とりあえず問題先送りにすればええんや
ちょっとコンビニに行って帰ってみると、みーにゃたちが全員集合していた。顔を突き合わせて何やら話しているが、普段は余り見ない光景だ。
「ウカツでした。まさかドロイド・ポリス……それも最新型のアンゼイル・タイプまで投入するとは!!」
「一か八か、最終決戦モードで早期決着を図るべきかも!」
「スペック差が大きすぎる。直接戦闘は避け、懐柔策か人質を使うべき」
「まーにゃちゃんには悪いけど~、直接決戦の場合勝率は5%を切るから現実的じゃないわね~。うふふ~」
何やら物騒な内容が聞こえたので僕はコンビニロールケーキ片手に割って入る。
「何の話だ?」
「あ、ますたぁ! 大変です、未来が過去に殲滅兵器でミヅキさんがいちごです!!」
「解せぬ」
様々な情報を端折りながら一度に伝えようとした結果、肝心の内容が全く入ってこない。アンドロイドの癖に人間みたいな横着しやがって。仕方ないのでまむめーにゃに視線を送ると、すぐに意図を察してか説明してくれた。出来のいい子だよ本当に。
「【発音を禁じます】が違法なタイムスリップを行った事を検知した未来の組織が追っ手を放ってきたってカンジだよっ!!」
「……あれ? タイムスリップはパラレルワールドへの分岐を生むから未来と直接関係ないんじゃないの?」
「それは実際に『基軸』のない時代へタイムスリップを敢行して初めて判明した事実。送る側は行き先の観測が出来ないため、無意味な事をしている事を証明できない……一度お姉ちゃんが説明したし」
「はぁ。じゃあ相手は未来の警察か」
「しかも~、相手はアンゼイル・タイプ~。 対アリオート人型殲滅兵器よ~」
いや、未だにアリオートって何なのか全然分からん。
何度も聞こうとしているのだが、そのたびに用事が入る、話が逸れる、突然近所を喧しいバイクやドゥンドゥン大音量の音楽を窓を開けて垂れ流す車が通る、発情した猫のフギャフギャが聞こえるなどの熾烈な妨害が入るので最近ちょっと諦めかけている。
「みーにゃも元なんちゃら兵器だろ? 同じようなもんじゃないのか?」
「ますたぁ、みーにゃは元『討伐兵器』です! 討伐と殲滅では戦いの規模が違いますよ! 討伐は事態の収束を図るための行動ですが、殲滅は敵が一人もいなくなるまで攻撃を加えること!! パトカーと戦車くらい違います!!」
「……マジか」
そんなやばい奴がいるのなら早く問題を解決しなければいけない。
「という訳でみーにゃ。自首してこい」
「ガーン!! 薄情な一言にみーにゃ大ショーック!! い、いいんですかますたぁ!? ドロイド・ポリスは未来の痕跡を消す為にまむめーにゃと天井の時空間跳躍弾頭諸共完全破壊し、自分も自爆する気ですよ!?」
「んー、そう言われるとなぁ」
冗談半分で言ったものの、流石にこの四人との生活が長くなったせいか彼女たちがスクラップになる光景を想像すると罪悪感が湧く。しかし、そんな物騒な兵器たちの戦闘には万が一にも巻き込まれたくない思いはある。
こちらの煮え切らない態度に焦ったみーにゃは手をばたばた動かして必死に説得を試みる。
「よく考えてください、ますたぁ!! ど、ドロイド・ポリスは原因を取り除くまでが仕事なのです!! 既に発生した被害については管轄外なんです!!」
「というと?」
「ああもう、鈍いですねますたぁ!! 時空間跳躍弾頭が消滅しても天井の穴は消滅しないんです!! 空いたままですよ!?」
「バーロォテメェふざけんなや未来ゴルァッ!!」
(((変わり身早っ……)))
その話は流石に聞き捨てならない。
防音が完璧すぎるせいで忘れそうになるが、ここは賃貸アパートの上階である。天井に穴が空いたら生活でも困るし修理費を払わされ、いくら何でも親に怒られる。みーにゃとドロイド・ポリスが諸共爆発したら天井修理をする人がいなくなり、隕石説を主張しても穴をあけた物体そのものが消えるのだからどうにもならない。
これは意地でもドロイド・ポリスとやらと話をつける必要があると判断した僕は、テーブルに全員を集める。
「作戦会議であるッ!!」
「「「「おー!!」」」」
え? 事が起きる前に時空間跳躍弾頭を取り除いて修理して貰え?
