第20話 "水のサカズキ"

■9月17日 08時15分


水の都。


溢れ出る地下水の恵みで商業都市として栄えていたその場所は、今は灼熱の地獄と化していた。

魔獣除けの装置も破壊され、なだれ込んでくる魔獣に荒らされ放題となった都市の地下、用水路をアマツは歩いていた。とてつもなく長い迷宮のような水路に、フラストレーションが溜まる。


「水源の位置さえわかっていれば、一気にそこまで壁を壊していくのだけれど。」


そう文句を言いながらひたすら先へと進む。

目の錯覚などを巧みに利用し、とにかく水源がわからなくなるような工夫を施されたこの用水路にたどり着いたのは昨日の昼過ぎ。途中で一度仮眠をとったが、それ以外の時間はひたすらこの水路を歩き続けていた。


そしてついに、巨大なアーチ状の柵にたどり着いた。

『女神教関係者以外立ち入り禁止』という看板が掲げられている。


「関係者……ねぇ。」


アマツは鉄柵に触れると、いとも簡単に焼き切り、奥へと進んだ。

そこには巨大な井戸があり、清らかな水が溢れていた。井戸の底は見えないが、ここで間違いない。


「古代から清澄な水が絶えず溢れる都と聞いてピンときたけど、やっぱりここにあったのね。〝水のサカズキ〟。」


かつてヒトに起動され、暴走して大洪水を起こした〝水のサカズキ〟は、その後ヒトに回収された。

ヒトでは〝水のサカズキ〟を扱えないが、暴走状態にある"サカズキ"は周囲にマナさえあれば、マナを水に変え続ける性質があったようだ。そこで、生き残ったヒトは、マナが自然と湧き上がるこの場所に〝水のサカズキ〟を設置し、水源として活用していたのだ。


「ミスワ、ここから出してあげるわ。」


アマツは井戸の中に飛び込むと、超高熱で水を沸騰・蒸発させながら一気に底まで降りて行った。

そして、井戸の底にある杖を手に取り、その力を自らの燃え盛る手足に吸収した。


「これで三つ……。〝呪のサカズキ〟はいつでも回収できるから、実質四つね。」


地下通路を破壊して地上に出る。

すると、妙なことに気がついた。つい一日前まで町に溢れていた魔獣が今はいないのだ。

町のヒトをもう殺し尽くしたからにしても、一匹もいないのはおかしい。


「……まさかっ!」


嫌な予感がする。

もしかすると、シンが〝呪のサカズキ〟にたどり着いたのか? マルスという線もあるが、あの程度の男がザップの呪いを破れるとは思えない。

シンが〝呪のサカズキ〟を手に入れたために、魔獣という呪いが解かれた線が最も濃厚だろう。


慌てて〝呪のサカズキ〟のある北の大地に向かう。


その道中も魔獣を一匹も見ない。

そして、たどり着いた先にあったのは、二つに砕かれた大剣だった。


「こんな場所に、なんの当てもなく来るはずはない……。どうやって気づいたのかしら。」


悔しさから歯を食いしばる。

予想以上にシンの行動が迅速だ。これでシンの持っている〝サカズキ〟は少なくとも渦と呪の二つ。そうなると、どう考えても〝雷のサカズキ〟一つしか持たないマルスではシンに敵わない状況だ。

それに、シンに〝サカズキ〟の場所を感知する方法があるとしたらまずい。自分も知らない〝サカズキ〟の在り処を、シンが知っているということになる。先を越されないようにするには、早めに自らが打って出るしかない。


「これではもうマルスには期待できないわね。……直接対決しかない、か。」


アマツはそうつぶやくと、炎の四肢を翻し、今最もヒトが集まっているコラクに向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る