とりあえずライバル出しときゃええんや
「当該機は違法な時間退行を行った疑いで、対アリオート人型討伐兵器を改造した女性型オートマギア一機を捜索中のドロイド・ポリスである。情報提供を求む」
数日前――公園前で美原ユヅキの前に現れた小学生くらいの少年は、出会うなり不愛想な顔でそんなことを言ってきた。顔立ちは極めて端正で、プラチナブロンドの髪からして明らかに外国人。名前を聞くと彼はこう答えた。
「当該機は対アリオート人型殲滅兵器、アンゼイル96ヱ型である」
だいぶぶっ飛んだ自己紹介だったが、心当たりのなかったユヅキは「服装もコスプレっぽいし、何かの遊びかな?」と深く考えず、残念ながら心当たりがない旨を伝えた。
「ごめんね、力になれなくて。お詫びと言っちゃなんだけど、これあげる!」
「……分析。スクロースを主成分に着色料と香料を配合した固形物。糖分接種サプリと推測」
ユヅキの好物菓子、いちごキャンディー。のど飴も兼ねて常に鞄に入れているそれを一つ渡し、その日のユヅキは帰路に就いた。
しかし翌日も彼は同じ場所を中心に周囲を歩き、片っ端から同じ質問をしていた。容姿の可愛さからマダムや女子たちからは可愛がられていたが、彼の表情は一切変わらない。結局、変な遊びをしている変な子としか扱われていなかった。
ユヅキは少しだけ好奇心が湧き、彼がどこに住んでいるか確認しようとこっそり様子を覗いてみた。しかし、待てど暮らせど彼は特定のどこかへ向かうこともなく、人通りがなくなり日が沈み始めても公園から出る様子がない。
流石に気になったユヅキは彼に話しかけてみた。
「ねぇ、君。おうちはどこにあるの? 帰らないとお父さんとお母さんが心配するよ?」
「否定。当該機に父と母に該当する個体は存在しない。また、特定の居住場所は存在しない」
ユヅキは割と何も考えずに彼を自分の家に連れ込んだ。
両親のいない家なき子ということは、自分が飴玉を渡したその日は既に公園で野宿をしたということである。放っておける筈もなかった。彼は当初同行を拒否したが、両脇を掴んで捕まえると抵抗せずすんなり運べてしまった。
(飢餓状態って感じじゃないけど、すっごい軽い……)
まる首裏をつままれた猫のように大人しい彼を連れ込んだユヅキは彼をお風呂に入れ、ご飯を食べさせ、寝床を用意して寝かせた。ユヅキの父は現在単身赴任中で、母は実家の祖母の体調が思わしくないということで家を空けている。なので家族に知られることなく面倒を見る事が出来た。
翌日、ユヅキは彼と色々話をした。
「96ヱ型って名前じゃ変だから、クロエって呼ぶね!」
「当該機はそのような名前ではない」
「オート・マギアって女の人を探してるんだよね?」
「当該機とユヅキの間に認識の齟齬が発生している確率90%」
「その……知り合いとか、お泊り先とかのあてはあるの?」
「ドロイド・ポリスは無補給で活動可能なため、休息を取る拠点を必要としない」
よく分からないが、家出した姉のオートちゃんを見つけ出すまで家に帰れない的なサムシングとユヅキは認識した。一人が心細いからなにかのヒーローの真似をして誤魔化しているのだろう。
「なんて健気な男の子なのっ!!」
「当該機とユヅキの間に認識の齟齬が発生している確率99%」
普段ユヅキはこんなドチャクソ天然女ではないのだが、クロエの美貌が彼女を狂わせてしまったのかもしれない。クロエはそれほどまでに顔立ちが端正で、女子の恰好をすれば女の子に見えそうなほどだった。
当のクロエだが、「今後同様に活動しているとユヅキのような人間に行動を阻害される可能性あり」と判断し、仮の拠点としてこの家に住むことを承諾した。
ここまでの間にいくつか法律をかっ飛ばしているが、実際にはクロエによる若干の情報、認識操作がここで行われている。ただ、クロエはユヅキに好感を持たれたり要求に忠実になるような思考誘導は一切行っていない。
実はドロイド・ポリスはそういうことをしてはいけないのだ。
こうしてユヅキとクロエは同居生活を送っている。
一人っ子であるユヅキからして、クロエは超かわいい弟みたいな認識である。
まず、クロエの無表情な顔がいちご味のお菓子を食べたときだけキラキラに輝くのがたまらなく可愛い。
次に、ぶつくさ文句を言うのに結局素直に言う事を聞いてくれるのがとても可愛い。
最後に、何もしなくても見ているだけで可愛い。
(最近ゴローん家にはミーニャちゃんがいて、昔みたいに騒げないしなぁ……)
幼馴染の家の小さな変化も相まって、ユヅキはクロエにぞっこんだった。
ちなみに、クロエの探しているオート・マギアの外見的特徴について聞いてみたが、返ってきたのは「外装が変更されているとの情報あり。現在の外見的特徴は女性型であること以外不明」という回答だった。
(つまり、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんないしお父さんが性転換と整形を繰り返して……そんなに波乱万丈な人生を送っていたなんてっ!!)
なお、読者にはいわずもがな、このオート・マギアちゃんの正体はみーにゃである。まさか自分の家の居候の探している相手が幼馴染の家に居候しているとは欠片も思っていないユヅキだった。
一方、クロエは今後の行動について困っていた。
(捜索対象のオートマギアがどの程度の装備、設備を過去に送り込んだか特定が困難。また、ドロイド・ポリスがドロイド・ポリスの誕生以前の時代に送られた前例はない。調査に当たって文化の壁が大きい……潜伏するオートマギアを発見するにはやはり、この家を出る方が効率的……しかし……しかし……!!)
クロエの視線がちらりと冷蔵庫へ行く。
その意味を察したユヅキが笑顔で立ち上がった。
「おやつのいちごソースプリンが食べたいのね? いい時間だし、一緒に食べよう?」
「了承する」
言って、まただ、と内心で困惑する。
クロエは本来食事の必要がない万能兵器である。一応は食事によって栄養素を得ることは出来るが、動力源から発生するエネルギーの方が圧倒的に多く、正直食事のメリットはない。
しかし、クロエの舌にはどうしても忘れられない味があった。
(迂闊だった……!! 知的好奇心から口にした現地人のサプリにあれほどの中毒性があったとは……!! あの甘酸っぱさ、あの香り……いちご!! 未来には存在しない悪魔の果実だ……!!)
ある意味、あれが淘汰されて歴史から姿を消したのは必然であるかもしれない。事実、あの味を知ってしまって以来、クロエはいちご味のものが貰えると思うと頭より先に体が反応してしまっている。
(ああ……またいちごに魅入られる!! し、しかし当該機のスプーンを持つ腕が止まらない……甘い、酸っぱい、おいしい!! うわぁぁぁぁぁぁ!! 当該機はドロイド・ポリス失格であるぅぅぅぅ!!)
(本当にいちごが大好きなのね、クロエったら……そこが可愛くて、ついついあげちゃんだけどね!!)
こうしてみーにゃを追うドロイド・ポリスは現地人にあっさり餌付けされてしまったのであった。
そして、遠距離から望遠盗聴機能で二人様子を見る小さな影が一つ。
「あらあらうふふ~。もうドロイド・ポリスが追ってきてるのね~? ターゲットの情報集めだった筈が、とんだ大物だわ~?」
作業の効率化が役割なのに口調がのんびりなめーにゃは、柔和な笑みでさっそくこの情報を家へ持ち帰ることにするのであった。
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