甘いな諸君。この穴はみーにゃと僕の関係を繋ぐ生命線だ。故にみーにゃは絶対に弾頭をどかさない。
あと弾頭の冷暖房性能が部屋内まで補えるのと電気代かからないので浮いた分のお金を遊びに使える。この誘惑……学生の身で勝利することは困難なのである。
で、話し合い。
「ドロイド・ポリスってそもそも何なの?」
「言葉で想像がつくかもしれないですけど、簡単に言えばアンドロイドの警察です。但しアンゼイル型はその中でも特別中の特別。軍の最新型にして人型兵器の究極で、数も少ないしもうなんか色々特別です」
「ざっくりアバウトに来たな。えーと……つまり、そんだけドロイド・ポリスの上は過去改変のリスクを高く見積もっていた訳か?」
「そうですね。ドロイド・ポリス創設時点で『基軸』が制定されたのでドロイド・ポリス創設時期まで彼らは平行世界にズレることなくタイムスリップが可能になりました。当然その時代のドロイド・ポリスの協力も得られます。しかし『基軸』制定以前の時代へのタイムスリップは全面禁止されていて前例がないんです」
「半分ほど分からん話だが、ともかくお前の創造者はその禁を破った訳か」
「てへへ。そんなに褒めないでくださいよう……真面目な話をすると、計測器を使って幾度かの実験が行われましたが、送った地上座標を探しても計測器が見つからず、これが「基軸のずれによる平行世界への移動」なのか「次元の狭間ないしパラドックスによる消失」なのか判別が出来なかったので結果として安全性を確認できなかったのです。『未来に影響があるかもしれないし、ないかもしれない』。だから禁止だったのです」
「じゃあどうやってお前を追ってきたんだよ、ポリスはよぉ」
「【発音を禁じます】のデータを押さえているならとっくにみーにゃは捕縛・処分されている筈。となると、時空のひずみから逆算した時系列と座標に送り込んだんでしょうねぇ……いくら高価な兵器とはいえ、オートマギアもアンゼイルも人命ではありません。任務を終えれば現地で証拠が残らないよう自己崩壊です。帰ってこられなくてもお金で補填出来ますものね……」
「これがブラック企業の行き付く先か……」
どっかのSF作品みたいなどす黒いディストビアが一瞬垣間見えたのは気のせいか。日本の未来はかなりヤバイのかもしれない。しかしシリアス的なものはそこまでだった。
「とにかく! アンゼイル・タイプにとってもこの捜査は前例のないものの筈です! 本来なら無感情かつ事務的に職務をこなし処理するドロイド・ポリスと言えど、この時代では最低限の原則を守るので精一杯! 慣れない自己判断で行動せざるを得ません!! そこに付け入る隙がある筈です!!」
アンドロイドが希望的観測を語り出したが、まぁ、確かめてみないことには何も始まらない。
「ちなみに最低限の原則って?」
「現地時代民への攻撃、洗脳、その他の過剰な干渉行為です。物損も限りなく小さなものにしなければなりません。地面が多少削れるのはセーフ、メガネの粉砕はアウト! ますたぁを肉壁にすれば幾らアンゼイル・タイプと言えども!!」
「僕どっちかと言うと護衛対象だと思うんだけどなぁクソポンコツ!?」
「あ、ちなみにですね~」
めーにゃがのほほんと追加報告をした。
「投入されたのはアンゼイル96ヱ型でして~、空間攻撃や固有振動破壊とか出来ちゃう最強のハイエンドなので~、肉壁はあんまり効果ないんじゃないかと~」
「……」
「……」
みーにゃは力なく崩れ落ちた。不思議と同情はわかず、代わりに何故か「ざまぁ」の三文字が心を埋め尽くした。さぁ、ポンコツは無視して出来る娘たちことまむめーにゃと勝手に会議を進めとこっと。
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