第23話 "光のサカズキ"

■9月17日 09時30分


〝奇跡の祠〟までの旅は、本当にひとっ飛びだった。

シンが二つの〝サカズキ〟を手に入れたこともあるが、ナヤがリーと協力したことも大きい。ナヤも、自分でコントロールできる力で飛ぶ分にはかなり恐怖も軽減されるようで、余裕を持ったフライトになった。


「お、今回はへたってへんな。」


着地の後、リーがからかうように言う。


「おかげさまで、ね。」


ナヤとリーが打ち解けている様子を見て、シンは内心で嬉しく思っていた。

ヒトを恨んでいたリーは、ナヤに触れて、心を開いてくれた。きっと、マイヤもこうなることを願っているはずだ。そのためにも、彼女を止める力が必要だ。


「ナヤ、もうここは祠の近くなんだよな?」


「うん、あとはあっちに進めば……」


そうナヤが指を指した先から、パキッという音が聞こえてきた。

そちらに目をやると、百メートルほど先から、銀色に輝く甲冑に赤いマントの集団がこちらに向かって歩いてきていた。手には剣や槍、弓などが備わっている。咄嗟に草陰に身を隠したが、先ほどの着地で場所はバレバレのようだ。


「なんやあいつら?」


リーが殺気立った声を出す。


「あれは女神教の兵団……!? どうも、ただお話をするために待っていた様子ではないね。」


シンとナヤが「ignite」と言って〝サカズキ〟を起動させる。それを察知し、兵団の足が止まった。

そうすると、部隊の奥から一人の男が前に出てきた。その兜には、大将の証である輝く十字星が刻まれている。


「我が名はイナバ!! 貴殿らに問う! ヒトの敵か否か!!」


威勢のいい声でそう叫ぶと、剣先をシン達に向けた。


「いきなり剣を突きつけるとは失礼なやっちゃな。軽くシバこか?」


「いや、ちょっと待って。あのヒトって……」


リーの周りに風が集まっていくが、それをナヤが制止した。


「イナバさん、僕らです! ナヤとシンです!!」


ナヤが草薮から身を乗り出し、続いてシンも出てきた。

二人の顔を見て、イナバは目を見開いていた。


「君たちは、あの時の! 突然いなくなったから驚いたが、どこに行っていたんだ!?

 親御さんは旅に出たとしか聞いていないっていうし、こんな時だから心配していたんだぞ!」


イナバは二人に駆け寄ると、鎧のままめいっぱい抱きしめてきた。


「痛いです! っていうか、イナバさん、大将になられたんですか?」


「ん? ははは、これは他にやるヒトがいないっていうか、死ぬ前の冥土の土産ってやつだよ。ここで、〝サカズキ〟を狙うアマツ様を食い止める部隊だからね。要は確実に死ぬ特攻隊さ。」


「ってことは、やっぱりここに〝光のサカズキ〟があるんですね!?

 実は、僕らはアマツ様を止める力を集めるために旅をしていたんです。」


「んなっ!?」


「そうだ。今、俺たちは三つの〝サカズキ〟を手に入れている。あと一つで半数を取れる。〝光のサカズキ〟は、まだここにあるのか?」


シンがイナバの目をみて訴える。

しばらく思案した後で、イナバはマントから杖を取り出した。


「君……いや、あなたは……ホシタミなのですね。」


「ああ。八人の英雄の一人だ。……って、自分で言うのは恥ずかしいな。」


苦笑いをしながらシンがそう答えると、イナバはシンの前に傅いた。


「やはりそうでしたか。

 あの時は、多くのヒトを救って下さりありがとうございました。人智を超えたあなたの力に、もしやとは思っていましたが、お話をする間もなく。」


そう言うと、手に持っている杖をシンの前に差し出した。


「この〝光のサカズキ〟は、あなたに。

 私たちの罪は、本来私たちが受け、跳ね返すべきものです。そのために、私はこの〝サカズキ〟を持ち、死を覚悟してここでアマツ様を待っていました。」


「持っていたってことは、〝サカズキ〟を使う気だったのか?」


「はい。アマツ様が水の都アクロスを襲撃し、住民を皆殺しにしたという伝達が入り、すぐにここで待機していました。

 というのも、入院していたため生き延びていた女神教団の上層部から、あの地に〝水のサカズキ〟が、そしてここに〝光のサカズキ〟あると聞き出しました。

 であれば、アマツ様は必ずここへも現れる。そのときに、今一度対話をし、それでもヒトの罪を許してもらえぬというならば、刺し違える覚悟でした。」


「ヒトの罪……って、ヒトがアマツ様にしたことを知ってるの!?」


ナヤが驚いて声を出した。


「ええ。むしろ、ご存じないのですか?

