第21話 支配されゆく感情

■9月17日 07時30分


目が覚めたマルスは、自身の違和感に気づいた。

手足が震え、感情が高ぶる。


この感情は、怒りだ。


理由はいくつか思い当たるが、なぜここまでの怒りが沸いてくるのか、わからなかった。


「ガアアアアア!!!!」


怒りに任せて叫ぶ〝雷のサカズキ〟を手に取る。


「ignite!!」


そう叫ぶと、万雷を一気に開放する。洞窟に雷鳴が轟く。

この洞窟は、スサノオのミイラがあった洞窟だ。ナヤとリーの戦いから一夜が明けた。雷速で竜巻から逃れ、休むことなくここまで移動してきたのだ。マナの濃度が高い場所であれば、回復速度も速い。なんとかたどり着いたこの場所で、眠りについていた。


「なんだ、これは……?」


しかし、傷は治ったようだが、どこかおかしい。

自分の感情が制御できない。

抑えられない怒りが身を包むとともに、体中が内側から軋むように痛い。


「許さんぞ、あいつらぁあああ!!」


突然口をついて出た言葉に困惑する。

自分が言うつもりのない言葉だった。


何が起こっているのかわからない。


ただ、自分の頭の中にはない感情が体を支配していることは確かだった。


「これは……何が起こっているんだ?」


そう言いながらも、おおよその事態は把握していた。

これはスサノオの感情だ。自分に移植したスサノオの細胞が叫んでいる。自分が乗っ取られるのではないか? という恐怖が押し寄せてくる。


「いや、そんなはずはない。これは私の体で、脳も私のものだ。」


(でも、相手は未知数の力を持つホシタミだ。もしかしたら……)


そんな悪寒と不安に襲われつつ、しばらく自己問答を繰り返し、自分の意思ではない言葉を叫びながら時間を過ごした。


しかし、しばらく考えて開き直った。


考えたところでどうしようもない。深呼吸をして、その感情と向き合う。

はっきりとした意識も思考力もないモヤモヤとした何かが、自分の中に感情だけを押し付けてくる。

相手は、ただ体の中で暴れまわっているだけだ。そして、その力はとてつもなく大きい。これまで感じたことのないマナの流れを全身に感じる。流れは均一ではなく、波がある。不安定なせいで制御はしづらいが、この力を自分のものにできればかなりのプラスになる。


勝手に動きそうになる体も、気を張っていれば抑えることができる。


「スサノオ、お前の力、利用させてもラうぞ。」


滝のような汗を流しながらそう言うと、刀を持つ手に力を込める。

全身に雷を帯電させ、刀を真上に突き上げると、雷が波打つように天井を覆い、瞬く間に巨木を炭にかえた。


上空に飛び上がり、巨木を粉々に粉砕して上空に浮く。


「次こそは負けなイ。必ず、〝草薙剣〟ヲ手に入れる。」

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