一旦放置で

ギイィィンッ……!


新居の庭に鈍い衝撃音が響く。


「ぐっ……!」


もはや日課となった早朝訓練である。

最初はライヤが一人で素振りを行う程度だったのが、アンが来るようになって立ち合いのような形になり、いつの間にかフィオナも時折混ざるようになり、ヨルが来て怪我してもいいと多少の無茶は許可されるようになった。

ただ、無茶と言ってもヨルの許す限りであり、真剣の使用は禁じられていたりなどするが、ライヤはともかく、アンとフィオナ。

この二人は木刀であれ、当たれば致命傷になるような剣の振りをしている。

元々フィオナが使う剣はライヤやアンの使うものよりも大きなものという事もあり、重さではあまりにも分が悪い。


「なんか速くなってないか?」

「そりゃあね~。みんなが成長するのに、私だけ何もしないのは違うよね~」


連撃への対処が多少遅くなるのがフィオナの弱点だったわけだが、それが改善されている。

つい先日まではそれほど気にならなかったのに。


「うーん、良い手応えだね~♪」


機嫌よさげなフィオナ。

機嫌悪い時の方が珍しいが。

本人も成長を実感しているのだろう。


そんなフィオナを、ライヤは羨ましく思う。

ここ最近、自分に剣の成長が訪れていないと思うからだ。

人の成長は階段状のことが多く、それは上達すればするほど稀有なものとなる。

簡単に言えば、初心者であれば成長の階段が毎日、いや毎時間単位で現れるためほとんど坂のような形で表現できる。

しかし上達が進み、成長する余地が少なくなればなるほどその昇る段差が姿を現す頻度は下がる。


ただ、ライヤに関しては剣技はまだまだ発展途上のはずである。

まともに学びなじめたのは学園に入学してからであり、剣を振っているのもやっと十年に届こうかというところなのだから。

アンやフィオナのように物心ついた時にはもう握っていた人種とは違う。


「あんまり焦ることじゃないと思うよ~? ライヤだってかなり強くなったんだからね~?」

「そうよ? 最初の方は私の剣に反応すら出来てなかったでしょう?」


フィオナとアンが慰めてくれるが、ライヤの脳裏によぎるのはマリオットのお付きの騎士、ランボルの強さ。

魔法で誤魔化していたが、仮にライヤとランボルが正面から剣で戦ったとして、何秒もつだろうか。

五年前にランボルと対峙したときなら3秒がいいとこで、五年前のランボルと今のライヤが対峙すれば十秒はもつだろうと予想している。

だが、この前会った時のランボルのあの圧。

反応こそできていたが、斬りかかられていたら魔法無しで初撃を受け止められていただろうか。

ランボルほどの境地に至ってもまだ成長の余地があるというのに、成長の道筋が見えない自分の不甲斐なさが憎い。


「ライヤ!」


パンッ! とアンがライヤの頬を両手で挟む。


「ふぁい」

「これから数日は剣を持つのも禁止ね」

「えっ!?」

「そうだね~」


横でフィオナも頷いている。


「ちゃんと私も見張っていますから。これは没収です」


ヨルも訓練時に外していたライヤ愛用の剣を抱えて同じようなことを言う。


「いや、でも、訓練しないとどうにも……」

「思いつめてばかりいたら成長するものもしないわ。離れて得られるものもあるのよ」

「アンにもそういう経験が?」

「ないわよ? 私天才だもの」


なんという説得力のある言葉だろうか。





[あとがき]

夏休みがあるって……。

素晴らしいものだったんだなぁ(諦念)……。


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