 アマツ様が復活した翌日、マルスというホシタミが、テレビですべてを語りました。八人の英雄に、かつてヒトがした裏切りのすべてを。」


シンとナヤが顔を見合わせる。


「復活した翌日っていうと、俺らがリーの洞窟にいたときか。」


「マルス……あいつの目的は何なんだろう?」


イナバは、テレビの内容と事の顛末を簡単に説明して聞かせた。

マルスが、自分がアマツを復活させたと言ったこと、アマツを大聖堂跡地に呼び出したこと、そして、二人が戦闘になり、マルスがなす術もなく敗北したことを告げた。


「マルスはもともとヒトだったのに、ギャレットの力を引き継いでホシタミになった……? それで、アマツ様を復活させたけど、ヒトとの共存で決裂した……?」


ナヤが腕を組んで状況を整理する。


「まぁ、前に言ったけど、あいつのんはギャレットの力なんかやないな。間違いなくスサノオから力を引き継いでるわ。

 あいつとマイヤが対峙した時、マイヤもスサノオの気配を感じるって言ってたんやろ? やっぱり、あいつのマナの源はスサノオや。」


リーが声を出す。


「そもそも、ヒトとの共存を目指すんやったら、なんでマイヤを復活させたんや? 協力できるとも限らんのに、わざわざ復活させるか?」


シンはしばらく考えると、ゆっくりと口を開いた。


「たぶんだけど、事故だったのかもな。」


「事故?」


「そう、どうやったのかは知らないが、スサノオの力を手に入れてホシタミになったとしたら、次に欲しくなるのは〝サカズキ〟だろう。

 それで、手近な〝炎のサカズキ〟を手に入れようとして、間違えてマイヤを復活させた。そして、その後どこかで〝雷のサカズキ〟を手に入れて、マイヤに挑んだけど敗北した。

 ……これなら辻褄があうよな?」


その言葉に、一同ははっとしたが、ナヤが疑問を投げかける。


「なるほど。でも、それならどうしてアマツ様は、マルスの〝雷のサカズキ〟を回収しなかったんだろう? イナバさん、何かご存知ですか?」


「その辺りはなんとも。戦いの途中で取材カメラも破壊されて報道陣も生き残りはいませんので、マルスが何とか逃げ延びたのか、それとも何かの取引があったのかはわかりません。」


「ま、どちらにせよ、マルスが一つ、マイヤが三つ、そして俺とナヤがこれで四つの〝サカズキ〟を持っている。マルスとマイヤが組んでいるとしても、対等以上の戦いができる。」


そう言うと、シンはイナバから受け取った”光のサカズキ”を握り締めた。


「伝令! 伝令!!」


そう叫びながら、市街地の方から兵士が駆けてきた。


「コラクにアマツ様が出現! 迎撃した部隊は全滅しました!

 その上で、『シンが出てこなければ、この都市に住む人間を順に殺していく』との発言をしています!」


「それって……!」


皆がシンの顔を一斉に見る。


「ゆっくりしている時間はないな。」


そう言って杖の先から出る光を籠手にあてる。眩い光が炸裂したかと思うと、徐々にその光が籠手に収まっていった。


「これで、〝渦呪光のサカズキ〟……ってところか。」


シンが腕を何度かグーパーと動かして感触を確かめる。


「待たせたな、急ごう! ナヤ、リー!!」


「うん!」


ナヤもリーを握りしめ、準備万端だ。


「ご武運を!」


イナバがそう言うと、シンとナヤは軽く会釈をして、飛び立っていった。


「頼みます……アマツ様を止めることができるのは、あなたたちしかいない。」


そうつぶやき、イナバはしばらく空を見つめていた。

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