第22話 次の目的地

■9月17日 08時20分


「起~きろ~」


リーが空気砲でナヤのみぞおちに一撃を加える。


「ゲフゥッ!?」


ナヤは眠気が一気に吹き飛ぶと同時に、うずくまる姿勢にかわる。


「え? お? あれ!?」


辺りをきょろきょろと見回すナヤ。


「そうか、あのまま寝ちゃったのか。」


初めての体験だった。

魔獣がいる世界では、野宿なんて絶対にできない。


でも、シンが〝呪のサカズキ〟を破った今だからこそできる経験に、本当に魔獣がいなくなったのだと実感する。


「起きたか。先に飯食ってるぞ。」


そう言うシンは、ナヤの持ってきた即席麺を袋から取り出してバリバリと食べている。


「まぁ悪くないが、濃い味だな。」


「それ、お湯を注いで柔らかくして食べるんだよ。」


「そうなのか?」


そんな話をしていると、リーが話題を変えた。


「なぁ、クァイの〝光のサカズキ〟やけど、たぶん女神教が持ってると思うねん。

 クァイがやられたのはギャレットが見たんやろうけど、〝光のサカズキ〟がどこに行ったのかわからへん。たぶん、ギャレットが見たのはクァイの死体だけなんやと思う。もしそこに〝光のサカズキ〟があったんなら、ギャレットが回収してないはずないもん。」


「だとしたら、どこかで保管してるんだろうな。

 ヒトじゃ〝光のサカズキ〟を使えないし。」


ゴクリと飲み込んで、シンは続ける。


「うーん、どこにあるかわからないっていうのは厄介だな。

 俺が寝てる間に襲ってきたっていう、マルスってホシタミのこともある。なるべく早く、なるべく多く〝サカズキ〟を手に入れたいけど……」


「倉庫にしまってあるとかやったらお手上げやな。ただ、少なくとも使ってはないわ。どこかでマナが吸い取られている様子はないし。まぁ、マナが自然と湧き出てるとこで使われてる可能性はないこともないけど。」


ひらひらと宙を舞いながら、リーは話を続ける。


「あとは、ミスワの〝水のサカズキ〟もやな。

 あの洪水のあと、ヒトが見つけているか、どこかに流されてしまったかはわからんわ。」


ナヤは寝起きの水を二、三口飲んだ後、スティック状のお菓子を食べながら話を聞く。


「光……なら〝奇跡の祠〟っていうところがあるんだけど、もしかしたらそこにあるのかも。」


「〝奇跡の祠〟?」


「そう、二十四時間、マナの光が岩の隙間から溢れている祠があるんだ。森の中で、かなり目立つからみんな知っている有名な祠だよ。

 でも、女神教の聖域に指定されていて、進入禁止になってる。

 学校とかでは、濃縮されたマナが自然発光しているって説明されてるんだ。実際、高濃度のマナの蒸気が蔓延しているから、普通のヒトじゃ入ってもすぐに中毒になってしまうんだけど。でも、今にして思えば、〝サカズキ〟を誰にも取られないように保管するには、うってつけの場所だよ。」


ナヤはそういって、水でお菓子を一度お腹に流し込み、飲んで口元をふいた。


「以前、とある探検家が防護服を身にまとってそこに入ろうとしたんだけど、女神教の人達に捕まって投獄されたんだ。未遂だよ? 実際には足を踏み入れてもいないし、入る用意をしていただけで懲役3年。ただの危険地帯にしては、ちょっと罰が厳しすぎるなと気にはなってたんだ。

 怪しいことは間違いないかな。」


「なんや、あんた詳しいな。それに急に早口になったし。」


リーがやや引き気味にナヤに言った。


「ええっと、実は将来、弁護士か検察になりたくて、気になった裁判の新聞を切り抜くのが趣味で……」


ナヤは急に恥ずかしくなり、顔を赤らめた。

その横で、シンは頭の中で話を整理して、目にやる気の炎を宿した。


「よし! それなら、取りに行こうぜ!

 で、場所はどこだ?」


「聖都アマザがあった場所、その南にある森だよ。行こう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る