうしてくれると助かるよ。もうそいつに、いや君たちには関わりたくないから。」


二人組は去っていった。残った秀人は猫を見て安心する、幸い投げられた石は本当に当たらなかったようだ。


「ニャー。」


「良かったね、これからは気を付けなよ。人間なんてろくでもないから。」


そう告げて、秀人は帰路につくのであった。後ろから着いてくる、さっき助けた猫には気づかずに…

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