遠い背中

さて、剣の修行を禁止されたライヤ。

じゃあ何をするか。


「ふぅ……」


魔力を全身に巡らせ、体の表面で自由に幾多の魔力球を動かす。

一定の動きではなく、それぞれを別々に動かすのは尋常でなく難易度が高い。

ただ、ここまでならライヤは学生時代に到達している。


「ふっ……!」


少し力むと、魔力球が体の表面から二センチほど浮かぶ。

魔力の制御は自分から離れれば離れるほど難しくなるのは当然だが、ただの魔力球だとその難易度は格段に跳ね上がる。

これが仮に火球であったなら魔力に火という形を持たせているので一気に簡単になる。

魔力そのものを体から離れて制御するのが難しいため、魔力そのものを飛ばして攻撃するというのは現実的ではない。

どうしてもやりたいなら手の平などに魔力を集めて掌底などと一緒に叩き込む方法が考えられるが、接触するほど近いのなら他にもいくらでもやりようはあるだろう。

より効果的な方法が。


しかし、この修練が魔力制御の上達に適しているのは言うまでもない。

純粋な魔力だけで制御できるなら、魔法として形にした時により制御しやすくなるに決まっているからだ。


「わぁ……! あ……!?」


僅かに開いた扉の向こうから感嘆の声と、声を漏らしてしまって口を塞ぐ声が聞こえる。

ライヤも気づいてはいたが、敢えて言及するまでもないかと放っておいたのだが、ここまであからさまになれば声をかけないのも不自然だろう。


「シャロン。気になるなら中で見てもいいぞ」

「……はい……」


魔力球は維持したまま声をかける。

のぞき見していたのはシャロン。

覗いていたことを怒られると思ったのか、普段よりも声はか細い。


「怒らないから心配するな。扉をちゃんと閉めなかった俺が悪い。折角だから、見ていけばいい」


それだけ言ってライヤはまた目を閉じ、集中する。

そんなライヤの脇にペタンと女の子座りするシャロン。

ライヤはシャロンが座った気配を感じ、徐々に魔力へと意識を移していく。

体の表面から浮かせたままだった魔力球は徐々に動き出し、ライヤの体の周りを廻り始める。





幻想的な光景を見ていた。

淡い光を放つ幾多の魔力球が宙を舞い、自在に飛び回る。

最初はどれがどの方向に動いているのかが見えるほどに遅かったが、徐々にその速さをあげ、今ではもう目に追えない。

自分も魔力制御が成長してきたと思っていたけが、この離れ業がどれほどの難易度なのか想像もつかない。

尊敬する先生がこんなに集中しなければいけないことである時点でその難易度は推して知るべしだが、あまりにもレベルが違いすぎてわからない。


「……凄いなぁ……」


目を閉じ、魔力光に淡く照らされているライヤの顔を見上げる。

その横顔に見惚れながら、拳をギュッと握る。



私も、もっと頑張らなくちゃ。




[あとがき]

牛丼食べたい。


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